守り抜く覚悟
ドミナス王国の王子であるルキウスに何故音彩に告白してはいけないか親達が諭すと、ルキウスはギャン泣きを始める。
それに罪悪感を覚えつつ梢は我が子の様子を見るが──
「かーたま、どーしてだーめ?」
ルキウス君、音彩にプロポーズ?
したのを全く悪い事だと思っていない、まぁ仕方ないよね。
「いい、ルキウス。貴方はこのまま真っ当に生きてゆけば王太子、そして次期国王となります。ですが彼女はこの森で過ごし、神々の愛し子であるお母様と一緒に森の民の為に生きるのです」
「だからだーめ?」
「そう」
と言うと、ルキウス君くしゃりと破顔。
あ、これは。
「びええええええええ‼」
ああ、もう!
子どもの泣く声はいつ聞いても罪悪感が湧くわ!
「もう、ルキウス!」
必死にあやし始めるエリザ様。
しかしイヤイヤモードになってるルキウス君。
そりゃそうだろうな、子どもには理論詰めは厳しい。
その後、ルキウス君を泣き止ますのに必死で、マルス王太子とエリザ様達は大変そうだった。
ちなみに、見に行った私の可愛い三つ子はすやすや眠っていた。
図太いな割と、あんな大声でルキウス君泣いてたのに。
図太い?
いや、待てよ兄妹のうち一人が泣けば連鎖的に泣いてるよな、比較的。
「……ルキウス君が部外者だからか」
私はそう結論づけた。
村の子なら、反応する事あるから、年に一度しか来ない、というか今回初めて来たルキウス君は部外者なのだろうと。
哀れ、ルキウス君。
「ルキウス、どうしてあんなに泣いてるのかしら?」
ちょうどその場に居なかったイザベラちゃんがぼやく。
「ああ、実はね……」
私は事情を説明した。
「あらまぁ、ルキウスったらおませさんね、まだちっちゃいネイロ様に告白するなんて」
「で、結婚はできないよと言ったらギャン泣きと……」
「うふふ、可愛い」
イザベラちゃんはクスクス笑っている、がイザベラちゃん。
君が母親になったら大変な思いする可能性が高いのは君もだよ?
と、思ったが言わないでおいた。
その時に苦労をすれば分かるだろう。
いや、待て乳母とかが居る場合はどうなるんだ?
確か貴族とかは両親ではなく乳母や教育係が育てるんだったような……
えーい、分からん!
私は思考を放棄した。
面倒だった。
「うふふ、ネイロ様ってかわいいわ」
イザベラちゃんはのんきに音彩の頬を撫でたりしてた。
音彩は全く動じずぐっすり。
悪意がないから目覚めないんだろうか?
圧とかもないし。
すやすやしている音彩達はとても可愛い。
起きてイヤイヤモードの時は小悪魔だが。
子どもの事をアルトリウスさん達に頼んで見て貰い、私はイザベラちゃん達と来賓の館でお茶会。
「そう言えば、マリア様の時の子育てはどうだったんですか?」
「もっぱら乳母や教育係、使用人に任せっきりだよ。エリザも普段はそうなんだが、ここにはそう言った者達全員を連れてこれないから、悪戦苦闘のようだ」
「私も、ここに来た時のために育児について学んだらいいかしら」
「それは良いかもしれないね、イザベラ」
マリア様は微笑まれる。
「愛し子様、子の成長が早いとぼやかれていましたが、どういう意味で?」
「そのままです、妖精と精霊達の愛し子だから成長が早くて本来二歳になったらやることを今やってるんです」
「なるほど……」
「妖精と精霊の愛し子は成長が早く、年老いるのが遅く、年老いることが無いのならいつまでも若々しく、だそうで……」
私はため息をつく。
「普通の子育てとは若干違うものになるかと」
「そうだな。しかし、妖精と精霊の愛し子となれば本来国を挙げての騒ぎになるのだが……」
と、聞いて私の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
アインさんだ。
妖精と精霊の愛し子なのに連れ去られたというのに疑問が沸く。
「あの、マリア様、ここ数十年の間に滅んだ国はありますか? ロガリア帝国以外で」
「──ある」
「どんな国で?」
「妖精と精霊に愛された小国、ベーゼ王国」
