梢の悩みと子ども達の欲求
梢はふと自分はアルトリウス達の妻でいいのかと言葉を零す。
それを聞き逃さなかった三人は、梢に問いただし──
「本当、私アルトリウスさん達の妻でいいのかな?」
「何があったコズエ?」
「どうしたのです、コズエ」
「何があったのですか、コズエ様?」
私がぽろりと零してしまった本音を三人は聞き逃さなかった。
失敗だ、一人の時にため息とかつけば良かった。
「いや、この間アルトリウスさんと話をした時、子ども達の巣立ちの話からアルトリウスさんの話が出て……」
「ああ、確かにな」
「うん、アルトリウスさん巣立つとかの前にイブリス教の信者にお父さんを殺されてリサさんと森まで逃げてきたから……」
「確かにそうだ」
「何か後ろめたくなって……」
「何にだ?」
「自分だけ生きづらさから此処に来たんだもん、アルトリウスさんやアインさんやティリオさんみたく生きるのに必死で逃げてきた訳じゃない……」
呟くように言うと、三人はため息をついた。
愛想尽かされたかな?
「コズエ、私がこの森に来たのは君という吸血鬼でありながら神々の愛し子が始祖の森を開拓していると夜と闇の精霊と妖精が言ったからきたんだ。君がいなければ私と母は流浪の民だったろう」
「そうですよ、私も神々の愛し子が始祖の森にいるという妖精と精霊達の言葉を信じ、それに一縷の望みを掛けて逃げてきたのです」
「はい、アイン様のおっしゃる通り。アイン様は指輪に呪いをかけてそして逃げてきたのです、命がけで。それをするだけの価値があったのですよ」
「……」
「そのきっかけを作ったのは他でもない君だ、コズエ」
「そうですよ、コズエ」
「だからそんなに自分を卑下なさらないでください」
少しだけ安心できた。
でも、やはり罪悪感は消えない。
どうすれば消えてくれるんだろう?
「かーしゃま? とーしゃま、かーしゃまいじめた?」
晃がやってきて、ぺしぺしとアルトリウスさんの足をたたく。
そんな晃を抱っこしてアルトリウスさんは語りかける。
「いじめてないよ、晃。コズエが自分のことを自分で責めているのだよ」
「そなの?」
「そうだよ」
「かーしゃまはなにもわるいことしてないよ、かーしゃまのおかげでみにゃくらせるって」
「うん、有り難う晃」
そう言って抱っこすると、晃はきゃっきゃとはしゃいだ。
てちてちと肇と音彩もやって来る。
「かーしゃま、だっこ!」
「かしゃま! だっこ!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
二人も抱っこする。
しかし、随分と重くなったなぁ。
これ吸血鬼じゃなかったら三人抱っこなんてできなくない?
もしくはよほど怪力なお母さんとかじゃないと。
そんなことを考えていると、ひょいひょいと晃達がアルトリウスさん達に取り上げられ、代わりに三人がだっこし始めた。
「三人も抱っこするのはコズエが重いだろう」
「そうですよ」
「私達もだっこしますから」
すると子ども達はばたばたし始めた。
「やーぁ!」
「かーしゃまがいい!」
「かしゃま!」
アルトリウスさん達三人、頭痛が痛い、じゃなくて頭痛そうな表情してるよ。
何故我が子達は私にそんなにべったりなんだろうか?
「どうしておかーさんがいいの?」
子ども達に尋ねる。
「かしゃまいそがち!」
「あそんでくれるのしゅくない!」
「でもあそんでくれるときはいぱいあそんでくれりゅ!」
「「「あしょんであしょんで!」」」
Oh、なるほど畑仕事で構えない時と構ってる時の差があるから、構って欲しがっているのね。
「じゃあ、二階で遊びましょう?」
「「「あしょぶー!」」」
三人を引き取り抱っこして二階に向かう。
そしてアルトリウスさんに扉を開けて貰い、遊び用の部屋のマットに子ども等を下ろす。
「さぁ、何して遊ぶ?」
「「「こうもりあそび!」」」
「こ、蝙蝠、遊び?」
「うん! こうもりになってとんであしょぶの!」
「みんなできるの?」
「「「うん!」」」
そうだ、そういやそうだった。
この子らもう蝙蝠になれるんだった。
三人は小さい蝙蝠に姿を変えたので、私も蝙蝠になる。
『おいかけっこー!』
『かーしゃまがおにー!』
『きゃー!』
小さいながらも力一杯飛んで行く蝙蝠な我が子達。
私は心の中でため息をついて、追いかけた。
『はい、晃つかまえた!』
『きゃー!』
晃を捕まえると、晃は私の体にしがみついた。
『音彩も捕まえた!』
『きゃー!』
音彩を捕まえると、晃同様私にしがみつく。
そして最期に肇を捕まえる。
『肇も捕まえた!』
『きゃー!』
全員捕まったのを確認すると元の姿に戻る私。
小さな蝙蝠三匹を見下ろしながら言う。
「はい、蝙蝠遊びはおしまいよ」
と言うと、きぃきぃと鳴いてぼふんと三人とも元の姿に戻った。
「次は何をする?」
「ちゅぎは──」
「疲れた……本当子どもの体力って無尽蔵だって感じるわ」
吸血鬼だからこの程度で披露感は感じないはずなのだが、メンタル的に色々疲れているのもあってか披露感が凄かった。
子ども等は疲れたのか棺桶に入って眠ってしまっている。
アインさんとティリオさんも遅くになったので既に眠っている。
起きて居るのは私とアルトリウスさんだけ。
「でもまぁ、子どもと居ると余計なこと考えずにすむわ」
「そうか」
「うん、お世話とか遊んだりとか面倒見たりとかでもう大変!」
「ああ、その通りだな」
そう言ってアルトリウスさんは私を抱きしめた。
「アルトリウスさん?」
「こう言う時、二人に悪いが我が儘で居させて貰うぞ」
「アルトリウスさんたら……」
「子どもができて三年以上経っても、君への愛は変わらない、愛している。コズエ」
そう言ってアルトリウスは私の唇にそっとキスをしました。
次目を覚ました時、何故かアルトリウスさんにキスされたことが二人にバレていたので二人ともキスすることになりました。
何故バレた?
梢の悩みと、子ども達と遊ぶものでした。
梢の悩みはやっぱり消えません、生き辛くて逃げて来たという後ろめたさがありますから。
他の方々と違うのです、ただこの部分はシルヴィーナは共感してくれます実は。
彼女も里が生き辛いと感じて逃げ出したのですから、長老達のいいなりの世界は嫌だったのでしょう。
梢の悩みはアルトリウス達が少し和らげてくださったようです。
そして子ども達。ママっ子です。
遊ぶ機会が少ないけど、遊んでくれるから好きといってますが、パパ達も一応そうなんですよね。
なので実は三人とも拒否されたとき軽くショック受けてます。
そしてアルトリウス達の愛情は、変わる事はありません、梢は梢ですから。
ちなみにキスがバレたのは梢の反応からです。
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