王族来訪中の一日
ドミナス王国の国王アルフォンスが来て疲弊している梢。
クロウに指摘され、苦手なタイプだと告白する。
村に興味を持たれるのは仕方ないが相手をするのは嫌だという梢に、クロウは──
「一国の国王が来ているというのは大変だな」
「本当それ」
私はクロウに指摘され、疲れたように息を吐いた。
実際疲れているのだけれども。
アルフォンス陛下には始祖の森は興味深い場所らしい。
何せ、極東の妖怪善狐、忌避される吸血鬼とダンピール、身体能力に優れた獣人、森の賢者と名高いハイエルフ、酒造りや鍛冶で有名なドワーフとエルダードワーフ、沼地で暮らしていた狩人リザードマン、そして人間。
細かく九種族、大枠で八か七種族の存在が喧嘩もせずに平等に暮らしているのだ。
興味深い以外ないだろう。
そして驚くことにアルフォンス陛下は精霊と妖精を見ることができるらしい。
一応つたないが会話も可能とのこと。
そんな方があちこちにいる精霊と妖精達の存在に興味を抱く。
温室には夏の精霊と妖精と光と火の妖精が。
畑には水と土と光の精霊と妖精が。
吸血鬼区画には夜と闇の精霊と妖精が。
などなど色んな場所に精霊と妖精がいるのでアルフォンス陛下ははしゃぎまくっている。
そしてそれを止めるマリア様は結構お疲れのご様子。
「あの国王様、どうにかならんのかな?」
私は再度ぼやく。
「まぁ帰るまでの辛抱だ、それにマリアがいるだろう」
「マリア様一人に負担をかけるのもねぇ……」
何かそれはそれで後味が悪い。
と言いつつも、関わりたくないのは本音。
だって私の根っこ陰キャだもん、あんな陽キャと関わったら蒸発する。
「なんか色々考えてるな」
「まぁね」
「それほどドミナス王国の国王が苦手か?」
「苦手ー、あのノリにはついていけない」
「だろうな」
クロウは肯定した。
私の事を分かってくれているんだと安堵した。
「シルヴィーナに頼んでおけ」
「え、シルヴィーナも苦手そうじゃない?」
「やや苦手だが、王族の知識欲を満たすならシルヴィーナが適任だ」
「うー」
「と、言うことでシルヴィーナ!」
クロウが手を叩くとどこからかシルヴィーナが現れた。
この屋敷そういう構造で作ったっけ⁈
もしかしてクロウが勝手にやった⁈
「シルヴィーナ、面倒だがあの国王とマリアの相手をしてやれ」
「畏まりましたクロウ様」
「し、シルヴィーナ。無理そうなら言ってね?」
「コズエ様お優しい言葉感謝いたします、ですが私の仕事ですので」
そう言ってシルヴィーナは姿を消した。
「……大丈夫かな」
「今は夜だから寝るだけだろうから、明日からだな」
「うー、罪悪感で胃が痛い」
「心配症だな」
悪かったな心配症で!
仕方ないじゃん!
