子の、親の事情~秋、間近~
ドミナス王国の貴族の件が落ち着いた頃。
マルスの妃の一人マーガレッタが何故音彩とルキウスの縁談はダメなのかと言い出した。
ため息交じりに皆が説明をして──
漸くドミナス王国の貴族達が来なくなって一段落した頃。
マルス王太子のお妃様の内の一人であるマーガレッタさんが言い出した。
「ルキウスは愛し子様の御息女をとても好いているのに、どうして駄目なの?」
と。
その言葉にその場の皆が盛大にため息をついた。
「マーガレッタ、いくら愛し子様の御息女が聖女だからといってできないことがある」
マルス王太子は呆れたように言った。
「どうして?」
「まず、愛し子様は御息女を貴族達の学び舎に子を預ける気はない、その時点で貴族からの反発が強い。そして我が国でもダンピールや吸血鬼を忌避するものはいる、聖女とはいえどダンピールである御息女を迎えるのは至難だ、そして最難関は──」
「音彩は王族には決して嫁に出しませんからね」
「御息女の父親が反対していると言うことだ」
ティリオさん、笑顔だけど、なんか怖い。
めっちゃ怖い。
「愛し子様も同じですか?」
マーガレッタさんの言葉に私は静かに頷く。
「王家に嫁に出したらそれこそこの子の身に何か合ったら気が気ではないの」
「そうなんですか……」
「それにね、音彩が、小さいながらもルキウス様の好意を拒否ってる気がするんですよ」
「え?」
「私達が同じ行動をしたら喜ぶのに、ルキウス君が同じ行動したら拒否の行動するんですよ……ほら」
私が指を指すと、ルキウス君が赤ちゃん座りしている音彩に花束をあげているが。
音彩は嫌そうな顔をしてぷいっと顔を背けた。
とぼとぼと帰るルキウス君。
ティリオさんが、花束を渡すと嬉しそうに受け取ってきゃっきゃと喜ぶ。
「脈がねーんですわつまり」
「脈がないって死ぬってこと?」
しまったこの言葉は通じなかったか。
「脈がないって言うのは、この場合恋愛的な見込みが持てないということです、音彩様がルキウス殿下を好きになるのはなさそうって事です」
一二三ちゃんが麦茶を持って現れた。
麦茶を配り、一二三ちゃんは三つ子の様子を見てから帰って行った。
いつから居たんだ?
と思うが言わないでおこう。
三つ子ちゃんはキャッキャと嬉しそうにじゃれ合っている。
兄妹間の仲は良さそうなんだよね。
反抗期は怖いけど。
「本当、ルキウスは眼中にないのね、御息女様」
「単に知らない人にアプローチされてるから拒否してるだけかもしれませんが……大人になったら変わるかもしれません」
そう言いながらよちより歩いてきた音彩を抱っこする。
「まぁ、その頃にはルキウス様の考えも変わっているでしょう」
「そうですね」
「良い縁談だと思うのだけどもー」
「マーガレッタ、良い縁談かもしれないけど愛し子様が拒否している時点で私達は許可できないのよ」
「そうねぇ」
確かに、私達がドミナス王国の貴族なら良い縁談だろう。
だが、私達はドミナス王国ではなく位置的にブリークヒルト王国の始祖の森で勝手に暮らしている森の民だ。
やたら変な縁を作って面倒な思いはしたくない。
それに、ティリオさんとアインさんは王族には良い思い出が無いのだろう。
何せ、ロガリア帝国が合った頃、王族の命令で故郷を失い、家族を殺され、攫われ、こき使われて二人以外の子ども達がどんどん死んでいく中で二人だけは生き残った。
すべての元凶はロガリア帝国の王族にある。
なので、ティリオさんは絶対王族に音彩を嫁に出したくないのだ。
私はドミナス王国でも差別はあるというから、そんな場所には子等を送るつもりには慣れない。
アインさんもアルトリウスさんも同意見。
我が子達が育ったとき過保護と言われるかもしれないが、悪いけど外が危険だと理解して欲しい。
「儂は体を鍛えた! だから孫を抱かせてくれ!」
「断る!」
今日も今日とてロッズさんは、イリスさんにお孫さんを抱っこさせてもらえない。
仕方ないだろう、年だし、ペルラちゃん二歳だから重いぞ?
