子育て(2)
村で子育てをする梢。
産まれてきた梢の子に皆が興味津々の様子で──
「よいしょっと」
夜、畑の整備をする私。
流石にベビーベッドに赤ちゃん達を置いて外に出る訳にはいかないので、アルトリウスさん達が赤ちゃん用の抱っこ紐で抱っこしている。
「コズエ様! 赤ちゃん見せてください!」
小声だがはっきりとした声で私に言う、村中の子ども達。
私は奥様方と会話をしているアルトリウスさん達を指さす。
「静かにね」
子ども達は頷きアルトリウスさん達の方へ行き、三つ子を見せて貰って居る。
「本当に三つ子だー、全員違うー」
「ふくふくしてるー」
「つぶれちゃいそう、怖い」
コズエとアルトリウス達の子どもを見て子ども等はそれぞれ思い思いの反応をしている。
三つ子はというと、全く気付いてないのかすやすや眠っている。
全員おしゃぶりをして眠っている。
「アルトリウス、初めての子はどう?」
「正直まだ戸惑いもあります、ですが守っていきたいという気持ちが強いです。母上」
「そう、良かったわ」
「母上抱っこしてみませんか」
「いいの?」
「ええ」
そう言って抱っこ紐を器用にずらしてアルトリウスはアインに晃を抱っこさせ、アインがリサに晃を抱っこさせた。
「ああ、ずっしり重いわ。これからどんどん大きくなるわね。白金の目は貴方、黒い髪はコズエ様ね」
「ええ」
だっこを終えたリサからアインは晃に手をやり、抱っこして、そしてアルトリウスの先ほどの定位置に戻した。
一段落ついたら、家に皆で戻り、三つ子は揺り籠の中で大人しくしていてくれた。
「みんなが助けてくれるから思い詰めなくてすんでるね」
「思い詰めるとかあるのか?」
「あるよー子ども産んでも周囲の協力が得られないと、思い詰めて子どもを殺しちゃうとか聞いたことあるから」
「そうなのですか……」
「大丈夫だ、ここでは村の皆も、私達も手伝う。コズエ一人に育児を任せたりしない、無論家事などもな」
「はい、勿論です」
「うん、有り難うみんな」
元の世界だと、父親もしくは母親が非協力だったり、子ども生まれた途端離婚したり、あるいは生涯を持った子が生まれると離婚して障害のある子と奥さん捨てたりとか、そう言うので捨てられた方に負担ばかりいき、思い詰めて心中してしまうこともある。
他にも離婚して子どもを引き取ったのに無関心になって殺しちゃうとか、死亡しても放置とか色々ある。
被害にあうのは最終的に子どもだ。
クロウにこの世界の事を聞いたが、後天的な障害はあり、体が弱いとかはあるらしい。
所謂虚弱体質という奴だ。
後天的な障害は戦争やダンジョン、モンスターと戦うなどで起きるらしい。
あと服毒とかで。
でも、それは私が治せる、私の作物が治せるらしい。
また、私の加護もあってか村ではそういう子どもは生まれないようだ。
不自由のない世界だが、不自由のある世界だなぁと今更思う。
虚弱体質じゃないと言うことは元気いっぱいの子ども達だから、親御さんも大変だというわけだ。
ただ、小さい子達が村からでないように結界は張ってあるらしい、クロウが。
危ないからね、有り難い。
「「「おお~~」」」
孤児院の子ども達が籠の中ですやすや眠っている三つ子に釘付けになってる。
「いとしごさま! おててさわりたいです!」
「馬鹿。起きちゃうだろ!」
「顔がふっくらでかわいらしいのー」
色々話合っている。
赤ちゃんはふっくらしていないと駄目なのには同感だ。
痩せた赤ちゃんは可哀想で仕方ない。
でも、テレビか何かで全然体重増えないから困り果てていたある夜目を覚ますと赤ちゃんは居なくて、遊具で遊んでいたから体重が増えなかったというオチがあったりした話もある。
うちの子ははいはいは寝室とかでしかさせてないし、お外では抱っこ紐か、籠の中で寝ていて貰って居るし。
歩き出したらまた大変な事になりそうだなぁと思いながら赤ん坊の籠を揺らす。
やることやったから一息ついているのだ。
アルトリウスさん達がわちゃわちゃと仕事をやり始めたので今私は子どもらと三つ子の面倒を見ている。
それにしても村の人数も増えたし、随分と広くなったものだ。
六年、こっちに来て六年も経過したのか。
短いようで、長い。
けれど吸血鬼人生を考えれば短いのだろう。
これから私は多くの人を見送ることになるんだろう。
そういう生き方をするんだろう。
吸血鬼だから。
「どうしたのー愛し子様」
「ちょっとね考え事を」
子ども達に言われてそう返す。
そうこの子達も見送ることになるんだろうか?
