吹雪が防ぐもの
ムーラン王国のことはクロウに一任して、聞かないようにしている梢。
その間エルダードワーフのドーガスから酒の造り方を聞かれるが──
「コズエ様、お屋敷を建ててくださり有り難うございます」
「いいんですよ、ロラン様。それよりイザベラ様の事お願いしますね」
「はい!」
まだ若い二人だ、出産経験のある付き人達などがついているが、産婆経験のある人が悪意を持っていたのは軽くショックだったらしい。
まぁ、産婆ならこの村にはルズさんがいるから大丈夫だけどね。
他にも助産経験者いるしね。
それにリーゼちゃんとミーアちゃんも一緒だからイザベラちゃん安心しているし。
ムーラン王国が騒動になっているみたいで、クロウが度々飛んで行って何かしているらしい。
そして言うのは。
『お前は知らない方がいい』
の一言。
なので私は聞かない、聞かないったら聞かない。
クロウの「知らない方がいい」はガチで知らない方がいい案件だもの!
ロラン君達が聞こうとしてたから私は大慌てで止めた。
メンタルにも悪いし、胎教にも絶対悪い。
説得のお陰で誰も聞くことは無かったが、これでいいと思っている。
だって、怖いもの!
「はぁ……」
まだ雪がしんしんと降る冬。
雪かきとか大変だったりする。
子ども達は雪かきでできた山に登って遊んだり、無邪気だ。
そういう遊び場の雪はきっちり固めて作ってる。
じゃないと危ないので。
防寒着もこの私の村は充実してるので外にでて遊ぶということも普通にする。
それと寝具も暖かいし、家は夏は涼しくて冬は暖かいから凍死するなんてことは起きない。
クラフト様々でもある。
「ぐむぅ……」
エルダードワーフのドーガズさんが腕を組んで悩んで居るようだった。
「ドーガスさん、どうしたんですか?」
「のぉ、愛し子様。本当に作り方を教えられないんですか」
「え、ええ」
ドーガスさんは深いため息をついた。
教えられないこと。
それはお酒の造り方だ。
だって私だって作り方が分かっていないのに教えることはできない。
「ワインの作り方は分かる、だが焼酎の造り方はさっぱりだし、ブランデーやウィスキーなんかの造り方もさっぱりじゃ! 火酒よりも美味いこの数々の酒を造れんのが悔しくて堪らん! ビールはエールに似ているが何か違うし……」
「あー……」
少し考えて、私は口を開いた。
「私の製法は教えられませんがビールとかの製法は一部だけ教えられますよ」
「何⁈ 本当か⁈」
「ただ、新しく設備を作り直さなきゃいけないんですよね」
「むぅ……だが、作り方を一部教えて貰えるなら儂等でも作れるようになる!」
「まぁ、冬の今は大人しくしていてくださいね」
「おう、わかっとる」
ドーガスさんはそう言うと工房に戻っていきました。
嘘はついていない。
クラフト選択の画面のようなものでビール工房等が見えるし、作り方も分かるからだ。
ただ、クラフト小屋を超えるお酒は造れるかは不明だ。
『クラフト小屋で作った酒は超えられんぞー』
もしかして神様⁈
声がどこからか聞こえた、神様の声が。
『ほっほっほ、お前さんだけに聞こえるようにしておいたぞ。クラフト小屋はお前さんのクラフト能力と神の祝福が重なっている、そこで作ったものはどんな物よりも上品質にしあがる』
Oh。
ドーガスさん、申し訳ない。
『気にしなくても良かろう、何せお前さんは神々の愛し子じゃからの!』
こう言う時神々の愛し子というのがちょっと重く感じる。
その子どもである晃達は、私の重荷を背負わないで生きて欲しいけど……
大丈夫かな?
今度神様からの返事はない。
全く、都合悪くなると黙っちゃうんだから。
「かーしゃまー!」
「かしゃま!」
「かーしゃま!」
そりに乗って滑ろうとしている我が子達に手を振る。
「気をつけるのよー!」
「「「あーい!」」」
我が子達は返事をして「キャー!」と声を上げてそりで雪で作られた小山を滑り降りていく。
「「「もういっかい! もういっかい!」」」
「はい、分かりました」
ティリオさんが子ども達と共に山に登っている。
そりを持って。
そしてそりに三人が座ると、手を離し、そりは下っていく。
楽しげな子ども等の声を聞きながら私はイザベラちゃんの屋敷に向かう。
「コズエ様!」
「コズエ様!」
リーゼちゃんとミーアちゃんが出て来た。
「リーゼさん、ミーアさん。イザベラ様の様子はどう?」
「酸っぱいものが食べたいとおっしゃっています……」
「ただムーラン王国から持ち込んだ物はあまり口してません、毒が混じってる気がして食べられないと……」
「……そっか、レモンと蜜柑を持ってきたから」
「有り難うございます!」
「妊娠してから食が細くなって心配だったんですけど、ここのなら安心ですね!」
「なら良いのだけども……」
イザベラちゃん、大丈夫かな?
心配なので私は二人についていってイザベラちゃんのいる部屋に入った。
「まぁ、コズエ様!」
「イザベラ様、蜜柑とレモンをお持ちしました」
「本当⁈ ありがとう、コズエ様!」
イザベラちゃんは頭を下げた。
まぁ、妊娠してるから抱きつくことはできないだろうな。
お腹の子が心配だろうし。
イザベラちゃんは蜜柑やレモンを口にし、酸っぱい、美味しいといいながらぱくぱくと食べていった。
「ふーお腹いっぱい」
「イザベラ様、少し運動しましょう」
「ええ、部屋の中を散歩するわ」
「そうですね、外は寒いですから」
そう言って外を見れば、いつの間にか猛吹雪。
ブリザード。
何でだと、思うと村の入り口に黒い影が見えた。
村に無理矢理入ろうとしている。
「イザベラ様、ここで安静に、では!」
私はそう言って外に出ると、既にシルヴィーナとクロウが居た。
「クロウ! シルヴィーナ!」
「この吹雪は悪意ある輩を森に入れない為のものだ、お前は家に戻っていろ!」
「え、でも」
「コズエ様、クロウ様は貴方様に見せたくないものがあるから言っておられるのです」
「う……」
何となく想像がついた。
クロウはそいつらをどうにかするんだろう。
「分かったなら家に引っ込んでいろ」
「うん……」
私は吹雪の風に横殴りにされながら帰路についた。
「コズエ、お帰りなさい。分かっています、今日は甘えてください」
「子ども達はティリオに任せている、さぁ、おいで」
アインさんとアルトリウスさんに言われ、私は二人に言われてグズグズと泣いた。
まだまだ、守られる存在として弱い自分なような気がして少し嫌になった。
もっと強い自分になりたかったけど、そんなの無理だってわかりきってるから、この弱さを抱えて生きなきゃいけないのだと、思うと何も言えなくなった──
吹雪が起きた日のできごとの梢です。
雪がしんしんと降ってる時は村人やイザベラちゃんとやりとりしてのほほんとしつつも、我が子の将来を案じるお母さんでもあります。
ティリオはお父さんやってます、他の二人も。
そして吹雪いたのは森の結界の様なものです。
見ようと思えば梢にも見えるはずですが、クロウとシルヴィーナの言葉で見ずに帰ります。
ただ、守られている自分が弱っちく見えて梢のコンプレックスを刺激してしまいました。
なので夫達の出番です。
梢も生き方を変えたら生きやすいのでしょうが、そうじゃないから梢なのでしょうね。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
反応、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。




