7年目の春と8年目の夏~クロウの言葉~
7年目の春が訪れ、子ども等がイヤイヤ言い出すようになってしまった梢。
なんとかクロウ達の手を借りつつ対応していると、8年目の夏が訪れた──
雪はどさっと降り続け、雪かきの毎日。
子ども達は雪を見ては大はしゃぎ。
子どもは風の子と聞くが、本当にそうなんだなと思ってしまう。
村の子ども等や、アルトリウスさん、アインさん、ティリオさん達も手伝ってくれて子育ては順風満帆。
『冬が終わりましたー』
『春ですよー』
『春ですよー』
そして春が訪れ、心地良い春風が吹いているのだけれども──
なんだけども──
「やー!」
「やー!」
「やー!」
何でこうも早くイヤイヤ期に入ってしまうのか……
成長早過ぎん?
精霊と妖精達に聞いたらそっぽ向いたから何か隠してるな……
「という訳で相談に来ました」
「まぁ、そろそろ来るかなとは思って居た」
クロウはお茶を飲みながら言う、ちなみに手土産はクッキー。
クッキーをサクサクと食べながらお茶を飲む。
「精霊と妖精の愛し子は成長が早い、ついでにお前の子どもだから成長もより早い」
「なるほど、うちの子の成長の早さは精霊と妖精の仕業と私の所為か……まだ二歳になってないのにイヤイヤ期来るからおかしいと思った」
「イヤイヤ期?」
「何でもかんでもイヤイヤ言う期間の事よ」
「そうか、幼子にはそのような時期があるのだな」
「あるのよ、二歳頃から、魔の二歳って言われる位だもの」
「それが妖精と精霊の愛し子とお前の子という効果で一歳から現れていると」
「本当それ」
「まぁ、成長が早いならその期間も落ち着くだろう」
「落ち着くのは三歳~四歳頃って言われているの! そんくらいイヤイヤ期は大変なの! 魔の二歳期よ! うちの子一歳だけど!」
私は怒鳴る。
子育て初のイヤイヤ期だ、不安で仕方ないのだ。
「全く、子育てしたことが無いクロウには分からないでしょうけど!」
「まぁ確かにそうだな」
「言い切りやがった」
私は盛大にため息をつきテーブルに突っ伏す。
「何が嫌なのか分からない……今まで食べてたブラッドフルーツの離乳食も嫌がりだした……ゼリーにしても駄目、アレも駄目どうすれば」
「一度ブラッドフルーツから離れたらどうだ?」
「そういうわけにはいかない、晃は吸血鬼なんだもの」
「試しに何か別の物を食べさせればいい」
「お腹壊したらどうするの⁈」
私は吸血鬼で愛し子だから平気だけど、そうじゃない晃はお腹を壊すかもしれない。
「なに、我の勘は神からの啓示よ、試してみるがいい」
「う゛ー……」
もやもやが晴れないまま、私は家に帰った。
試しに苺を潰し、銀牛のミルクに浸した物を三つ子に出した。
「コズエ? 晃は吸血鬼だぞ?」
アルトリウスさんが不安そうな声で言う。
「クロウが他の食べ物を試せって言ったのよ」
「クロウ様が?」
しばらく見ていた三つ子だが、音彩が真っ先に口にした。
目を煌めかせて、美味しそうに食べると、他の二人も食べ始めた。
勿論晃も。
「まー!」
美味しそうに食べて居る。
「……何故、吸血鬼なのに他の物が食べられる?」
「梢の子だからだ」
「クロウ!」
クロウがいつの間にか居た。
「食べ物で嫌がったのは同じ物、もとい似た味の物ばかりで飽きていたのだ」
「飽きて……」
そういうもんなの?
