12年目の冬~イザベラの幸福について~
12年目の冬が訪れ、梢は焦る。
イザベラ達が避難してきて二年が経過し、残り一年弱とタイムリミットが近づいていることに──
「では、愛し子様、後の事はお任せします」
「うん、冬眠中はゆっくりしてね」
「はい」
リザードマンの代表の方がいつも私の所に挨拶に来る。
代表の方はリザードマンの中で最も強い雄らしい。
何故と聞いたところ、神々の愛し子様のところに挨拶に行くならば、強くて立派な雄でないと失礼だ、とのこと。
うーん、リザードマンってよくわかんない!
けど、まぁいいか!
『冬ですよー!』
『冬ですー!』
冬が訪れ、冬眠していない村人達でリザードマンの家畜の世話をする。
雪かきもしていく。
「二年か……」
イザベラちゃん達が避難してきて二年目だ。
子どもが生まれて一年ちょっとだけど。
残りの二年近くでどうか無事にイザベラちゃんとロラン君がムーラン王国に戻れるようになっていればいいんだけど。
じゃないと不幸な事が起きそうで怖い。
どうか、どうか神様。
イザベラちゃん達の未来が不幸なものになりませんように。
お祈りするが返事はない。
まぁ、そうだろうなと思いつつお供え物をしてスマホでお供えする。
消えた物体をみて、ふぅとため息をついて部屋を出て行く。
「かーさま、どこにいくの?」
「イザベラ様のところよ」
音彩に尋ねられたので、私はそう答える。
「ぼくもいく!」
「ぼくも!」
「わたしも!」
三つ子達が言い出した。
「え、えー⁈」
まだ赤ちゃんちっちゃいだろうし、大丈夫なのか⁈
と、思いながらイザベラちゃん達の屋敷に向かう。
「コズエ様!」
チャイムを鳴らすとイザベラちゃんが出て来た。
「あら、お子様達も?」
「どうしてもついてきたいと言って……」
「せいれいさんたちからきいたよ!」
「せいれいとよーせいのいとしごだって!」
「わたしたちといっしょ!」
「へ?」
おい、そんな事聞いてねーぞ!
『ごめん、いとしごさま、いうのわすれてた』
精霊と妖精が申し訳なさそうな顔をしている。
「だから成長がはやかったのね!」
記憶を探ってみるとそんな気配はしてた。
私はイザベラちゃんの後についていき、イザベラちゃんと子どもの部屋にはいる。
「い、イザベラ、助けてくれ……」
「おんまー!」
「まー!」
ロラン君は双子ちゃんに乗っかられ、お馬さんごっこを強要されていた。
「こらこら、マリーローザ、カナン。お父様を困らせてはダメよ」
イザベラちゃんは双子を抱きかかえる。
さすがお母さん、双子をしっかり抱っこしている。
「まんま、おっぱい」
「おっぱい」
「中々卒乳してくれないんですよ」
「分かるわ、イザベラ様、私もそうだったから」
「コズエ様もですか」
「ええ」
そんな話をして私は子ども達抱え、ロラン君を引っ張って部屋を出る。
「おっぱいのんでるからみちゃだめなんだもんね」
「そうよ」
「おとうさんはみてたことあるけど、ふたごのおとうさんはだめなの?」
「いや、何となく連れて出ちゃったのよ」
「なんとなくなのー」
「いえ、連れ出してくださり、感謝です。ミルクの時間はイザベラは見られるのを嫌がるので……」
「あ、そうなんですか」
色々と子育ての愚痴を聞いていると、扉が空いた。
「コズエ様、お入りください。ロラン様も入っていいですよ」
そう言われたので入る事にする。
お腹がいっぱいになったのか双子ちゃんはベッドの中でうとうととしている。
「よく寝て、良く飲む子達ですから」
「なるほど、そうですか」
そう言えば、向こうの世界にいる次兄がそうだったな。
その結果、頭がぺったんこになったけど、後頭部が。
「イザベラ様、寝る向きを変えたりしていますか?」
「はい、勿論」
「なら、良かったです」
「マリアお義母様からよく言われましたから、寝る子は向きを変えないと頭の形が歪になると」
「マリア様からですか」
さすがは正妃だな。
「夜はリーゼとミーアが交代で双子を見てくれるの」
「あの二人も一緒に?」
予想はしていたが、あの二人もついてきていたのか。
「ええ、同い年で私に寄り添ってくれる侍女としてついてきてくれたの」
「それは良かったです」
そう微笑んでから、イザベラちゃんは寂しそうな顔をした。
「最初は、幸せな結婚を夢見ていました、でも現実は違いました」
「イザベラ様……」
「ムーラン王国は無くなってしまうのでしょうか?」
そこまで知っていたのか。
「クロウと国王様達がそうならないように力を尽くしています」
「それは分かっているのですが……」
「イザベラ様?」
「もし、ムーラン王国が無くなったらこの子達はきっと不幸になる、だからどうにか残したいのです」
「……」
確かにそうだろう。
ムーラン王国が無くなったら、精霊と妖精の愛し子とはいえその王族の血を引く子ども等とイザベラちゃんは引き離されてしまう可能性が高い。
勿論ロラン君の命の保証も少ない。
イザベラちゃんは大切なものをたくさん失う事になるのだ。
それはイザベラちゃんにとって良くない。
「クロウ、ムーラン王国の件はどうなっているの?」
私はクロウの屋敷を訪ねる。
「まぁ、ぼちぼち良い方向には──」
「絶対良い方向に進めて!」
「……何か思うところがあったのか?」
「イザベラちゃん達が不幸になるのは見たくない」
「そうか、ならこちらももう少し本気を出すか」
そう言ってクロウは居なくなってしまった。
「……本当、頼むよ。クロウ、神様」
私は祈った。
どうかイザベラちゃん達が不幸にならぬようにと。
リザードマン達は冬は冬眠します。
寒いですからね。
そして、梢は内心焦ってます。
イザベラ達のタイムリミットが一年弱になったことに。
もう少しで一年を切ることに。
ムーラン王国が無くなれば、イザベラ達は引き離されること間違いないでしょう。
下手をすればイザベラと子ども達も。
だから梢は何もできない自分に苛立っています、内心。
子ども達は、なにか母である梢がちょっと違うのも察しています、だからイザベラの元に行くときついて行ったのです。
そして最期に、梢はクロウに内心「最初から本気でやってよ」と思ってます。
それくらい、イザベラ達家族が大事なのです。
イザベラ達の幸福を考えているのです。
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