音彩の事情
音彩はカーリャとメルディと嬉々として遊んでいた。
そのために、早起きまでして遊んでいるという。
それを父親のティリオから聞いた梢は音彩の周囲を眺めていた──
「きゃっきゃ!」
「きゃっきゃ!」
「かわいいねぇ、かわいいねぇ♪」
音彩はカーリャちゃんとメルディちゃんにメロメロ。
そう言えば音彩より小さい子と音彩が会ったことなかったもんね。
ほとんどが音彩よりも大きい子ばっかり。
音彩はカーリャやメルディちゃんと遊んでいたいらしく、かなり早起きしているようだ。
情報元はパパのティリオ。
起きた時眠そうにするのに、カーリャちゃんとメルディちゃんを見ると目をキラキラとさせて一緒に遊ぶそうだ。
どおりで昼寝ならぬ夜寝の割合が大きくなったわけだ。
そして物陰から見ているのを察知──でもルキウス君じゃない。
あの夜の一族の衣装を着ているのは、アシュトンさん所のカイル君だ。
じっと見つめている。
音彩を。
あ、ルキウス君がやって来た。
またアタックしてる。
でも冷たくあしらわれてしょげて戻って行ってる。
カーリャちゃんとメルディちゃんがお母さん達に抱っこされて、来賓の館に戻った。
音彩はバイバイと手を振っている。
そして一人になるとぽけーっとしている音彩にカイル君が近づいた。
「ね、音彩ちゃん」
「ん? カイルおにーちゃん、どうしたの?」
「う、受け取ってくれる?」
普通の吸血鬼だから触れる花は一つ、ブラッドフルーツの花。
あれ、赤と白の花が咲くから結構綺麗なんだよな。
それで作った花冠を音彩に渡す。
音彩はきょとんとしてからにこっと笑った。
「ありがとう、カイルおにーちゃ、だいじにするね!」
「う、うん! ありがとう!」
……どうやらルキウス君にはちょっと勝つのは無理そうなライバルができたっぽい。
いや、あの反応どうみても無理でしょう?
音彩も嬉々として花冠を被ってるし。
しかし、ルキウス君どうしてあんなに嫌われてるんだろう?
まぁ、毎回毎回結婚して言われると嫌になるのは分かる。
カイル君は初めてなのかな、アレ?
私が見てないだけで色々話してるのかな、聞いてみよう。
夜ご飯を食べ終わり、夜寝をしたいという音彩を私が抱っこして寝室に連れて行き、棺桶に寝かせる。
「ねぇ、音彩。カイル君とは仲良しなの?」
「うん! カイルおにーちゃはやさしくてすてきなの!」
「へぇ、ルキウスくんは?」
「まいかいまいかいおなじことばばっかりだからやなの」
「同じこと?」
「『ぼくとけっこんして』『ぼくのせいひになって』ばっかり! カイルおにーちゃは『きょうはいいよるだね』とか『ブラッドフルーツのはながまんかいだからみにいかない?』とかそういういろんなおはなしをしてくれるの」
なるほど。
年齢差はそこまでないはずだ。
となると、やっぱり、普段の暮らしか。
カイル君は両親を良くみているのかな?
「カイルおにーちゃだったらけっこんできたらうれしい」
Oh、これは凄い発言。
後で、カイル君に音彩の事聞いてみよう。
この発言はぼかして。
そしてすやすやと眠った音彩を寝室に寝かせて、私は外へ向かう。
アシュトンさんの屋敷だ。
チャイムを鳴らすと中から「どうぞ」と声が。
「お邪魔します」
「コズエ様! これはこれは!」
アシュトンさん達が出迎えてくれる。
カイル君も、ちょっと戸惑いながら私に挨拶してくれる。
「いや、ちょっとカイル君とお話したくて」
「カイルとですか?」
戸惑うアシュトンさんの腕をレベッカさんが引っ張り、スピカちゃんの手を握った。
「では、私達は席を外しますね、カイル、しっかりやるのよ」
「あ、は、はい。おかあさま」
二人はレベッカさんに引きずられる形でその場を後にした。
「……」
「ごめんね、緊張させちゃって」
「い、いえ。あの、どのようなおはなし、ですか?」
「音彩と仲良くしているでしょう? 音彩のこと、どう思ってる」
「えっと、可愛くて素敵だなって……」
「ふふありがとう、音彩も貴方のこと気に入ってるみたいなの」
「ほ、ほんとう、ですか?」
カイル君は嬉しそうな顔をしつつ、戸惑いの声を上げた。
「ええ、これからも音彩と仲良くしてくれると嬉しいわ」
「は、はい!」
その後、ブラッドフルーツのゼリーの差し入れをして家に帰った。
家の寝室を見ると、ティリオさん、アインさん、音彩、晃、肇、の五人がすやすやと眠っていた。
私は起こさないように寝室を出て、下の階でのんびりする。
「機嫌が良さそうだ」
「あ、顔に出てた?」
アルトリウスさんに指摘されて私は困惑する。
「普通の者達には分からんだろうが、私は君の夫だ、気付くよ」
「もう……」
此処で惚気を聞かされると思わなかった。
「ヴァンダーデ家の子息が音彩に心動かされていると聞いたが」
「やだ、いつ?」
「半年位前に、母親のレベッカ夫人から聞いた」
「レベッカさん、だから行動早かったのね」
「スピカ嬢も気付いて居るようだが、アシュトン殿は気付いてない」
「ああ、だから引っ張っていったのね……」
全然気付いてる様子なさそうだったもん、アシュトンさん。
「まぁ、愛し子の子に恋慕の情を抱くとなれば大騒ぎだろうからな、そっとしておきたかったのだろう夫人は」
「分かる」
「だから、そっと見守って欲しい」
「うん、分かった」
私がそう頷くと、ブラッドワインをグラスに注いで渡してきた。
「今年もブラッドフルーツは豊作だな」
「ええ」
「君とこうして飲める時間が私の特権だな」
「確かに、私とアルトリウスさん、吸血鬼とダンピールだもんね」
私はくすくすと笑う。
人間のアインさんとティリオさんには悪いけど、そこは付き合いが少しだけ長いのもあると言うことで許して欲しい。
「かーしゃま、アルトリウスとーしゃま……」
ブラッドワインを飲んでいると音彩が下りてきた。
「音彩、どうしたの?」
「みんなきえちゃうこわいゆめみたの」
「それは怖い夢だね」
私は抱きしめる。
アルトリウスさんはホットミルクを作って音彩に渡す。
音彩はんくんくと飲んで、少し落ち着いたようだ。
「クロウおじちゃんがいなかったの、ママもいなかったの」
「……」
「おおきなどらごんがもりをめちゃくちゃにしちゃうの」
「教えてくれて有り難う」
私はアルトリウスさんに音彩を抱っこしてもらうと、クロウの屋敷に向かった。
どうも、ただの怖い夢だとは思えなかったからだ──
音彩の恋?模様のお話が出ましたね。
おませさんな所があるけれど、きちんと相手を見ての発言ですから音彩の発言は。
なのでルキウスには一切脈はありません。
残念ながら。
梢はカイルと我が子音彩を見守る姿勢をとるようです。
で、ほのぼのしてたら音彩が不穏な夢を見ました。
梢はそれに何かを感じ取ったのか、クロウの元へ向かいます、どうなるかは次回ですね。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
反応、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