「これからは色々試してみるといい、食の幅が広がったのだからな」
「わかりました、試してみます」
「色々と分からぬ事があるだろうが、我には神の啓示がある、忘れるな」
「う、うん」
それから子育ては大分楽になった。
イヤイヤへの対応はクロウにヘルプをすれば大分楽になるからだ。
ただ、それでも対応は大変だった。
毎日畑仕事と、聖獣のお世話だったり、織姫への依頼だったり、子育てしたり、でスローライフとは……と黄昏れる事もしばしば。
それに疲れたらエナジードリンクならぬ、ブラッドフルーツとマナの実とリラリスの実があるから平気。
エナジードリンクではないから体調の前借りでもないので、不調になることもない。
が、度々叱られる羽目に、仕方ないじゃん。
そうこうして過ごしていると日々はあっという間に過ぎるもので──
『もうすぐ夏ですよー』
『まだ春ですよー』
この時期がやって来た。
ドミナス王国からの手紙。
さて、こんな状態だ、受け入れて良い物かと悩んで話合った。
「晃達がイヤイヤ期じゃなかったらねー……」
「あの時期はイヤイヤ期と言うのか」
「色々嫌がるから、魔の二歳と言われてますよ」
「道理で……」
「でも、イザベラちゃんの学校卒業の最期の年だからなぁ……」
「受け入れた方がいい」
「クロウ?」
「王族の避暑地にイザベラ達を向かわせたらとんでもない出来事に巻き込まれると啓示が来た」
「うへぇ」
マジかよ、イザベラちゃんには平穏はないのかここ以外。
ちょっとげんなり。
「マルス達もここに来るよう進言しておけ、クロウが避暑地に向かうと災難に遭うと予言しているから、とな」
「へいへいー」
私はレターセットを取り出し、書き始めた。
そしてクロウに読んで貰い、問題がなさそうなら、いつもなら行商であるレイヴンさんに渡すのだが、今回はクロウが持って行った。
一体どんなトラブルが起きるんだ、本当。
そして──
『夏ですよー』
『夏ですよー』
夏が訪れた。
馬車がやって来る。
いつもの馬車が。
「コズエ様ー!」
「イザベラ様!」
馬車が止まると、イザベラちゃんが駆け寄ってきて私に抱きついた。
「コズエ様、エンシェントドラゴン様からお聞きしたのだが、避暑地で過ごすととんでもない事に巻き込まれると」
「私も内容は知らないのですよ、クロウに聞いて下さい……ってクロウは」
「避暑地に向かった見たいですよ、害虫駆除だって」
「害虫駆除?」
なんのこっちゃと思って居るとしばらくしてクロウが帰って来た。
「全く手こずらせて雑魚の分際で」
「ね、ねぇクロウ何してたの?」
「違法の奴隷商人がドミナス王族を奴隷にして売り払おうとしていたのだ、子どもをな」
「何処の誰だ!」
クロウは怒鳴るマリア様の耳元で囁いた。
「メリーウェザー! 死んでも、なお一族で嫌がらせか! 今度こそ一族郎党全て根絶やしだ! 奴隷商人も処刑だ!」
「メリーウェザーって……」
イザベラちゃんを奴隷にして売り飛ばそうと企んだ、ドミナス王国の側妃だよね。
うわ、死んでるのに一族の生き残りが嫌がらせというか違法行為すんの?
馬鹿じゃ無い?
エリザ様が不安そうに御子様抱いてる。
マルス王太子と側妃の方々が安心させようとしてる、良い関係だ。
ロラン王太子もイザベラちゃんを安心させようとしている。
「コズエ様、ありがとう。お陰で被害が出ずすんだ」
「いえいえ、お礼はクロウに言ってください……」
「エンシェントドラゴン様有り難うございます」
「礼はいいから菓子を寄越せ」
「おい、クロウ」
私は呆れて巨大ゼリーを作り、クロウに上げた。
冷えて美味しいゼリーをクロウは満足げに完食した。
ああ、本当イザベラちゃん達が被害に遭わなくてよかった。
子どものイヤイヤ期、妖精と精霊の愛し子と梢の子だから控えめであって、本当のイヤイヤ期はおそらくしんどいってレベルじゃないと思います。
それでも、子育て初心者な梢には充分不安でしたが。
そしてイザベラの件、逃げおおせていたメリーウェザーの一族がいたのでマリアは怒髪天を衝く勢いです。
梢もイザベラ達に何もなくて安堵していますが……
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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