夜の都から来客~ベアトリーチェの呼び出し~
秋の収穫祭も夜が更けて終わりを迎えた事、来客がやって来た。
ベアトリーチェから一族の者だと聞かされる。
何で教えてくれなかったかと問いかければクロウが原因で──
秋の収穫祭も夜が更けてきてお開きになる時間帯に来客はやってきた。
「愛し子様」
「ベアトリーチェさん?」
「今来たのはおそらく家の一族の者だ」
「え?」
ベアトリーチェさんに言われて変な声を出してしまう。
「クロウ様にはお伝えしていたが、愛し子様はお忙しいようだから伝えるのを止めていた」
「うへぇ⁈」
ちょっとクロウ⁈
「クロウ何考えてるの⁈」
「悪意がなさそうだからお前にはいわんでおいた、ちなみに来るのはあのエリザベートの義母、だ」
「え」
ヴェロニカさんの胃痛の元になっていたエリザベートさんの嫁ぎ先のお母様?
なんでそんな人が?
「マルファスに長が代わってどうなったのか知りたいとベアトリーチェが呼んだそうだ」
「ベアトリーチェさん……」
「すまない、愛し子様。言うべきと思ったのだがエンシェントドラゴン様に口止めされてしまってな」
「ちょっとクロウ?」
クロウは悪びれもしない顔をしていた。
腹立つな!
「もー一言くらいいってよ! お客さん出迎える準備もできてないじゃない!」
「というと?」
「服装よ、私の! この姿で出迎える訳にいかないでしょう⁈ ちょっと着替えてくる‼」
「別に我らは気にしないのにな」
「私が気にする‼」
そう言って急いで家に戻り、出迎え用のドレスに身を包む。
化粧も薄くだがする。
そしてクロウとベアトリーチェさんとともに森の入り口に向かう。
「ヴィオレ、よく来てくれた」
馬車から降りていたのは赤いドレスに身を包んだ、美しい金髪の長い髪に赤い目の女性だった。
「ベアトリーチェ様、お招きいただき光栄です。そして愛し子様とエンシェントドラゴン様、失礼致します」
「村で派手な行動やおかしな真似はするなよ」
「く、クロウ」
一応釘を刺してくれるのは嬉しいけど、困る。
何が困るのかはうまく説明できない。
「えっと私は御坂梢、梢と申します。こっちのはクロウって言います」
「コズエ……梢様、極東の御方ですか?」
「ま、まぁそうなりますね」
「あまり梢の詮索をするな」
クロウが女性──ヴィオレさんに再度釘を刺した。
「しかし、噂には聞いていたのですが、本当に吸血鬼なのですね、愛し子様は」
「え、ええ……」
私は言葉を濁しつつ答える。
「ヴィオレ、私の要件で呼んだのだ、早く私の家に向かうぞ」
「畏まりました」
ベアトリーチェさんの家ってあの一軒家だけど大丈夫かなぁ?
とか思って居るとクロウが私の頭をぽんと撫でた。
「我が同行する、お前は戻れ」
「うん」
クロウが一緒に居てくれるなら大丈夫だろう。
私はクロウがベアトリーチェの家の方へ向かうのを見て自分の家に戻り、いつものジャージ姿に戻る。
子ども達がわちゃわちゃとやって来たので私は子どもを抱きしめて頬ずりする。
そして空っぽになった鍋などを見て後片付けをお願いして、家に戻った。
「ベアトリーチェ様、このような一軒家で宜しいのですか?」
「良いのだ、私が自ら愛し子様に頼んでこの家にして貰った」
「……」
「ヴィオレとやらベアトリーチェの言っていることは事実だ、実際作る際梢は屋敷でなくていいのかとすら聞いた位だ」
「そういうわけだ」
クロウがベアトリーチェの言葉を補強し、ベアトリーチェは頷いた。
ヴィオレは困惑した表情をしていた。
「まぁ、難しい顔をするでない、この村特産のブラッドワインでも飲むといい」
「よ、宜しいので?」
「愛し子様のお陰で余る程あるのでな」
ヴィオレはワインボトルのコルクを抜き、グラスにブラッドワインを注ぐ。
クロウは梢から貰っていたシードルをボトルで飲み始める。
「さぁ、飲むと良い。都の最高品質のブラッドワインが残念な物だと感じるぞ」
「で、では……」
ヴィオレはグラスを傾けた。
わずかに飲んだ瞬間目を見開いた。
「な、なんですかこのブラッドワインは⁈ 今まで飲んだもののどれよりも美味いじゃありませんか!」
「いっただろう、だから土産は要らんと言ったのだ」
「分かりました、その理由が」
「まぁ、ブラッドフルーツもブラッドワインも梢が作ったものだからな」
「全て愛し子様の手製⁈」
ヴィオレは驚きの声を上げた。
「まぁ、そうだ。ブラッドフルーツもこの村の物はどの物より品質がよい、生で囓っても問題ないしな」
「生で⁈」
「愛し子様はよくやっておられる」
「確かに、初期はよくやっていた」
クロウは否定をしなかった。
「で、本題は?」
「そうだ、ヴィオレ。エリザベートはどうしている?」
「ガエウスも厳しく接しているし、私も厳しく指導している」
「逃げだそうとしていることは?」
「無いな。私の蝙蝠と、ガエウスの蝙蝠が常に見張っている」
「随分と厳しく接しているのだな?」
クロウはシードルを飲み干してそう言った。
「アレが我が儘すぎるので其処を厳しく躾治しているだけです」
「我が儘に育てたのは直系孫故だからな、私の責任でもある」
「ふむ」
「だから私は長を退いた、命令などを下し、マルファスに譲った」
「ほとんどの連中はマルファスの厳しい指示に悲鳴を上げていますよ、我が一族は」
「お前はそうではないのだろう、ヴィオレ」
「そうですね、元々厳しく躾ていましていましたから」
「だろうな」
ベアトリーチェもグラスを傾ける。
そして飲み干す。
「ああ、美味い」
「……ベアトリーチェ様がここを終の棲家にしたのは正しかったと思います」
「何故だ?」
「誰も吸血鬼ということで差別する者はいません」
「そうか、そうだな」
わずかな村人との接触でそれを理解したヴィオレに、ベアトリーチェとクロウは少しだけ驚いた。
「今日は無礼講だ、飲み明かそう」
「はい」
「では、我は戻ろう」
「お気遣い感謝致します」
クロウはベアトリーチェの家を後にした。
「クロウ、ベアトリーチェさんとヴィオレさんは?」
寝付いた三つ子を覗き込んで居ると、クロウがやって来た。
「無礼講で飲み会状態になっているだろう」
「そっか、ならいいか」
私がそう言うと、クロウは私の頭をぽんと撫でた。
「?」
「無理はするなよ」
「しないよー」
「どうだろうな」
クロウは呆れながら部屋出て行った。
失礼な!
事前に言うとあれこれ頭を悩ませるのでクロウは教えなかったのが事実です。
でも、梢からすると直前に言うな! って感じが強いですけどね。
それから、梢の作ったブラッドフルーツとワインはやはり吸血鬼達が住まう都のワインよりも遙かに上物だというのが今回も分かります。
最期に、クロウが梢の頭をぽんと叩いたのは無自覚に無理をしてるのを心配しているからです。
梢は信用されてますが、無自覚に無理する点には信用されてませんから。
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