夜の都とワインの価値
梢はクロウにアルトリウスの悩みを相談した。
その結果、夜の都へ行くことになる。
人が入れず、吸血鬼とダンピールと神の使いのみが入れる夜の都で梢達は──
「クロウおじちゃんいるー?」
『ん、なんじゃ?』
「実は……」
ちっちゃなドラゴン形態のクロウおじちゃんに私はアルトリウスの悩みの事を相談した。
『なら、儂が夜の都に連れてってやろう』
「夜の都?」
「聞いた事がある、吸血鬼やダンピールが住まう都だと」
『闇の神ネロの加護でその都は日中でも暗いんじゃ』
「へー、行ってみたいなぁ」
『人間は入れんが儂やお前さん達なら入れるじゃろ、ちょっと行ってみるか』
「遠くないの?」
『各地にあるから、そこまで遠くないぞ、本気出してここからなら一時間位じゃな儂に乗って』
「いや、それ遠い」
思わずツッコむ私。
『まぁ、行ってみると良い』
「そだねー行ってみるか」
「ああ」
そう言うと、クロウは家から出て巨大なエンシェントドラゴンの姿になった。
『じゃ、いくぞ』
背中に乗ると、今までに無い位の速さで飛んでいるのが分かった。
結界ごしに、景色がどんどん変わっていく。
一時間くらい飛ぶと、山の盆地に黒い影で包まれたドーム状の物体が見えた。
『あれが夜の都じゃ』
「なんか、黒い靄に包まれてるね」
『あれで陽光を防いでいるのじゃ』
クロウはその側に下りた。
兵士達が来る、血のにおいからしてダンピールだ。
「我はエンシェントドラゴン、貴様等の同胞を此処に案内しただけだ」
そう言うと兵士達は武器を下ろした。
「エンシェントドラゴン様どうぞ」
「梢、アルトリウス、行くぞ」
「あ、うん」
「了解」
クロウの後を付いて歩くと、賑やかな街並みだった。
「手っ取り早く金が欲しいのだったな」
「私じゃなくてアルトリウスさんがね」
「ならお前のブラッドワインを出せば良かろう、オークション会場がある」
クロウは他の店を気にもとめずまっすぐオークション会場へと向かった。
「これは、これはエンシェントドラゴン様、このような夜の都に何の用ですか」
「売りたいものがある、鑑定士を呼べ」
「はい、何をお売りに」
「ブラッドワインだ」
「ブラッドワイン? ブラッドワイン直売店に向かえば──」
「愛し子が作ったブラッドワインだ」
「‼」
オーナーらしき吸血鬼さんの目の色が変わる。
鑑定士さんらしき方が来て私が取り出した5本のブラッドワインを見て目の色を変えた。
「これはワイン直売店では扱えない代物です‼ 高価すぎて‼」
「急遽オークションの開始を宣言しろ!」
どたばたと走って行く。
「私は?」
「我とここに居よ。アルトリウス、お前はオークションを覗き見してこい」
「分かりました」
クロウがそう言うとアルトリウスはどこかへと向かった。
『急遽新規の商品が入りました! なんと「神の愛し子」が作りしブラッドワイン‼ 効能は様々、陽光耐性、若返り、etc……』
司会者が効能を説明していき、観客は聞き入る。
『では、五本セット100白金貨から始めましょう!』
「150白金貨‼」
「200白金貨‼」
どんどん値段がつり上がり、最終的には3000白金貨で落札された。
「見てきました」
「売れたか?」
「ええ、驚く程の値段で」
「ああ、いわんで良いぞ、梢は知らなくていいことだからな」
「あーうん、興味ないし」
「そこ、もう少し興味もっていいんだぞ」
「売り上げはクロウと、アルトリウスさんで分けて。私はいらないから」
「ちょっと待てそれは」
「あいにくお金には困ってないのよ」
「……」
「ブラッドフルーツはアルトリウスさんのお母さんリサさんが持ってたからすぐにブラッドフルーツを手に入れられた。だから気にしないで」
「そう、か」
「お礼は、狩りで得た獣とかのお肉で良いから」
「……有り難う」
アルトリウスさんは複雑そうな表情をしてた。
そんなに高い値段で売れたんかな?
