8年目の春、イザベラ達の結婚式
春になり、畑仕事や、子育てに追われていた梢。
ついにイザベラとロランの結婚式の日が訪れる。
クロウに乗って、ムーラン王国に向かうと──
雪と三つ子達に振り回される季節が終わり──
『春ですよー』
『春ですー』
春が訪れた。
雪がどんどん溶けていき、大地を潤す。
そして解けた箇所から畑を耕して、種などを植えていく。
それと同時に、二歳児なのに、イヤイヤ期が収まった我が子らの世話に追われる。
今度は世界の中心が自分だと思っているかのように動き回るのだ。
大変以外何ものでもない。
そんな日々を過ごしてついに訪れた。
「格好、これでいいかな?」
外行のドレスを着てアルトリウスさん達とクロウに見せる。
「似合っている」
「大丈夫だと思いますよ、品があって素敵です」
「ええ、そうです。落ち着きがあって綺麗です」
「向こうはいつもの格好でも気にせんだろう」
「わ、た、し、が、き、に、す、る‼」
クロウにそう怒ると、ローブを羽織り、フードを被る。
「よし、それでは行くぞ」
「うん!」
私とクロウはムーラン王国へと向かった。
しばらく飛んでいると、ムーラン王国の王都が見えた。
クロウは着地し、私が下りると、人の姿に変わった。
クロウが招待状を見せると、兵士の方は王宮まで案内してくれた。
その後、侍女さん達が私達を案内し、花嫁衣装のイザベラちゃんのところへ案内してくれた。
「イザベラ様」
「コズエ様! クロウ様!」
イザベラちゃんは私に抱きついた。
「イザベラ様、私に抱きついてはドレスや化粧が駄目になってしまいますよ」
「だって、あんなことがあったから来てくれなかったらどうしようって思ってましたの……!」
「あんなこと?」
「ムーラン王国での暴動だろう」
「ああ、それですか。気にしてませんよ。それよりもイザベラ様との約束が大事ですから」
「まぁ、嬉しいわ!」
「イザベラ、落ち着きなさい」
「マリア様?」
なんでマリア様が、と首をかしげる。
「クレアと私がドミナス王国の代表としてイザベラの結婚式の見届けに来た。マルス達は子育てと公務があるからな」
「ええ、それに、アンネとマーガレッタも妊娠したものだから」
「ワーオ、おめでた」
私は小さく拍手をする。
「いやぁ、暴動が起きたと聞いた時、大臣がイザベラとロラン王太子の婚約を破棄するように言ってきた時は焦った」
「え゛」
そんな事起きてたのー⁈
「まぁ、エンシェントドラゴン様がそこも対処してくれたから、イザベラを安心してこの国に送り出す事ができる」
「クロウそんな事もしてたの?」
あの一週間で?
「なんだ、余計な事だったか?」
「なんでそうなるの! イザベラ様とロラン様が結婚できるんだから良い事だって言っているの!」
「そうか、それは良かった」
私は安堵の息を吐き、イザベラちゃんを見る。
綺麗な花々をモチーフとした花嫁衣装に、綺麗なティアラとヴェール。
そして胸元の青い宝石。
「素敵なドレスね! そしてその宝石は?」
「ブルーダイヤモンドと言うんです、ムーラン王国とごくわずかな国でしか採掘されない貴重な宝石なんです」
「アナスタシア王妃殿下の嫁入り道具だったのだが、是非使って欲しいと言われたそうだ、ブルーダイヤモンドは幸運の証だからな」
「アナスタシア?」
「あー、ロランの母親、つまり王妃だ」
そう言えば名前名乗ってなかったから知らなかったや。
「ちなみに国王の名はアルベルトだ」
「教えてくれて有り難う」
これで恥をかかずにすむ。
「イザベラ!」
「ロラン様!」
ロラン王子がイザベラちゃんのところへやって来た。
花婿衣装格好良いな。
「ああ、本当綺麗だよイザベラ!」
「ロラン様も素敵ですわ!」
そんな話を私は暖かい目で、いや、微笑ましそうに眺めた。
「やぁやぁ、愛し子様、そしてエンシェントドラゴン様!」
褐色肌の顎髭を生やした男性が現れた。
確か、ムーラン王国の国王陛下だ。
