新たな住人~9年目の秋目前~
秋の訪れを感じさせる少し前に、クロウが村へロッズの世話役の使用人をつれてきた。
そのうちの一人である、アリーという侍女がイリスと遭遇するとトラブルが発生し──
『秋ですよー』
『秋になりましたー』
と、精霊と妖精が言い合う頃になった。
その少し前に、ロッズさんがクロウのお眼鏡にかなった従者を連れて、クロウに乗せられてやって来た。
アリーさんに、ベンさんと奥さんのリーンさん。
この三人だけだったとクロウは言った。
アリーさん達は畏まって私に挨拶をしてくれた、そしてアリーさんはイリスさんの屋敷を伺いたいといったので案内した。
すると──
「お嬢様!」
「げぇ⁈ アリー⁈」
イリスさん、凄い嫌そうな顔。
「お嬢様、もう少し説得するということをなさってくだされば、お母様は心労がたたって無くなると言うことは無かったのですよ?」
「文句はあのクソ親父に言ってくれ! 私は悪くない! ……母上に心労をかけたのは事実だが……」
「旦那様には何度もおっしゃいました、貴方様が受け入れなかったからお嬢様は駆け落ちなんて行動に出たのだと」
イリスさん、少し不服そう。
そこからアリーさんの話は続いた。
味方が居たのに、それを活用しなかったイリスさんも駄目な所があるとかまぁ、色々。
また、自分達も味方だったのに、相談すらしてくれなかった事も含めてこんこんと説教は続いた。
「あ、あのーアリーさん。その辺にしておいてくださいな。イリスさんはお母さんなので、母親としての仕事が残ってますので」
「イリスお嬢様、何人子どもを育てる身になられましたか?」
「……男女二人」
「分かりました、私もお世話します、いずれ社交場に──」
「アリー! イリスの子育てには口をだすでない!」
「何故です⁈」
嫌そうな顔をしたイリスさんがした時、ロッズさんが口を出しました。
それにイリスさんは驚いている様子。
「イリスと夫のグレイス、そしてその子等はこの森でのびのびと暮らすのだ、必要なマナーはイリスが教えてるだろう」
「しかし、それではイリスお嬢様が社交場に復帰──」
「イリスは復帰するつもりはない、もし儂の側に居たとしても社交場にはでることは無かっただろう。イリスはこの森で子ども等と夫を愛し、そして年老いていくのを選択したのだから」
「父上……」
「だから、儂らがどうこうするべきでは無い」
ロッズさん、いつもの情けない雰囲気とは真逆だ。
これが本来のロッズさんの姿なのだろうか。
「分かったらアリー、余計なことはするな」
「……畏まりました」
「アリーさん、夕食の準備が終わりましたよ」
「アリーさん、ロッズ様、荷物ほどきと運び入れ終わりました」
「ベン、リーン。よくやった。アリーお前は儂の世話役として連れてきたのだ、エンシェントドラゴン様も言っておっただろう、森に住んでいるイリス達に極端な干渉はするなとな」
「……分かっております」
「ならよいのだ。ベンとリーンも、イリス達とのやりとりには気を付けよ」
「畏まりました!」
「はい、畏まりました」
イリスさんは盛大に息を吐き出して屋敷に帰っていった。
私は心配になってイリスさんの後ろをついていった。
そして屋敷に入る。
「愛し子様!」
「いとしごしゃま!」
「サフィロくんに、ペルラちゃん元気いっぱいだねー」
「はい!」
「うん!」
ニコニコ笑っている二人の頭を撫でる。
それを見て、イリスさんは少し落ち着いたようだった。
「アリーは苦手だ」
「見ていてそう思いました」
「味方になっていたのは母の侍女だったからだろう」
「はぁ……」
「亡き母は侍女達を味方に付けるのが得意だった、母は私とグレイスを否定しなかったが、その分あの馬鹿親父が否定した結果が今だ」
「つまり?」
「私は侍女達から恨まれているだろう、母に心労をかけたのだから」
「イリスさん……」
言う言葉が見つからず、取りあえず「私達はイリスさん達の味方ですから」と言って、その場から離れた。
そしてクロウの屋敷に向かう。
「ねぇ、クロウ。ロッズさんの屋敷はどうだったの?」
「吸血鬼に偏見を持つ者ばかりだったぞ」
「……ロッズさんの奥さんが原因?」
私がそう言うと、クロウは目を丸くした。
「よく分かったな、今は亡き奥方を心酔する者が多く、心労で亡くなったからイリスへの感情は良いものではないものばかりだった。だからそうでは無い、アリーと、ベンとリーンを選出した」
「でも、アリーさんも、何かある感じだよ」
「そうか、変な行動をするようなら即追い出して元の場所に戻す」
「そ、そう」
何か一気に不安が増したぞ?
