ある不安を抱く冬の日
雪の降らない冬の日。
梢は宴をやろうといいだし、夫達は賛同する。
家族総出で、料理を行い、村人にも手伝ってもらう──
「久しぶりに宴でもやろうか、温かいスープを出して」
雪の降っていない外を見て私はそう口にした。
「それはいい考えだ」
アルトリウスさんが同意する。
「じゃあ、豚汁と、コーンポタージュ、それからブラッドフルーツのスープの三種類を用意しましょうか」
「手伝いましょう」
「私も手伝います」
アインさんとティリオさんが言う。
「ありがとう、じゃあ──」
「かあさま!」
「ぼくらもてつだう!」
「おてつだい!」
晃達もそう言い出した。
私は笑みを浮かべて頭を撫でた。
「じゃあ、一緒に材料を取りに行くのを手伝って?」
「「「うん!」」」
私は子ども達を引き連れて保管庫へ行く。
冷え切ったそこにある材料の一部をアイテムボックスに入れ、残りを子どもらに持たせる。
そして出て、村の外にある炊事場に行く。
でかい鍋を三つ分用意して調理を開始する。
子ども達は危なくない程度にお手伝いをさせる。
危ないと判断したことはさせない。
不用意に怪我させる気は無いからね。
後、村人の方達にも手伝って貰った、大変だからね。
スープもとい、汁物の支度が終わると、パンを焼く。
焼きたてのパンは美味しいからね、汁物と合わせると、特にポタージュ。
豚汁にはおにぎりを量産して貰っている。
「さぁ、皆で食べましょう!」
「「「おー‼」」」
村人の歓声を聞きながら私達は汁物等をよそっていく。
豚汁におにぎり、パンにポタージュを持って行ったりしている。
うちの子は食べ盛りなので、三種類全部飲んで食べてしまった。
パンとおにぎりも食べている。
ついでにおかわりをしている。
食べ盛りの若者のようだ。
まぁ、お椀はちっちゃいからそれもあるかな?
「おかあさまはたべないの?」
「たべないの?」
「のー?」
「今交代して貰ってから食べるわ」
そう言って交代して貰い、まずは豚汁とおにぎりを頂く。
うん、相性抜群だ。
そして冷えた水でリセットして、パンとコーンポタージュ。
うん、パンが汁を吸って美味しい。
最期にブラッドワインのスープ。
うん、美味しい。
吸血鬼だからね。
「ふぅ」
一息ついて、空を見上げる。
雪が降らず、雲もない冬の夜空は綺麗だった。
ほんの少しだけ寒いけど。
「梢、少しいいか?」
いつもなら、スープを大きな器で飲み干しているクロウがやってきた。
器無しで。
「クロウどうしたの?」
「ムーラン王国の事なのだが……」
「まさか何かあった?」
静かに頷いた。
「ゴタゴタが思って居たよりも酷かった。イブリス神どうこうの話ではない」
「……」
「だが、梢。お前はイザベラと子ども達が不幸になるのを望まないのだろう」
私はもう一度静かに頷く。
「なら、もう少し時間をくれ、ドミナス王国にもそう話している」
「分かった」
イザベラちゃん達と子どもが不幸になるのは嫌だった。
もし、ムーラン王国が王国としての形を無くしたら、多分、ロラン君とイザベラちゃんは引き裂かれる事になるだろう。
無論、イザベラちゃんと子ども達も。
だから、それだけは避けたい。
神様、どうかどうか。
彼らを引き裂かないでください。
クロウ、どうか、良い方向に導いて。
私は祈った。
食欲は無くなった。
自室に戻り、神様にお供えをして祈るだけだった。
翌日──
「おかあさま!」
「おかあさま‼」
「おかあさま!」
子ども達が私の元にやって来た。
「どうしたの皆?」
「きのうきゅうにおかあさまいなくなったから」
「もどってきたけどどこかおかおがくらかったから」
「しんこくそうだったから」
「「「どうしたの?」」」
私は言おうとして止めた。
「何でも無いのよ」
「「「えー?」」」
納得しなさそうな発音をする子ども達。
何かこしょこしょと話合ってどこかへ行ってしまった。
「何処へ行くのー?」
「「「ないしょ!」」」
「森からは出たらだめよー!」
「「「うん!」」」
村の方へと走り去って行く子ども達を見て私はため息をついた。
「コズエどうした?」
アルトリウスさんが話しかけてきた。
「うん、ちょっと色々あってね」
「イザベラの事か?」
「分かっちゃう?」
「まぁ、昨日のクロウ様との会話を聞いてしまったからな」
「そっか」
私はため息をついた。
「このままだと、イザベラちゃん達が不幸になるんじゃないかって」
「確かにそれはあり得るだろう、ムーラン王国をドミナス王国が支配下にすれば、イザベラとロランは確実に別れねばならんだろうとクロウ様が言っていた」
「それが嫌」
「だろうな」
「それに、せっかく生まれた双子ちゃんも、お母さんであるイザベラちゃんと引き離されそうだし」
「それもあるな」
私は盛大にため息をついて頭を抱えた。
一体どうしたら良いのだろう。
私に何かできる事は無いだろうか?
こんな時、何もできない愛し子である自分の立場に腹が立つ。
「コズエ、そう自分を責めるな。今はクロウ様を信じよう」
「……うん、そうだね」
「「「おかあさま、おとうさまー!」」」
子ども達が戻って来た。
そして私に抱きつく。
「どうしたの?」
「なんか、だきつきたくなったー」
「なったの」
「アルトリウスおとうさま、だっこ」
「だっこだね」
アルトリウスさんは音彩を抱っこする。
そしてアルトリウスさんは微笑んだ。
私も、微笑み頷いた。
きっと大丈夫、そう信じて──
梢最初はのんびりしていましたが、クロウが食事をとってないことで深刻性を察知。
クロウもクロウで食事をとって休んでいる場合では無いということです。
ムーラン王国の反逆者を切り捨てる事で空白が生まれます。
そこに誰を当てるか、ソレを担当するに至る者はいるのか等の問題も生じるからです。
くさった果実を取り除けばいいという話ではなく、くさった家の木の部分をどう切除し繋げ直すか、という考えが当てはまるかと思います。
梢は、クロウを信頼し、神様に祈るだけですが、祈りはきっと届くはずです。
子ども達は何も分かってませんが、梢が深刻そうにしているのは理解して自分達なりに慰めている状況です。
梢の子ども達はお母さんである梢が大好きだから明るくしていてほしいのです。
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