「アルベルト国王陛下、お久しぶりです。愛し子の梢です」
「国王よ、その後はどうなっている?」
「ええ、エンシェントドラゴン様の手伝いもあり、国はよくなりました! 有り難い事です。重要な人材も失うような事もせずに済みました」
「なら良いのだ」
「愛し子様に、エンシェントドラゴン様。ようこそお越し下さいました」
そこに美しくも凜とした女性が現れた。
確か、ムーラン王国の王妃殿下だ。
「ロランがいつもお世話になっております。そしてこの間の暴動の時は有り難うございました」
深々と頭を下げられる。
「き、気にしなくていいですよ、ね、ねぇクロウ?」
「いや、気にするべきだったな、我が来るまで改革が進まなかったのはゆゆしき事態だ」
「解決したんだからいいでしょう! はい、この話題おしまい‼」
「むぅ」
クロウは不服そうな顔をする。
「エンシェントドラゴン様が不服に思うのも最もです、私達も、ロランの婚約者であり、今日王太子妃になるイザベラが誘拐された件と貴方達に助けて貰った件を聞いて驚きました」
「まぁ、そうでしょうね」
「血を吸わず、畑仕事をする吸血鬼なんて聞いたことがない、私達は疑っていましたが、ロランの言葉に余計に耳を疑いました」
そうでしょうねー、色んな種族が喧嘩せず暮らしているし、魔族とも交流しているし、我ながら凄いなぁと思いますよ。
「そしてロランが貴方の村に行くたびに、良くなっていくのをみて言ったのです『種族の壁を取り払おう、今しかない』と」
ロラン王子……
「そして壁を取り払おうとしたら暴動が起きました、弟は古い考えに染まりきっていて、人こそが至上の存在と思っていた為です」
「……」
何でそんな考えの国ができるかねぇ?
「そこで救援を求め、ロランとイザベラを貴方の村へと逃がしました、早馬なら三日でつくでしょうし、その三日持ちこたえればいいと」
「よかったな、我がいて」
「本当にその通りです」
「……イブリス神様のお告げで差別派は呪われて、そうじゃない人達は祝福されたんですよね?」
「ええ、お陰で改革はスムーズに進みました、今まで登用されても下のままでくすぶっていた者達が一気に才能を開花させ始めたのです」
「なるほど」
そんな話をしていると、若い神官さんがやって来た。
「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、王太子妃殿下。そろそろ式が始まります」
「おお、そうだったな。愛し子様、我が子息と義娘への祝福、お頼み申し上げる」
「え゛」
ぶっつけほんばーん!
せめて心構えさせてくれよぉ。
「まぁ、我がいるから安心しろ」
「う、うん」
私は式場の最前列に座っていた。
何か言っているが頭に入ってこない──!
あ、誓いの口づけしたーわーお!
「梢、出番だ」
「ひゃい」
クロウに付き添われユグドラシルの枝を持ち、二人を祝福する。
そして頭を下げてクロウと元の場所に戻る。
その後式はパーティと呼べるものに変化し、どんちゃん騒ぎは夜になっても続いた。
「では、私達は帰りますので」
「泊まってはくれないのですか?」
「我が子がちょっと心配で」
「あ、そうでしたわ。コズエ様は三つ子の親、大変ですわ」
「そういうことで」
「梢、我がいったん戻らせたら、我は少し此処に残る」
「え?」
「行くぞ」
城から出て飛び去り、村に戻るとクロウは宣言通り飛び去っていった。
何か危惧することがあるのだろうか?
子育ては相変わらず大変な梢。
そして、イザベラとロランの結婚式の前にはマリアから割ととんでもないことを聞かされる。
たしかに、そんな国として不安な所に王女を嫁がせるメリットとか考えるとないですから、大臣が反対するのも最もな理由。
そして、結婚式後、梢を返してムーラン王国に戻ったクロウ、一体何なのでしょう。
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