七年目の夏~怪しい影~
夏になり、イザベラ達がやってきた。
イザベラが梢の赤ん坊を見たいと言うので家に案内すると、妖精と精霊が音彩をどこかに運ぼうとしており──
子育てと畑仕事に忙しい日々を送って、気がついたら──
『もうすぐ夏ですよー』
『まだ春ですよー』
という、時期になっていた。
こんな時期に毎年来るのはそう、あの手紙。
ドミナス王国からの手紙。
「あー、イザベラちゃん達が来るのか」
今年で七年目の夏を迎える。
ちょっと悩む。
がイザベラちゃんには会いたい。
マリア様にも子育ての事でお話を聞きたい。
ただ、私もシルヴィーナも子育て真っ最中。
相手ができない。
どうしよう。
「なら我が対応しよう」
クロウに相談したところクロウはあっさりそう言った。
「いいの?」
「会いたくないならともかく、会いたいのだろう? なら我も協力を惜しまん」
「ありがとう、クロウ」
クロウの協力があると言うことで、例年通り受け入れる事が決まった。
そして──
『夏ですよー』
『夏ですよー』
と、季節の妖精と精霊達が行き交う夕暮れ時。
馬車がやって来た。
「コズエ様!」
「イザベラ様!」
イザベラちゃんが抱きついてきた。
「マリア義母様から聞いたわ! 赤ちゃんが生まれたと! しかも三つ子! どうしてるの?」
「今は家で寝ていますよ、寝る子なので」
「見せていただけないかしら!」
「こら、イザベラ、もし寝ていたところを起こしたらどうする?」
「気をつけます! だから見せていただきたいのです!」
「いいですよ?」
そう言って家の中に案内し、寝室に入ると様々な妖精と精霊達が音彩をに宙に浮かべていた。
「何をしてるの⁈」
私の声に虚ろな目をしていた妖精と精霊は大慌て、危うく音彩を落としそうになった。
私が音彩を受け止める。
その衝撃で音彩は目を覚まし、目をぱちくりさせる。
「おい、妖精と精霊達。何をした?」
『わ、わかんないけど、愛し子の子を外に連れて行かないと~って気分になって』
『何か黒い奴と会ったら頭がぼんやりしてそういうことしないとって思って……』
クロウがあいてる窓から飛び出した。
森の入り口より前に何かいる。
私はアルトリウスさん達にその場を任せ、クロウの後を追った。
森の入り口より前の部分でクロウはローブ姿の人物をふん縛っていた。
「あの、クロウ、それは?」
犯人なのは丸わかりなのでそいつ呼ばわりも嫌だった。
「デミトリアス聖王国に隷属の首輪で意識を乗っ取られた妖精と精霊の愛し子だ! 首輪伝いに情報を引き出した」
「何故、そんな事を?」
「愛し子の子、聖人でも聖女でもなり得る存在が欲しかったんだと。自分達の正当性を示すために」
「ふざけんな! 私の子どもはそんな理由の為に生まれたんじゃ無い!」
私は首輪に手をかけた。
「壊して良い?」
「いいぞ、情報は全部仕入れた」
私は場きりと首輪を壊した。
「──あ、あああ、こ、ここ、は?」
「始祖の盛りの入り口だ? お前の名前は」
「エレフ……フィヨルド王国の村で精霊と妖精と妹と生きていた……けどある日……」
「紛争に巻き込まれた際に捕まったのだな」
「は、はい……み、ミーニャという少女を知りませんか? 妹なんです……!」
「ミーニャ?」
聞き覚えがあった、助産師の一人だ。
私は村に戻り、とっとことミーニャさんの家に向かいミーニャさんに事情を話すとついてきてくれた。
「ミーニャ!」
「エレフ兄さん!」
どうやら本当に兄妹だったようだ。
「何処へ行ってたの⁈ 兄さんの姿が見つからなくて心配だったのよ!」
「ごめんよ、ミーニャ」
「お母さんもお父さんも亡くなって、マイヤおばさんの家に厄介になってるの」
「父さんと母さんが亡くなった⁈」
「ええ、あの戦争で……マイヤおばさんもカルおじさんとアルト君を亡くしてアイシャちゃんとノーラ姉さん、ノルン姉さん、私の女五人で暮らしてるの」
「そうか……そうだったのか」
エレフさんは辛そうな顔をしている、ミーニャさんもだ。
「梢、我はしばし出掛ける」
「え?」
「似たような奴がいるかも分からんからな」
「う、うん」
「その間戸締まりと見張りはしっかりしておけ」
「わかった」
「一体、俺は何をしてたんだ? 変な首輪を付けられてから記憶が一切無いんだ」
「気にしない方がいいですよ、とりあえず……」
上から下から見るが、黒いヤバそうな物体は付けられていないが、黒い物体がある。
なのでローブを脱いでもらい何か出ないか見てみると首輪が出て来た。
私の子どもに付ける気だったと思われるそれを私は握り潰した。
一応ローブはアイテムボックスに入れて壊した首輪もアイテムボックスにぶち込んだ。
エレフさんを連れて村に戻る。
マイヤさん達が歓迎して泣いていた。
死んだかと思っていた人物が生きてたんだから嬉しいよねそりゃあ。
「窓の戸締まりはしっかりと!」
『怪しい気配があったらすぐ伝えるよー!』
『伝えるよー!』
精霊と妖精達が意気込んでいる。
先ほど不覚を取ったからかな?
私も気をつけないと。
「わぁ、コズエ様の赤ちゃん達とっても可愛いです!」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
「愛し子様の御子はよく寝る子だな、先ほどの事態でも動じてなかったし……」
「何が起きてるのか追いついてなかっただけですよ……」
うん、うちの子は寝る子だ、賢いなんて年を取って分かることだ。
だから大きくなるまではきっちり守らなくては。
でも、そのうち反抗期とか来るんだろうなぁ。
う、胃が痛い。
「どうしたのコズエ様?」
「ちょっと色々考え事をね……」
「無理なさらないでね」
「有り難う、イザベラ様」
心配かけたらいけないし、反抗期いつ頃来るかなんてのも人それぞれだし、考えるとますます胃袋が痛い。
「愛し子様、反抗期などについて考えていたのでは?」
「何故それを?」
マリア様に指摘され狼狽える。
マリア様はふぅと息を吐き、微笑んだ。
「まぁ、愛し子様の子等は特殊な環境にあるのだろう」
「デスヨネ」
「だが育て方によっては反抗期はないかもしれない」
「はぁ……」
「マルスとイザベラがそうだからな。反抗期らしい反抗期は無かった」
「確かに……」
「だから今から悩む必要は無い、反抗期が来た時にまた考えればいい、何処が悪かったかとかな」
「はい……」
「まぁ、私の勘では、反抗期に苦労するのは愛し子様ではなく夫達だと思うな」
「はぁ……」
「あくまで、勘だ。気になさらず」
私はなんとも言えない感情を抱えながら、赤ん坊を微笑ましげに見ているイザベラちゃん達を見つめた。
妖精と精霊の愛し子が隷属の首輪で悪用され、音彩が少しピンチに陥りました。
いやぁ、誘拐は危ない、夏だから換気の為に窓を開けたところを多分狙われたのでしょう。
洗脳されていたエレフさんは妹さん達と無事再会し、洗脳も解けました。
梢は自分の子がかなり重要なのを理解していますが、そんな理由で産んだんじゃねーよ! の一択で守り抜きます。
クロウが出掛けて改善すれば良いのですが……
ここまで読んでくださり有り難うございました。
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