気にはなるが、まぁいいや。
お金をクロウとアルトリウスさんが受け取りに行き、クロウはアイテムボックス、アルトリウスさんはマジックバックに詰め込んでいた。
やっぱりかなりの額なんだろうなぁ。
その後私達は特にやることもないのでそのまま帰路についた。
「クロウおじちゃん」
『なんじゃ?』
「今更なんだけど、白金貨一枚ってどれくらい価値があるの?」
『普通に暮らす農民なら、白金貨一枚で三年は楽に暮らしができるぞ』
「私のワイン白金貨で売れるんだよね、すげぇな」
『ああ、行商じゃな。もう少し高い値段で売ってもよいと思うんじゃが』
「だって私そんなにお酒飲まないし」
『じゃあ、なんで作るんじゃ?』
「えーっと換金用? それと村人とドワーフさん達用? シルヴィーナさんはお酒飲むと悪酔いするらしいから飲まないし」
『でもお前さん、さわーとかかくてるなるものを飲んでおるらしいではないか』
「飲んでるよーたまにね」
私はゴキゴキと肩を鳴らす。
「さて、今日はやること終わったし、帰ったらお風呂入ってゆっくり休むかぁ」
私は息を吐いた。
家の前に降ろして貰うと私は頭を下げさっさと休む事にした。
「アルトリウス」
「クロウ様、何でしょう」
二人きりになり、帰路を歩いているクロウとアルトリウス。
アルトリウスは言う。
「値段は決して言うなよ、それほどの価値があるものを生み出していると知れば梢は物作りができなくなる」
「……はい」
「梢は己が本心に自由であらねばならぬ」
「分かりました」
そこまで言ってからクロウは笑った。
「ただ、梢を好いているならもっとアプローチをハッキリせんといかんぞ? 見たところ鈍感のようだからな」
「なっ……‼」
アルトリウスは顔を真っ赤にして口をはくはくとさせた。
「ではな」
家の前で何か言いたげだが言えないアルトリウスを置いてクロウは自分の家へと戻っていった。
家に戻ると小さなドラゴンの姿になり丸くなる。
『やれやれ、若いもんはいいのぉ』
楽しげに呟いた。
「ふぁ~あ」
夕方頃私は目を覚ました。
「ごっはんごっはん!」
オーク肉 (実物がどんなのかはまだ未遭遇だけど多分二足歩行の豚だよね?)と野菜のスープと、スクランブルエッグと、牛乳とパン。
オーク肉美味いなぁ、でもどんなモンスターかは知りたくない。
とか思いつつ食事を取り終え、歯を磨いてジャージを着て外に出る。
「おっしゃ今日も畑仕事とか頑張るぞー!」
と気合いを入れていると──
「コズエ様」
「リサさん」
いつもの服を着ていた、あれもしかして好きなデザインではなかった?
とか思って居ると──
「申し訳ないですが、この服は着られません。私は貴方様に何もしてあげられませんから……」
深刻そうな顔でいった。
「お願いです、デザインが嫌じゃなければ着て下さい」
「ですが……」
「これは貴方の為に作った服、どうか着て下さい。貴方の縁があったからできたのですから」
「コズエ様……」
「という訳ですので返品不可です、私は聖獣のお世話をするので、では!」
私はそう言って家畜小屋へと向かった。
「コズエ様……有り難うございます」
ちらと見れば頭を下げてそう言うリサさんがいた。
「どういたしまして」
と、軽く返事をして、家畜小屋へと入った──
梢の作ったブラッドワインを競売にかけて手っ取り早く金を稼ぎました。
吸血鬼達は梢が愛し子だとは気づいていません。
まだ若い吸血鬼だな、程度です。
クロウは梢の作った物の価値を理解しているからこそ、梢に知らせません。
下手をすると彼女が嬉々として物作りできなくなるからです。
だから、アルトリウスにも釘をさしています。
ただ、同時に梢に恋心を抱いて居るアルトリウスにも助言はしています。
その時のクロウの思考は「若いっていいもんじゃの」です。
梢は気がついておりません、クロウの言う通り。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。