「ベーゼ王国、何故滅んだのですか?」
「ロガリア帝国が自国の瘴気の毒を持ち込んで汚染させて、滅ぼした。よほど強い妖精と精霊で無くては愛し子を守れない程の瘴気だったという」
「……」
合致した、二人が実年齢が分からないというのはティリオもまた「妖精と精霊の愛し子」だったからだ。
この森に来てからは周囲を妖精と精霊が飛ぶようになったのを目撃したし、さらに最近は会話も成立している。
本来の自分の妖精と精霊を失ったから、愛し子でなくなり、ティリオは毒という薬物で殺しを強要され、強大な妖精と精霊が居たから、アインは呪いを強要された。
筋が通るけど──
言わないでおこう。
これはあくまで私の推測だ。
それにこれが事実なら──
二人は帰る故郷がもうない、待っている人がもう居ないことになる。
それを決めてしまうのはまずい気がする。
そんな事を考えていると──
「コズエ、何を考えているのです?」
「コズエ様、何か深刻な事態でも」
「あれ、アインさんと、ティリオさん。アルトリウスさんは?」
何故か二人がやって来た。
「アルトリウスなら『三つ子の様子を見ておくから、お前達はコズエのところにでも行っておけ』と」
「……」
「そうだ、ちょうど聞きたい事があった、二人はロガリア帝国に誘拐されたのだと聞いているが、故郷の記憶はあるか?」
「ちょ⁈」
マリア様ぶっこんでくるなぁ‼
こっちは聞かないようにしてたのに。
「ありますよ」
「え」
「はい、春の日差し、花の香り、土の匂い、覚えております、今になっても」
「国名は?」
「ベーゼ、妖精と精霊に愛された国、愛された故にロガリア帝国に滅ぼされた国」
「……」
二人とも、知っていたんだ。
故郷のことを。
「ベーゼに戻って復興とかは考えないのか?」
「マリア殿下、失礼ながらそれは無理でした。ベーゼから連れてこられた者は私とティリオ除いて早死にし、私達も漸く脱出の機会を見つけられ、その実力も手に入れたからこそ逃げることができました」
「ベーゼに行くのを選ばなかったのは、誰も居ない事が分かっていましたから。だからベーゼに行くよりも、アイン様の命を繋ぐ為にこの始祖の森へ来たのです」
「そうか……すまんな」
「誰も居ないってつまり……」
「連れてこられた者以外は皆殺しにされたのですよ。私の家族も、ティリオの家族も」
酷すぎる。
何でそんな残酷なことができるんだ。
ベーゼ王国が何をした、何もしてないじゃないか。
妖精と精霊の愛し子がそんなに欲しかったのか⁈
冗談じゃあ無い!
「何でそんな酷いことを」
「ドミナス王国では強国すぎてこちらが潰される、ムーラン王国、ブリークヒルト王国はドミナス王国との連合と国が近いのもあって駄目。同盟を結んでいても他国と距離があり、資源が豊かなベーゼ王国は狙いやすかったのだろう」
「そんな……」
「ベーゼ王国は無くなってしまった、けれどもその暖かさは今も胸の内にある、それでいいのです私達は」
「……アインさん」
「コズエ様自分を責めないで、ロガリア帝国が滅亡しただけで、もう仇を取って頂いたようなものですし。それに、私はアイン様と同じ気持ちです」
「ティリオさん……」
「私達は第二の故郷であるこの地を守ることに尽力します、そして家族を、二度と奪わせません」
「ええ、その通りです」
二人の覚悟が伝わった。
私は──
いや、私もその覚悟はある、我が子を奪わせない。
そして始祖の森を守り抜く、何があっても──
部外者には反応が悪い梢の子ども達。
あんまり良くないですが、大きくなれば色々と変わっていくかもしれません。
そして正妃マリアとの会話で、出て来た滅びた王国ベーゼ。
アインとティリオはそこの出身で記憶もちゃんとあります。
ですが、滅びた故に二人はこの始祖の森に逃亡し、この土地を第二の故郷として守ろうと意気込んでいます。
梢も、二人と同じ気持ちです、おそらくアルトリウスもでしょう。
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