貴族達のお悩み相談~正妃マリアの苦労~
ドミナス王国の正妃マリアに直談判もとい、相談をしたくて夏場訪れる貴族が増えていた。
梢はそれにげんなりしつつ、逃げたいと思っていた。
そこにクロウが現れて──
夏と言えば色々ある、が。
ここ数年で嫌な事が追加された。それは──
「正妃マリア殿下お助けください!」
「マリア殿下お助け下さい!」
「マリア殿下、どうかお慈悲を!」
マリア様に舞い込んでくるトラブルに始祖の森もとい私が巻き込まれる事にある。
「愛し子様、逃げるおつもりか?」
マリア様が逃亡を許してくれない。
「ぐおおお、私はそういうの詳しくないから、マリア様にお任せしますー!」
「王都じゃなくて、私が夏期休暇で来ているここに逃げてきた理由を考えて頂きたい物なのだが?」
「イヤー!」
いやだ!
面倒くさい案件に決まっている!
帰りたい、お家に!
三つ子ちゃん達が私を待ってる。
「正妃マリア、梢も子の親。子を気にするので此度の案件は我が手伝いをしよう」
「クロウ?」
「エンシェントドラゴン様か、なら愛し子様の力はあまり使わなくても良さそうですな。わかりました」
開放されたのでダッシュで家に向かった。
静かに家に入り、寝室に静かに向かい、扉を開けると、アルトリウスさんがいた。
アルトリウスさんは静かにするようジェスチャーを取り、私はそれに従った。
静かに三つ子のベッドを覗き込めば、すやすやと我が子らが寝ている。
一歳児にしては大きい子らが。
「すやすや寝てる、可愛い……」
「さきほどまでギャン泣きしていたから大変だった」
「呼んでくれたらよかったのに」
「せっかくマリア殿下と話してたのだろう?」
「そこから逃げてきたの。また、森にお悩みを抱えた貴族の方々が来てうんざりしてるの」
「そうだったのか、すまない」
「ううん、いいの」
アルトリウスさんの謝罪に首を振る。
マリア様とお話するのは構わないが、貴族のトラブルに巻き込まれるのはゴメンだ。
ドロドロとしてそうだし、面倒くさそうだし。
「はぁ……」
ちょっとげんなりしちゃう。
「少し休め」
「うん」
私は一階の食堂に下りて魔導冷蔵庫から出した麦茶を飲む。
「あー美味しい」
そんな事を言って黄昏れていると、玄関の扉が開いた。
「愛し子様、森の入り口に大量の人が馬車で来ているが何だアレは」
ヴェロニカさんが眉をひそめて入って来た。
珍しい。
「マリア様に相談したいってドミナス王国の貴族の方々が来ているの」
「問題があるなら王都の裁判所に行く方が良いのでは?」
「正妃様に、直々に相談というか直談判したいんだと。馬車の行列は同じのか、こっちに来たのに気付いた身内関連かな」
「何故そう言い切れる」
「ここ数年そうだったから」
「なるほど、さすが愛し子様だ」
私はげんなりした表情を浮かべる。
「でも帰って欲しいのが本音」
「でしょうな」
ヴェロニカさんも分かってくれるようだ。
「政略結婚であれ、恋愛結婚であれ、後々問題が起きるのは何処も一緒だからな」
「夜の都で裁判所で何かやってました?」
「まぁ、裁判官をやっていたな」
「なるほど」
確かにそうなると若干詳しいだろう。
「政略結婚は、子どもが産んだら白い関係になるのに妻が耐えかねて裁判を起こすなんてしょっちゅうだ」
「ワーオ」
「全く、だったら愛人でも持たせればいいものの」
「ワーオ」
さっきから「ワーオ」しか言えてないや。
でも実際「ワーオ」しか出ないんだよ。
「白い結婚になるのも多々ある、その事でもめることもある。全く政略結婚なら割り切れというのに……」
「ワーオ」
「まぁ、そう言う私は恋愛結婚だがな、子どもも増えて色々忙しいが家族総出で楽しいものさ」
「それは良かった」
漸く「ワーオ」以外の発言が出た。
「ところでヴェロニカさんは一人で家に来ましたがどうして?」
「あー家族が一番赤子の世話をしているのは私だから愛し子様と駄弁るなり、他の人と話すなりして今日はゆっくりしろと」
「なるほど」
ヴェロニカさん、子育て頑張ってるんだな。
私はどうなんだろう?