「だこ!」
「はいはいー」
イリスさんは難なく抱っこしてみせる。
だてに畑仕事で体を鍛えている訳では無い。
「そこの爺さんがお前を抱っこしたいって」
「や!」
ロッズさん撃沈。
後で儂此処に永住するって騒ぐんだろうなぁ、憂鬱ー。
「イリスと、御息女のペルラか」
ベアトリーチェさんがやって来た。
「おばちゃ!」
「こら、ベアトリーチェ様だよ」
「ふふ、おばちゃんだよ。だっこさせてくれるかい?」
「うん!」
ベアトリーチェさんはペルラちゃんを抱っこした。
「ふふ、可愛い……」
「べるら、おばちゃのことだいちゅき!」
「私もペルラの事が大好きだよ」
そう言って微笑ましい空気をだしている。
しばらく抱っこしてからイリスさんにペルラちゃんを返し、イリスさんはロッズさんから逃げるように立ち去っていった。
ロッズさんは追いかけていった。
「ベアトリーチェさん、ヴェロニカさんの子どもは抱かせてもらえないんですか? 一応血筋なんですし」
「ヴェロニカが『ベアトリーチェ様には恐れ多くて抱っこなどさせられません』と言って抱っこさせてもらえんのだ……」
「Oh……ヴェロニカさん」
「ヴェロニカに迷惑をかけすぎたのが原因か、エリザベートの件で」
「単に、またヴェロニカさんが長だって意識が抜けきってないのだと思いますよ?」
「そうか……なんとかせねばな」
と言いながらヴェロニカさんは立ち去った。
私はため息をついて木陰を見る。
「ヴェロニカさん?」
「う、うむ。ど、どうしてもベアトリーチェ様を見ると緊張してしまってな」
「こずえしゃま!」
「ミリーナちゃん、元気?」
「げんき!」
「うんうん、いいですねー」
ミリーナちゃんの頭を撫でると嬉しそうに顔を緩めた。
吸血鬼の子ども達はすくすく育っている。
ブラッドフルーツのお茶と、ジュースもといブラッドワイン、そしてお菓子などを食べながらすくすく成長している。
ブラッドフルーツの収穫と狩りに同行をお願いしている。
他の作物は枯らしちゃうからしょうがないね!
「それにしても、コズエ様の考案される料理はどれも素晴らしい。私達吸血鬼でも食事が楽しめる」
「それは良かったです」
「ただ、まだまだ料理の腕が……なので子等に駄目だしされます。料理によっては子等の方が上手で……凹みます」
「まぁ、子ども相手に料理教室やってますから。なんなら再開しますか、大人向けの料理教室」
「ぜ、是非!」
ヴェロニカさんは私の手を掴んだ。
吸血鬼用の料理教室と、その他用の料理教室を開催を再開すると、あっという間に人だかりができた。
勿論大人用だが。
吸血鬼用はアルトリウスさんが助手、その他はシルヴィーナが助手をしてくれた。
王室の料理人も来ていたらしく参加して必死に覚えていた。
材料は私達が卸している作物等で作れる品だ。
たまに魔導具の調理器具も使うが、村には設置されてるし、王宮にも今は設置されている。
その他用では王室の料理人や王族の方達が真剣な表情をしていた。
吸血鬼用では、吸血鬼、ダンピールのお子さんを持つ親御さん達とヴェロニカさんが真剣な表情をしていた。
そんなこんなで日々を過ごし、夏の終わりが近づいた。
『もう直ぐ秋ですよー』
『まだ夏ですよー』
「もう帰らないといけないなんて寂しいわ」
「すぐ会えますよ、結婚式は卒業後ですよね、では来年の春に」
「ええ、私待ってますわ、コズエ様」
イザベラちゃんと私は抱きしめ合った。
「これからも私達との交流を宜しく頼む」
「はい、マリア様」
マリア様と握手を交わし、見送る。
白亜が透明になって護衛としてついていった。
「さて、頑張らないとね」
「はい」
「そうだな」
「そうですね」
私はアルトリウスさん達に言うと、村へと戻って行った。
音彩は赤ちゃんですが、ルキウスに苦手意識を持ってます。
多分年取っても同じかなーと思われます。
ルキウスが代わらない限り。
それに梢やティリオ達が音彩を王族に嫁に出す気はさらさらないのもありますが。
子どもが不幸になるのは見たくないじゃないですか、普通。
ロッズとイリス親子は相変わらず。
ベアトリーチェとヴェロニカも相変わらずです。
色々あるんですよ。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
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