そう思いながら私はクロウの屋敷を後にして、畑仕事などに精を出しつつ、子育てにも精を出した。
子ども達も、夜行性っぽいから夕方から本番っぽい。
まぁ、ダンピールと吸血鬼ならそうなるよね。
翌日の夕方目を覚ますと、私は食堂に向かった。
私が作っておいた冷製のトウモロコシのスープに、パンにサラダ、スクランブルエッグ、ハムという食事だった。
ハムも狩って来たフォレストボアの肉をクラフトでハムにしたものだ。
他の家のハムより質がかなり良いのはクラフト能力のお陰か。
「さて、今日も畑仕事に──その前に」
三つ子がいる部屋に向かうと誰も居なかった。
「あれ?」
首をかしげていると、アルトリウスさんがやって来た。
「晃達なら村の公園で遊んでいるぞ、ティリオとアイン、村の子が様子を見ている」
「え⁈」
いつの間にか公園デビューしていた。
ちょっとショック。
「私も公園に行く」
「分かったついていこう」
家に鍵をかけて、公園に向かう。
公園では無邪気に歩き回っているらしい三つ子の姿が。
そして遊びに混ざっているイザベラちゃんの姿が。
「イザベラ様⁈」
私は驚いた声を上げる。
「コズエ様、コズエ様の三つ子は本当に愛らしいわ!」
「え、あ、どうも、有り難うございます……」
イザベラちゃんが音彩の手を握っていたが、音彩は私を見ると。
「まま!」
「まま⁈」
「まま‼」
音彩の言葉につられるように、晃と肇もこちらを見て、私のところにやって来る。
「よしよし、良い子達ね」
にぱーっと笑うのでめっちゃ可愛い。
そして私はこんな可愛い子だったのだろうかと一人黄昏れる。
母から聞いた小さい頃の私の記憶は階段から落下しそうになった。
ベッドから落ちそうになったなど、ある意味危機的状況しかないので可愛かったのかどうか全く分からない。
写真を見た覚えはあるが、ここまで可愛かった記憶はない。
まぁ、何せ写真をみたのが十代までだったので、十数年見てないことになる。
なので比較しようが無い。
「コズエ?」
「あ、うん。ちょっと考え事」
アルトリウスさんやアインさん、ティリオさんは美形だが、私はそういう感じじゃないから、多分三人の子ども時代に似たんだろう。
「きっとコズエ様もこんな風に可愛らしかったのでしょう?」
「いやーどうかなー? 何せ記憶がないので」
「あ……そうでしたわね」
吸血鬼に転生する際に記憶がおぼろげになっているって設定まだ生きてて良かった。
「どうした、イザベラ。正妃と国王はどうしている」
「村の交易とか難しい話をシルヴィーナさんとレイヴンさんとなさっているわ」
「なるほど」
「ねぇ、クロウ様。コズエ様の幼い姿を投影する魔法とかないかしら」
「イザベラ様⁈」
「ない、梢は神の加護を受けている、それで妨害されて見ることはできぬ」
イザベラちゃんの突拍子も無い言葉に私は一瞬青ざめたが、クロウの言葉にすぐ安堵した。
そうだよ、私異世界の人間だったもん。
それが投影できるとなったら私の嘘全部バレちゃう。
「デミトリアス神様達はどうして妨害なさるの」
「梢は過去と引き換えに転生し、愛し子になった身だ。辛い記憶が戻るきっかけになりかねん」
「あ……」
「梢のことを思うならそれを受け入れろ」
「ごめんなさい、梢様。すっかり忘れていたわ」
しょんぼりするイザベラちゃん。
「お気になさらず、こうして気付いてくれただけで十分ですから」
「梢様……」
私はイザベラちゃんを抱きしめた。
すると子ども達が自分もーとわらわら私にまた近づいて来た。
先ほど、アルトリウスさん達に引き離されたのか歩いてやってくる。
なんでこんなにママが好きなの?
いや、なんでこんなママが好きなの?
と、思ってしまうが、私は可愛い我が子達を抱きしめた──
梢はすっかり認識が薄れていますが根っこは陰キャよりです。
なので、アルフォンス国王のような明るいヒトは実はめっちゃ苦手です。
人馴れしたのはシルヴィーナ達と交流したからですが、苦手なのは変わってません。
そして梢の子ども達。
いつの間にか公園デビューしてるし、ママ大好きだしで梢的には可愛いの一言です。
ただ自分に似ているかと問われるとうーんとなり、また自分の過去を思い出して首をかしげます。
ちなみに、階段から落ちそうになったエピソードは私の経験です。
階段のへりに捕まって必死に耐えてたそうです、なんでそんな事ばっかり覚えているのか私の母は。
そんなエピソードを交えつつ、書いてみました。
梢の子ども達は私みたいな命が危ない目には遭わないでしょう。多分。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
反応、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。