取りあえず、私は家に戻り、夜の公園で子ども達を遊ばせた。
吸血鬼やダンピール組の子等も、元気よく遊んでいる。
「いやぁ、我が子達は元気だなぁ」
きゃっきゃと楽しそうにしている我が子と他の子を見て和む。
「愛し子様」
「? あ、アリーさん」
「アリーで結構でございます」
何か言葉がきつく感じる。
「愛し子様は、何故吸血鬼に?」
「……生き辛かったからですね人として」
「ですが、吸血鬼の方が生き辛いと思います」
まぁ、ご尤もな意見だ。
だが、私にも今までの経験上色んなことが分かる。
「ですが、吸血鬼ということで忌避するような方々と付き合わずにすんでいます。私は愛し子で、特別扱いをされるのは仕方ないですが、吸血鬼という理由で私を差別する方は一人も居ませんでした」
「……」
「アリーさん、貴方が私にそうするなら、イリスさんへの危害を加えると判断し帰って貰います。イリスさんは大事な私の村の仲間です、傷つけることは許しません」
きっぱりと言い切った。
悪いがイリスさん達は大切な存在だ。
害意を露わにするなら帰って貰う。
冗談抜きで。
「……やはり愛し子様には敵いませぬね」
「だから言ったじゃろう」
「ロッズさん!」
ロッズさんが姿を現した、クロウと一緒に。
「この森は、この村は良き村でございますね」
「当然だ、梢が作ってきた村だ」
「イリアにも見せたかったのぉ」
「イリア?」
「儂の妻じゃ」
ロッズさんがそう言った。
クレア、イリス、イリア……全員奥さんの名前から取ったのかな?
「ロッズ様がこの村に訪れるようになって、顔色も良くなり、生き生きとイリス様達のことを語られるのを見て少しばかり残念だったのです、奥様もいたら、と」
「アリーさん……」
「イリスお嬢様とご家族をどうか宜しくお願いします」
「……はい」
私は静かに頷いた。
「──って言ったけど、具体的に何すりゃいいの?」
「お前らしいな、いつも通り過ごせば良い、それでいいのだ」
「んー分かった」
クロウと話ながら私は家路についたのだった──
イリスとロッズ、フローリア家などの問題の話でした。
アリーという侍女はイリスの母、ロッズの奥さんに心酔する侍女でした。
だからイリスが飛び出していった事を若干根に持っている一方で心配しています。
そこが他の侍女達との違いでした。
ベンとリーンは比較若い使用人なので、そういう感情をイリスには持って居ませんし、珍しく吸血鬼に悪い感情はもってません。
いつか、娘が帰ってきていいようにというロッズの奥さんの思いを受け取っていたからです。
アリーは梢を試すような事をしたのは、本当にこの村で幸せに暮らしているのか確認したかったからです。
結果は言わずもがな。
よろしく頼むと言われてどうすりゃいいのか話からなってないところが梢クォリティというか梢らしい感じでしょうね。
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