10年目の夏~ムーラン王国の内情~
春の日々が過ぎ、夏がやって来た。
ムーラン王国から、イザベラとロランが。
ドミナス王国から正妃マリア達がやって来た。
顔色の悪いロランを果樹園に案内し、果物を食べさせると──
春の日々は穏やかに過ぎていき──
終わりの時期になると手紙が2通やって来た。
一つはマリア様、もう一つはイザベラちゃん。
両方ともこちらを訪れたいというものだった。
今回はマルス王太子と妃さん達は子どもと共に留守番となった。
どうやら産まれたらしい、あの後。
お祝い送ったほうがいいかなぁ?
でもアルフォンス陛下は来ないらしい、よかった。
そして出迎える準備などをしながら畑仕事をしていると──
『夏ですよー!』
『夏ですよー!』
夏真っ盛りになった。
ちょっと熱い。
そんな時期に見慣れた馬車が二つ。
馬車に駆け寄るとイザベラちゃんが出て来た。
「コズエ様!」
「イザベラ様!」
抱きしめ合う。
「この夏も来てくれたのね」
「ええ、来ましたわ」
「有り難うございます」
そんなやりとりをしていると、ドミナス王国の馬車からマリア様が降りてきた。
クレア様も。
「イザベラ、元気で何よりだ」
「イザベラ、元気にしてたのね、良かった」
「お母様にマリア義母様!」
イザベラちゃんは二人にも抱きついた。
「こらこら、はしたない」
「ここでは誰も指摘しませんわ!」
「全くその知恵は何故こう言う時に働くんだ」
マリア様嬉しそうに笑ってらっしゃる。
「イザベラ」
「ロラン様!」
「さぁ、森へ行こう。ここで止まっていては通行の迷惑だろうしね」
「ええ」
再度馬車に乗るイザベラちゃんとロラン王太子。
同じように乗るマリア様達。
馬車は森の中まで入ってきて、いつもの来賓の館の前に止まり、荷物持ちの方やお世話係など必要最低限の方だけが出てくる。
出てくる人達に黒い靄も、嫌な気配も感じない。
いつも通りだった。
「コズエ様、私果樹園に行きたいですわ!」
「ロラン様は?」
「私はイザベラについて行きます」
「分かりました、どうぞこちらへ」
シルヴィーナはマリア様たちの対応をしている。
なのでそっちは任せた。
「きゃぁ! 凄い実ってますわ」
「これは何度見ても凄いな」
「お好きな果実を取って食べてみてください」
「いやその大きすぎて……」
「あ、それなら切れる物は切りますので」
と言ったら、二人はリンゴを指定。
私はリンゴをもぎ、皮をむいて、切り紙皿に乗せる。
「どうぞ、お食べになってください」
「ロラン様、食べましょう」
「あ、ああ」
ロラン君がどこかぎこちない、そう言えば顔色なんか悪いな?
そんな事を考えている間に、二人はリンゴに齧り付いた。
しゃくっと良い音が聞こえた。
「‼」
ロラン君の顔色が元の血色の良い褐色肌に戻った。
「毒が消えた!」
「はい?」
「実はロラン様、毒を盛られましたの。私は口に付ける前だったからよかったのですが、毒を口にしてしまったロラン様はそれから体調が悪くなり、中々回復することはありませんでした」
「……」
オゥイエ、なんてこったい。
そんな策略とかに巻き込まれてたのかよ!
「話は聞いたぞ」
「クロウ?」
一体いつから聞いていたんだ?
「犯人は見つかったのか?」
「いいえ、見つかりませんでした」
「ムーラン王国は少し王族の防衛管理が問題だな、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃいー」
「明日までには戻る」
そう言ってクロウは出掛けてしまった。
「見つからないっておかしくいよねー」
私は首をかしげる。
「毒味役はいるの?」
「はい、いますね」
「じゃあ、毒味役が犯人じゃないかな?」
「だと思われたのですが、それらしき道具は持っておらず」
「……其処はクロウに任せるか」
冷たいスープならともかく、暖かいスープなら薬を溶かして入れることができる。
勿論それは私の知っている薬だ。
こちらの薬も似たものがあるが毒薬となると──
「あ」
詳しい人、おるじゃん。
「毒味役を通過して毒を服毒させる方法?」
ティリオさんが復唱したので、私は続けて言う。
「もしくは毒味役が服毒させる方法」
そうやってティリオさんに聞くと、ティリオさんははとんでもない事を話始めた。
「特定毒という毒があります、それを作るには毒殺対象者の血や髪の毛などの肉体の一部が必要になります」
「特定毒?」
「ええ、結構難しい扱いの毒ですが、確実に対象者の命を奪うか体調を悪化させます」
「ティリオ様の言った毒かもしれないわ」
「あくまで仮定ですが、もし毒味役が毒を入れるのならそっちの方が簡単な毒があります」
「そうなの?」
「ええ、毒には色々種類がありますから」
「ティリオ殿は薬だけでなく、毒にも詳しいのですね」
「まぁ、色々ありましたから」
ロラン王太子はそれ以上ティリオに聞かなかった。
イザベラちゃんもそれ以上ティリオには聞くことはしなかった。
イザベラちゃん達を来賓の館へお送りして、リンゴも持っていき、家に戻る。
するとティリオが三つ子達をあやしていた。
「としゃま!」
「とーしゃま」
「とーしゃま‼」
「はい、お父さん、ですよ」
「ティリオさん……」
「駄目ですね、毒の話にはすらすら答えてしまう」
「……」
「軽蔑しますか? 毒で人々殺してきた私を?」
そう言ったティリオさんを私は抱きしめました。
「そんな事無いよ、貴方は生きる為にそれしか道を作らされなかった、漸く逃げる道を選んでここまでアインさんを背負ってきたんだもん、私は責められないよ」
何も知らずにのうのうと生きてきた私に、責める権利はない。
「……有り難うございます、コズエ様」
ティリオさんが涙を流したのでもう一度抱きしめ返しました。
神様、どうかティリオさんやアインさんに許しを──
ムーラン王国で何かが起きている様子。
クロウは無事解決できるのか?
そしてティリオの話、梢は許す許さないという資格を自分は持っていないと思っています。
何せ、此処で神様の庇護の元のんびりくらしていたからです。
だから、生きる為に暗殺を行っていたアインとティリオを責めることはなく、神様に許しを求めてます。
仕方なかったのです、と。
子ども達はいつも通りママとパパ大好きっこです。
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