前の愛し子
いつものように畑仕事と聖獣のお世話にいそしんでいる所に村人のラルグが訪れる。
そこで普通の家畜が飼いたいと言われたので、悩む。
悩んで居るとシルヴィーナが現れ──
聖獣のお世話を終え、畑の整備収穫を行い、果樹園も収穫整備し、やることをやった私のもとに村人──ラルグおじいさんがやってきた。
「ラルグさん、今晩は。こんな夜にどうしたんですか?」
「いや、実はコズエ様に相談があってのぉ」
「はぁ」
「……儂等も家畜を飼いたいんじゃ、聖獣ではなく、普通の家畜を」
「普通の家畜……」
「どうしたんですか?」
ちょっと悩んで居るとそこへシルヴィーナが現れた。
「シルヴィーナさん」
「家畜を飼いたいんですよね?」
「ええ、普通の家畜を」
「買いたいのは何ですか?」
「牛と羊、あと鶏です」
「分かりました」
シルヴィーナはさらさらと紙に文字を書きそれを飛ばした。
紙は鳥の形になり、羽を広げて飛んで行った。
「何したの?」
「行商の兄に、普通の牛と羊、鶏を仕入れてほしいと」
「なるほど」
「一週間程かかりますが、お望みのものが届くと思います」
「シルヴィーナさん、有り難うございます」
「んー……」
私はこっそり自分のスマホを見た。
残念ながら「普通」の家畜は販売の部分には存在しない。
聖獣買うとか普通の人には荷が重いもんなぁ。
「ひさびさに、村に行っても良いかな?」
吸血鬼ということで遠慮していた。
「是非ともきてください」
ラルグさんは嬉しそうに目を細めて帰って行った。
「流石にジャージ姿じゃあれだよな」
と思い動きやすくもあるジーパンとブラウス、どちらもレースが可愛い奴に着替えることに。
違う革靴を履いて、村へと向かう。
「おじゃましまーす!」
「コズエ様だ!」
「コズエ様!」
皆がこちらを見る。
そして女性陣が特に目を見開いている。
あれー何か私したっけ。
「そのようなお召し物は何処でお作りに⁈」
「あー自作です」
「自作⁈ 自分で作れるものなのですか⁈」
「私の型紙で良ければ参考にお貸ししますよ」
「「「是非‼」」」
元気の良い女性陣にアイテムボックスから出した型紙を渡した。
必要ならと紙や用紙に書くペンも渡した。
女性陣はきゃあきゃあいいながら熱心に見てる。
男性陣は居ない、きっと狩りに出てお金を稼いだりしてるのだろう。
子ども等は先ほど私の農園で見かけた。
「珍しく村に来ているな」
「クロウおじ……クロウも珍しい?」
「我は頻繁に来ているぞ、小童共を鍛える為にな」
「ほ、ほどほどにね」
私は引きつった笑みを浮かべた。
そしてふと思いつく。
「私以外の『愛し子』って居ないのかしら」
と呟くと、皆暗い顔をした。
何々地雷?
地雷踏んだ?
「やはり気になるようになったか、我の家に来い。教えてやろう」
クロウはそう言って自身の家へ足を向けた。
「待ってよ!」
私は後を追いかけた。
『さて、愛し子について聞きたいんじゃな?』
「う、うん」
いつもの小柄なドラゴンの姿になってクロウは寝そべっていた。
『妖精と精霊の「愛し子」というのは存在するが「神の愛し子」はおぬし以外存在せぬよ』
「ど、どうしてですか?」
『大昔、人間共が処刑しちまったんじゃ』
「え?」
『……その愛し子は多くの種族を救おうとしていた、その姿にとある国の王族が危機感を抱き、とっ捕まえて処刑しちまったんじゃよ』
「その愛し子は逃げるとかしなかったの?」
『絶望して逃げなかったんじゃ。しかし祈ったそうじゃ、己の死が安らかなものであるようにと』
「……」
『火刑に処せられたが雨が降り出し、雷が愛し子に直撃した後、愛し子の姿はなくなっていた』
「無くなっていた?」
『そうじゃよ、でその後暴風雨やら地震やらの災害が国を襲い、その国を燃やし尽くして壊し尽くして国はなくなっちまった』
「……」
『そういう訳で分かるじゃろ、お前さんをあんまり外に出したくない神様の意向が』
なんとなく分かった。
気がする。
スマホも、クラフト能力もメーカーも全部私の為のもの。
吸血鬼になったが不便をさせないように巡り合わせもある。
「その頃クロウはどうしてたの?」
『儂? 儂も愛し子が殺されたのを知ってその国で暴れ回ったぞ、じゃが神に「これは我らがすること、済まないが大人しくしていてくれ」と言われての』
「大人しくしてたと……」
『あの愛し子のおてんばぶりは面白かった! それ以上に博愛主義な所も! じゃから儂は寂しくて一人山の洞窟で静かにしとったんじゃ──が、お前さんの愛し子の気配があった、これは会いに行かねばと思い会いにきたんじゃよ』
「はぁ……」
『強い、確かに強いが、守らねばならない、そう思った』
私って強いのかと疑問になるが、クロウが言うなら強いんだろう。
『儂等の役目はお前さんを守ることじゃ』
「神様がそう言ったの?」
『いいや、違う。儂がそう決めた』
真面目な口調のクロウに、私は何も言えなくなった。
「……」
家に戻り、一人しんみりする。
『愛し子様ーどうしたのー』
『悲しそうー』
妖精と精霊達が私に話しかける。
「ちょっとアンニュイな気分になったのよ」
『あんにゅい?』
「しんみりしてるの」
『エンシェントドラゴンからお話聞いたからー?』
「……そうだね」
『あの時、愛し子は助けを求めなかったー』
『僕達が助けてあげるっていったのにー』
「……そう、なんだ」
『「私の行為は独りよがりだったってことですから」って悲しそうに言ってた。そんなことないのに!』
『みんな助けられてたのに誰も助けなかった!』
『だから神様の愛し子は姿を消してしまった──』
『だから愛し子様は守らなきゃ!』
妖精や精霊達は私の周囲をぐるぐる回りながら言う。
「……やっぱ引きこもってよ」
『それがいいよ!』
『ロガリア帝国が愛し子を探そうとしているし!』
「ロガリア帝国?」
『前身はカインド帝国、愛し子様を処刑した国』
「何で探そうとしてるの?」
『ロガリア帝国は呪われてるんだ』
『みんなカインド帝国の末裔だから』
『その呪いを解いてほしくて愛し子を探してるの!』
「あほらし、また殺されるかもしれない国になんぞ行けるか」
『だよねー!』
『絶対彼奴らならそうするよ‼』
『ハイエルフ達の行商もロガリア帝国には寄らないし』
「そうなの」
『うん』
私がやや驚き気味に言うと精霊と妖精は頷いた。
『だって関わったら呪われるかもしれないからね!』
『だから他の国々も関わらないんだ』
『その結果ロガリア帝国は略奪行為に走ってるんだ』
「単純すぎる……」
私ははぁ、と息を吐いた。
「反省の色が見えないわ」
『嫌われ者の国ー』
『絶対愛し子様は渡さない──』
私は微笑んで行った。
「ありがとう、みんな」
精霊と妖精はキャーキャーと嬉しそうに笑っていた。
私と前の愛し子、何か関係ある?
ちょっとだけ気になった──
村に受け入れられているというお話と、「神の愛し子」についての話です。
神の愛し子は、処刑されたとされています。
皆梢が処刑されないよう心配なのです。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。