「おや、コズエ様。ヴェロニカ様と何かお話で」
「ティリオさん、ああ、ちょっと聞きたいんだけど……」
「何でしょう?」
私はちょっとおどおどとした風に聞く。
「私、ちゃんと子育てしてる?」
「何をおっしゃいますか、子どもの面倒を見つつ、畑仕事や聖獣の世話までやるとなると体がいくつあっても足りませんよ?」
呆れたように言われた。
ヴェロニカさんは信じられないような呆れたような顔をしている。
「えっとつまり……」
「ちゃんと子育てをしてらっしゃいます、だからこそ休める時は休んで欲しいのです」
ティリオさんは微笑んだ。
「ならば、愛し子様も今は休むといい」
「そうですね。あ、お客様にお茶も出さないですみません、ブラッドティーで良いですか?」
「有り難い」
ヴェロニカさんにブラッドティーを煎れてあげ、そして出す。
茶器はちゃんとそろっているから、中世のヨーロッパのようにソーサーに移して飲む必要もない。
お茶関係ができたとき、真っ先に作ったのが茶器類だったりする。
だって、茶葉が邪魔で避けるためにソーサー使うの面倒だったし。
「ああ、いつ飲んでもこの村のブラッドティーは美味い。ブラッドフルーツも美味いし、その葉っぱから作った茶も美味いな」
「なら良かったです。あ、ティリオさんも何か飲む?」
「では麦茶を」
「はーい」
冷えた麦茶を出し、コップに注いでティリオさんに渡す。
「有り難うございます」
ティリオさんは美味しそうに飲む。
猛暑ではないにしろ、ここも熱いのは変わりない。
「アイスティーでも配ろうかな」
話を聞くのは嫌だが、その場で話合っているであろうマリア様達とクロウ、それからわざわざやって来た貴族の方々に冷たいお茶を出すくらいならいいだろう。
私はアイテムボックスから紙コップを取りだし、お盆をアイスティーをアイテムボックスに入れてマリア様とクロウの居る場所に向かった。
「やれやれ、自分から逃げてきたと言ってたのに、全くお人好しだな我らの愛し子様は、心配になる」
ヴェロニカはため息をつきつつ、微笑んだ。
「そうですね、コズエ様のお人好し具合にはいつも困らされます」
ティリオは苦笑した。
──最愛の御方にはいつも悩まされる──
その悩みもティリオには心地良かった。
「ティリオ、今幸せか?」
「はい、幸せです。だからコズエ様が幸せでいられるように努力します」
「そうか」
ヴェロニカはそう言ってブラッドティーを飲み干した。
「いや、愛し子様。すまんな、こんな冷えて美味い飲み物を出してくれて」
「いいえ」
私はお茶を配り終えてマリア様とクロウのところに戻って来た。
「梢、おかわり」
「はいはい……」
クロウの紙コップにアイスティーを注ぐ。
「ところで、話は大体おわったんですか」
「もう少しで終わる。どれもこれも去年と似たようなもので、我が国の貴族大丈夫か? と不安になった」
「あ、あははは……」
掛ける言葉が見つからない。
結局、お悩み相談というかマリア様への直談判は深夜近くまで続き、多くの貴族が馬車の中で一泊して帰って行った。
「もう、来ないで貰いたい」
マリア様のその言葉に、私は頷くしか無かった。
マリアの苦労と、梢の苦労。
どっちにしろ、二人とも大変です。
マリアは休暇で来ているのに、それを邪魔される。
梢は巻き込まれるし、子育てはあるしで大変です。
ただ、逃亡後、アイスティーを提供しにいく辺りが梢ですが。
また、家庭内のトラブルは人間だけでなく吸血鬼達も同じ様子。
そしてティリオは今ある幸せを大切にし、梢が幸せで居られるように努力すると行っていますが、他の二人も同じ答えでしょう。
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