夏が終わり14年目の秋へ~梢の限界~
王族の方々が帰り、秋がやって来た。
梢は相変わらず畑仕事をしているが、無理をしていると判断されると強制的に休ませられる。
無理をしているつもりのない梢はクロウに相談するが──
夏は賑やかだった夏も終わりを迎えようとしていた。
「そろそろ帰らねばな」
正妃マリア様が呟く。
「私はもっと此処にいたいのだ!」
アルフォンス陛下が訴えるが、正妃マリア様は却下し、馬車にたたき込んで帰って行った。
「また来年も来ますね」
「イザベラ様、お待ちしております」
私はそう言うと、イザベラ様達を見送った。
そして秋が訪れた。
『秋ですよ!』
『秋ですよー!』
精霊と妖精達が元気よく空を飛び回っていた。
さて、秋と言えば何だろう?
勿論収穫の秋、だ。
芸術の秋や読書の秋でもあるけれど。
私似取っては収穫の秋が最も強いが。
村人達にとっても同じ。
毎日のように朝から晩まで収穫や狩りを行う。
そして、私は畑だけではなく家畜の世話もしている。
「織姫、新しいジャージつくってくれる? 頑丈な奴!」
ジャージがボロボロになってきたので、自分で作るのも億劫なので織姫にジャージ作成を依頼する。
織姫は頷き、ジャージを一日で仕上げてくれた。
そのジャージを着て畑仕事に勤しむ。
まぁ、無理してると判断されたら容赦なくお家でお休みタイム作られるけどね。
「無理したつもりはないんだけどなぁ」
私はぼやいてクッキーを食べる。
ミルクティーを飲みながら。
「お母様、無自覚!」
「そうそう無自覚!」
「自覚もって!」
子ども達に言われるが自覚を持てない。
何せ向こうの世界で強いられてきたことだ、早々簡単には未だ治らない。
「自覚持ちたいんだけどねぇ」
「今日もお父様に休憩させられてる!」
「お父様がいないと体壊しちゃう!」
「だから無理しないで!」
「うん、そうしたいな」
私は力無くぼやく。
子どもに心配をさせるのはどうかと思う。
が、治せないものをどうやって治せばいいんだろう?
ため息しか出ない。
「はぁ」
「とにかくお母様は他の方を頼ること!」
「お父様達でもいいしクロウおじちゃんでもいいし頼ること」
「うーん……」
「お母様、どうして頼らないの?」
「お父さん達もお仕事しているでしょう? だから何か手伝ってって言いにくくって」
「でも、お母様みたく無理はしてないよ」
「うぐ……」
痛い所を突かれる。
アルトリウスさん達も仕事はしている。
けど、自分の限界を理解しているので無理はしない。
逆説的に言えば──
私は自分の限界を理解していないってことになる。
「うーん……」
何度もクロウとやりとりしたが自分の限界を理解することができない。
その上、現在進行系でままならない状況だ。
子ども達にも心配をかけているし。
どうすればいいんだろう?
「ねぇ、クロウ。どうやれば自分の限界を理解できるようになる」
「難しい話だな、それはお前にとって」
クロウは難しい表情で言った。
「なんでぇ」
「お前の肉体には限界はない、あるのは精神の疲弊──限界だ」
「うーん……」
言われてみれば確かに。
吸血鬼だから体力は無尽蔵、普通なら。
「お前は無自覚に精神を削って働いている、その結果限界が訪れる」
「えーっとつまり?」
「お前は精神を摩耗して働いているのだ」
「えぇ⁈」
私好き好んでスローライフやってるんだけど⁈
「私自分で選んでスローライフやってるよ⁈」
「確かにお前は自分で選んでスローライフはしている」
「どゆこと」
「それ以外の要望や行事、お前にとっては苦痛なのだろう」
ぎくり。
バレてる。
好んで祭りに宴会とかやっているけど、実は準備がめっちゃしんどい。
あれやってこれやってとなると非常につかれる。
また村の人の相談事に乗るのもしんどい。
「つまりだ、お前は村長だが、名ばかり村長で居た方が良い」
「え、えー」
「書類は我らがやっているし、祭り事も我らで色々決めてお前は負担にならないようにしていくのが今の最善だ」
「で、でも準備楽しいし」
嘘じゃ無い。
しんどいけど、準備は楽しい。
考えるのも楽しい。
「楽しいだろうが、今のお前には負担が大きすぎる。楽になった頃にやるようにしろ」
「そんなぁ~~!」
私はがっくり項垂れる。
どうしてこうなってしまうのだろう。
「じゃあ祭りとかの準備もダメかぁ」
「ダメとは言っておらん、ただし一人ではやるな。色々考えて精神が摩耗する」
「うへぁ」
私は再度項垂れた。
「コズエどうしたのですか?」
「コズエいったいどうした?」
「どうかなさいましたかコズエ様」
アインさん達が家で待ってくれていた。
「子ども達は?」
「夜寝をしてますよ」
「そっか」
「何かありましたか?」
ティリオさんが言うので私は説明した。
「それはクロウ様に一理ありますね」
「ああ、その通りだな」
「コズエ様はお人好しですから、それで精神が摩耗するかもしれませんしね」
「そんなぁ」
私は再度項垂れる。
「自分の限界が分からないってこんなに辛いんだ」
「クロウ様曰く、コズエは痛覚の無い存在のようなものだとのことだ」
「痛覚がない?」
アルトリウスさん言葉に耳を傾ける。
「どんな存在でも痛みが痛覚があるから無理をせずにすんでいる、だが痛覚がないと痛みという緊急時の警告が出てくれないから骨が折れようが大怪我をしようが動こうとしてしまうそうだ」
「……たしかに、そうかもしれませんね」
「コズエは自分の精神の摩耗には疎い、他人が関わると敏感になるがな」
「ああ、確かに」
「むぅー」
アルトリウスさんの言葉にむくれる私。
「コズエ、事実なのですから受け入れなさい」
「そうですよ、コズエ様」
「はぁ……」
私が限界を理解するのはかなり時間がかかりそうだ、と心の中でぼやいた──
畑仕事でも「あれやってこれやって」とか色々考えてますよね。
それと同じでその思考も梢の疲労の原因になっています。
でも、いつか必ず良くなるでしょう。
梢も少しずつ成長しているんですから(内面的に)。
でも、今はまだ、ですね。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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