14年目の春~善狐の里での騒動~
魔族の国は元ロガリア帝国の貴族の人間のせいで大打撃を受けていた。
食料と、次の年に植える種などがダメになってしまったのだ。
梢は食料と新しい種などを無償で提供しようとするが──
瘴気の噴出騒動が終わったが、ダメになった作物はダメなままだった。
なので、無償で私達は魔族の国に作物を提供することにした。
が、断られた。
無償でなく、対価を払いたいと。
そういうわけで、鉱山から見つかった鉱石を対価に私達は魔族の国に食料もとい貯蔵庫の作物を提供した。
あと、作物の種。
種も瘴気でやられて腐っちゃったみたい。
本当、ロガリア帝国の貴族はロクな事にしない。
うん、ゼスティア王国経由で文官志望の平民をよそっていたらしい。
本当はロガリア帝国の貴族なのに難民に紛れていたらしい。
もし、各地にまだ貴族の生き残りがいたら。
ちょっとぞっとする。
そんなこんなで、少し慌ただしく冬を過ごした。
そして──
『春ですよー』
『春ですー』
春が訪れた。
冬の雪が溶けていき、大地が潤う。
私は雪解けが早い畑を耕して種を蒔き、すぐに成長して二三日で収穫可能になった作物を収穫する。
いつも通りの日々が始まる。
「梢様!」
「一二三ちゃん」
慌てた様子でやって来た。
「実は里で災害が起きて……」
「え⁈」
うっそでしょう?
あそこは木霊の世界樹に守られているはず。
「悪狐が里に侵入して災害を起こしたんです、玉藻様のお陰でなんとかなりましたが、被害が酷くて食料が……特に主食が」
「あー……」
米だろう。
村ではパンが主食なので、米は私が趣味で作りまくってる分がある。
私は一二三ちゃんを米専用の貯蔵庫に案内した。
「これだけあるけど足りる?」
「は、はい! 実は田んぼも汚されてしまい、困っていたのです」
「大変だね、クロウに持って行かせるから呼んできてくれる」
「はい!」
一二三ちゃんはぱたぱたとクロウを探しに行った。
しばらくするとクロウと一緒に戻って来た。
「で、この米が入った袋、何袋持って行けばいい?」
「んー半分くらい?」
「宜しいのですか」
「食べるのは貴方達善狐の方々と、私の家族くらいだからね」
私が苦笑して言う。
一二三ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「クロウ、適当に他の作物も見繕って持って行って」
「分かった」
後の事はクロウに任せた。
村役場でロッズさんとシルヴィーナと駄弁っていると五郎さんがやって来た。
「梢様!」
「五郎さん、どうしたの?」
「本当に申し訳ない、こちらからお出しする物がないのに……」
「いやいや、此処に棲んでいる善狐さん達の故郷でしょう、大事にしないと」
「そのことですが、玉藻様がお話したいと」
「ほぇ?」
私は首をかしげた。
以前のように、あの鏡がある間に通され、鏡を見る。
『愛し子様、感謝いたします』
鏡に玉藻さんが映り、声が響く。
「いや、たまたま作ってただけなんで……」
『エンシェントドラゴン様のお陰で田んぼも元通りになり、種籾も頂けたので今年も田植えができそうです』
「それは良かった、でも悪狐って、悪さする存在が何で里に侵入を?」
『里の外で遊んでいた子ども達を人質に入ってきたのです』
「はぁ⁈ 最悪ですね!」
『お陰で里は甚大な被害を受けましたが、最終的に私の手で処分しました』
「オゥイエ」
処分か、深く聞かないようにしよう。
「えっと処分は置いといて、作物とお米とか足りましたか?」
『ええ、充分に』
「ならよかったです」
『愛し子様には頭が上がりませぬ』
「いいえ、お気になさらず」
『何かこちらからできることはありませぬか?』
「いえ、特には……」
『それでは私共の気持ちが収まりませぬ』
えー……
流石に荒れた村から貰う物って。
お酒は私は飲まないし、日本酒合わなかったんだよねぇ
「本当、大丈夫なので」
『……では村で私しか作れない身代わりの玉を愛し子様の家族七人分お作りしてお渡しします』
「身代わり?」
私は首をかしげた。
『命の危機に瀕するような事態に遭った場合、玉が代わりになり割れるのです』
「じゃあ、それでいいです」
『畏まりました』
通話が終わり、私は間を出て自宅に戻る。
「うーん、貰って良かったのか? ま、いいか」
自分で作れる気がしたが、言わないでおいたし、上手くいけばその玉の能力を複製して、村人に配ることができるかもしれない。
そうしたら村人はより安全に過ごせるはずだ。
「お母様」
「お母様!」
「お母様‼」
晃達が顔を出した。
「おおっとどうしたの?」
「今日はおにぎりが食べたいです!」
「私も!」
「おにぎりが食べたい!」
「ふふ、食いしん坊さんね」
私はお米を取りに行き、ご飯を炊く準備をしてからご飯を炊く。
そしてつやつやのお米がまだ熱いままの時手で取って塩をつけた手で握る。
具無しと、具あり。
海苔は無し。
内の子等は多分消化できるだろうけど、アインさんやティリオさんやアルトリウスさん達は消化できなさそうだから。
ふりかけ状の物も作っているので、それを混ぜて握ったりもした。
おにぎりを作り終わると、今度は味噌汁を作る。
具は油揚げと豆腐だ。
海藻は消化できないだろうからね、旦那達が。
それからほうれん草のおひたしなんか作ったりして夜ご飯は完成した。
勿論デザートに牛乳寒天蜜柑入りを作った。
冷やしてある。
「皆ーご飯よー」
「「「わーい!」」」
「今日は、米か」
「ニンニクは無いから安心して」
「助かる」
「米って不思議な美味さがありますよね」
「そうですね」
「お米は美味しいのです」
「おい、梢」
「うわ! クロウ!」
クロウがぬっと現れた。
「コレが渡すように言われた玉だ」
渡されたのはネックレスにできるように紐を通した玉だった。
私は事情を話して家族に配り、大事に持つように言った。
六人とも頷いて大事に身につけた。
クロウは気がついたら居なかったので食事を開始することに。
「「「「「「いただきます」」」」」
そういって食べるおにぎりは美味しかったし、味噌汁も美味しかったし、ほうれん草のおひたしも美味しかった。
できれば何事もなく過ごしたいなぁ、と思いながら私は塩むすびにかぶりついた。
魔族の国に続いて、善狐の里でもトラブルが発生しました。
ロガリア帝国の貴族ではなく悪狐と呼ばれる善狐と敵対する存在の手に寄ってです。
しばらくは里の外に出れないでしょうね、子どもたちなどは。
そして、梢はお守りを貰います。
かなり貴重ですが、梢が言う通り、複製できます、完全に。
梢は神々の愛し子ですからね。
ロガリア帝国の貴族もこれが最期だといいのですが、どこに潜んでいるのか分からないですからね。
悪知恵は働くので。
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