善狐達の長、天狐の玉藻~梢が知らないこと~
秋の収穫祭が終わった翌日。
一二三に声をかけられる梢。
どうやら醤油造りの一家の次男坊の海翔と結婚する事が決まったそうな。
天狐に許可されてと言われて首をかしげる梢。
そんな梢に一二三は天狐が梢と話したいと伝えてきて──
秋の収穫祭が終わった翌日。
一二三ちゃんが、醤油造りをやっている所の次男坊の海翔さんを連れてきた。
「梢様」
「どうしたの一二三ちゃん?」
「私、海翔様と結婚する事になりました」
「え⁈」
ちょっとぉ、そんなそぶり無かったじゃん!
「えっといつ決まったの?」
「大分前です、私の尾が二つになったとき、天狐様から許可されました」
「……それでいいの?」
親じゃなく天狐の長に結婚相手を許可されるとか、時代錯誤にも見えた。
いや、善狐の村じゃ当たり前なんだろうけど。
「はい、ですから──」
「天狐様が梢様とお話したいと」
「……はい?」
来てない存在とどうやって話すんだこれ?
と私は疑問に思った。
通されたのは、善狐の方に作られた神社、その中に入ると透き通った鏡があった。
綺麗に磨き上げられており、私の姿が映る。
普通は映らないのに。
「では、私達はこれにて」
そう言って一二三ちゃんと海翔さんが出て行ってしまう。
「うーん、何か居心地は悪くないの、変なの」
『さすがは神々の愛し子様というべきか』
「⁈」
声に反応して、鏡を見ると金色の髪に四つの尾の女性が映っていた。
正座してるっぽいので、私も鏡の前に正座する。
『貴方のことはよく知っている、だから私から名乗りましょう。私は玉藻、善狐の村の長をやっております。天狐でございます』
「は、初めまして玉藻様、私は御坂梢、梢と申します」
『玉藻で結構でございます。愛し子様』
「あ、で、では玉藻さん」
玉藻さんは微笑まれた、それから真面目な顔になって──
『まずは感謝をば』
「感謝?」
『木霊の神山の世界樹を復活させてくださったことに感謝を、神山を復活させてくださってくれたことに感謝』
そう言って玉藻さんは頭を下げた。
「えっとそれは……」
此処に来て大分初期の事なのですっかり忘れていた。
確かに、クロウと一緒に残っている神森と神山に世界樹の苗を植えて定期的に巡りながら育てていた。
「あれは、私一人じゃ無理で、クロウが乗せて乗せて飛んでくれたからで」
『エンシェントドラゴン様からお話は既に伺っております』
「うへぇ⁈」
クロウ何話したの⁈
『我らが望むのは、送り出した善狐達を住まわせてくださいませ。どうか末永く、叶うなら永住を』
「わ、私は良いですけど、来た善狐の方々は良いのですか?」
帰りたいヒトが居ないとは言いがたい。
『そのことは大丈夫です、永住する覚悟がない者は送り出しておりません』
「なら、良いんですが」
不安がないとは言えない。
『何かございましたら、この鏡を通してくだされば私と会話ができます。それと鏡の前には誰か必ず居ますので』
「わ、分かりました」
うー権力者というかそういった方々と話すのは緊張するー!
「あ、そうです。聞きたいことがあったんです!」
『何でしょうか?』
「一二三さんと、海翔さんの結婚は玉藻さんがお決めになられたとか」
『それは少し語弊がありますね、結婚を許したのです』
「へ?」
『あの二人は恋仲で、善狐同士です。他種族の場合は私は許しできませんが、そうでない場合結婚を許可する役割を私がしています』
何か重要な話を聞いたぞ?
と言うか恋仲とか今聞いたよ⁈
「えーと何故他種族は駄目なんです?」
『善狐は他の種族とは子を成せないのです、子が要らなくてもという場合なら許しますが、大抵上手くいきません』
「ワーオ」
思わず白目をむきそうになる。
『それを目当てに我らの子を誘拐しようと行動する馬鹿がいますが、我らは迷いの守りに守られ、擬態の守りも持って居ます。そんな馬鹿共は森で死にますからね』
また、重要な内容聞いたぞ、神様もクロウも何で教えてくれないの⁈
『我が同胞達をどうか宜しくお願います』
「は、はい!」
やりとりを終えた私は何かぐるぐると行き場のない感情を抱えていた。
皆して私に隠し事して!
「うがー!」
家に戻り、自室に入って奇声を上げる。
やり場のない怒りをどうにかしたくて、机に額を打ち付ける。
「何だ梢また奇行か?」
クロウがまたノックもせずに入って来た。
ノックしやがれ!
「うるさーい! 色々と黙ってた癖に! 善狐の長の玉藻さんから色々聞いてるんだぞ! しらばっくれても駄目だかんな!」
「ちっ、バレたか」
「一二三ちゃんと海翔さんが恋仲だったのも、善狐が他の種族と交われないのも色々聞いたんだからな!」
「口止めしておけば良かった」
悪びれないクロウのことが頭にきた私は、机にあった板を手に掴んだ。
「少しは反省しやがれ、この馬鹿!」
「~~⁈」
鉄っぽい物体だったから、折れなかった。
クロウは頭を抑えて呻いているけど。
「少しは加減をしろ‼ 我以外だと脳みそがぶちまけているぞ‼」
「え」
うそ、そんなに力入れていた?
「全く……普段怒ることが無いから、怒った途端力加減ができんのだ」
「う……」
確かに普段怒るようなことはない。
寧ろ周りに叱られる方が多い。
でもよくよく考えたら私吸血鬼なんだよなぁ……
力強いのが当たり前なんだよねぇ……
「しばらく、子育てから離れろ」
「え?」
「お前が怒っても我慢できるか、力を加減できるまで訓練だ」
クロウはそう言って私の首根っこを掴んだ。
「わー! 何でこうなるのー⁈」
「自分の行動と力の制御ができんのを呪え」
そう言われて私はクロウに連れて行かれた。
一ヶ月程訓練が続き力加減ができるようになったし、我慢もできる用になった。
が、クロウ限定で加減ができないという状況になったのにはクロウに呆れられた。
お前が悪いんじゃ!
梢ちょっと勘違いを起こすお話。
許可されたので決められて起きたと思ったらしいですが、実際は恋仲で結婚しても大丈夫だから許したというものです。
それでも、ちょっと梢的には時代錯誤な所がありますよね。
そして色々な事実を聞かされ、クロウが知っていた事にウガーっとやり場のない苛立ちを感じる梢。
クロウの態度に鉄板でクロウを殴ったところ怒った時の力加減ができてないと叱られ、特訓させられる羽目に。
特訓の成果でたけど、クロウにだけは加減できないというオチがつきました。
多分日頃の行いですね。梢に隠し事したり、困惑させたりするから。
ここまて読んでくださり、ありがとうございます。
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