おそらく。
「コズエどうした、何か思い詰めていたようだが」
ベビーベッドに三つ子を寝かせ終えると、アルトリウスさんが声をかけて来た。
「うん、これから色んな人を見送るんだろうなぁって」
「……そうだな」
「そうしたらちょっと、ね」
「コズエ……」
幸い独りぼっちになることはない。
でも、村の事を、成り立ちを知っている人達は少なくなるだろう。
私がスローライフを求めて、作った村。
副産物でできたものだけど、とても楽しい人達ばかり。
とても優しい人達ばかり。
いつか、その優しい人達も亡くなるのだろう。
ルフェン君達も、皆。
「コズエ、例え今居る皆が亡くなっても、この村は変わらない。君の村だ」
「アルトリウスさん……」
「君が作り上げ、開拓し、村人を受け入れた場所だ。例え百年数百年経過しようとその事実は変わらない、きっと、子等に君への感謝の思いを引き継いでいくだろう」
「アルトリウスさん……有り難う」
きっと私は変化が怖かったのかな。
村の人達が吸血鬼だからと忌避するようになるのが。
アルトリウスさんに言うような未来になると良いな。
ふぎゃあふぎゃあ
おぎゃあおぎゃあ
ふぎゃあふぎゃあ
三つ子の泣く声。
「はいはい、お腹が空いたんでちゅねー」
そう言って胸元を開けて、二人に吸わせる。
晃はんくんくとブラッドフルーツの絞り汁を飲んでいる。
けぷっとゲップをさせて、寝かせてから、まだ飲み足りない晃におっぱいをあげる。
まぁ、おっぱいあげてると大変だけど子ども達の為だもんね。
完母がいいとは思わない、使えるものはなんでも使う。
晃も飲み終え、ゲップをさせて、寝かせる。
音彩と肇はすやすや寝ている。
晃はもだもだと動くので、指で遊ぶと握ってきたら。
この力結構強いのよね。
赤ちゃんってどうして握る力強いのかなぁ?
そんなこんなしてると、晃も眠ってしまった。
「晃と肇と音彩は?」
アインさんが尋ねる。
「寝てますよー」
「そうですか」
「もう少し早く帰ってくれば良かったですね」
「お二人は仕事があるんですから仕方ないです」
村内で仕事のある二人は仕方ない、日中やる仕事を夕方から始めてるのだから。
「だから休んでいいですよ、今日は」
「私達が起きた後、宜しくお願いしますね」
「分かってます」
「はい、勿論です」
そう言って二人が寝るのを見た私とアルトリウスさんは、リビングでお茶を軽く飲んでから寝室に戻って三つ子の様子を見ることにした。
「健やかに育ってね」
眠る子等に私はそう言った。
子等はすやすやと眠っていて、私はその光景が幸せだった。
梢が子ども達を見守るのと、梢が多くの人を見送る事を考えるという話です。
梢は吸血鬼ですから、この世界では不老不死に近い存在です。
特に神々の愛し子というのがそうさせています。
子どもを産んで親として色々と思いをはせ、子どもをまもらないとと覚悟をするのと、多くの人を見送ることに覚悟を決めないとと悩む梢。
きっと見送りながらも悩みそれを受け入れることはしないのでしょうね、梢は。
最期まで、もっと一緒に居たかったと願いながら見送るでしょう。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
反応、ブクマ、感想、誤字脱字報告有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。