梢が平穏を望んでも──
クロスベルト侯爵の件が終わって、秋になると今度はリザードマン達がやって来た。
どうやら沼地を汚染され住めなくなったらしく──
「貴族の結婚ってあんなんが普通なんですか?」
「まぁ、白い結婚というのもあるが……普通だと思わないでくれると有り難い」
マリア様が苦虫を噛み潰したような顔で言う。
ちなみにエミリアさんとブラン君、クロスベルト侯爵は馬車で帰っていった。
「まぁ、クロスベルト侯爵家は我が王室にとってはなくてはならない存在だ。これを機に改善することを祈る……」
「本心は?」
「本当に愛想尽かされろこの馬鹿者」
だよねー。
同じ女性としてそう思うよねー。
「アルフォンスでさえ、女性の扱いはきっちりとしていたのだぞ、子どもを産んだらはい終わりーじゃなく、正妃側妃の立場の違いあれど、ちゃんと対応していた。まぁ、メリーウェザーはそれでも文句を言ってアルフォンスを困らせていたが」
「ああ……」
何か目に浮かぶ。
「マルス様はどうです」
「彼奴もなんだかんだでアルフォンスの息子だ、正妃側妃達の対応はしっかりしている」
「良かった」
「ところで愛し子様はどうだ?」
「あははは……まだまだ発展してません私がどうも先に進むのが怖くて」
「確かにそんなこと言ってたな、だが交流はしてるのだろう?」
「それは勿論! 漸く人前じゃなかったら口にキスされても逃亡せずにすむようになりました」
「……愛し子様は本当に初心だな」
「初心というかまぁアレなのは反論できません」
私はため息をつく。
「まぁ、一歩前進だな、添い寝は平気なんだろう?」
「はい、平気です」
「……そこから進むと壁が高そうだな」
「あははは……ごもっともです」
私は苦く笑う。
「愛し子様」
「どうしたのです?」
「迷惑をかけてすまない、アレは我が国で解決すべき問題だったのだ」
「ああ……」
エミリアさん達の事か。
「別にいいですよ、頻繁にあったら流石に私も困りますが」
「そうだな、貴族達に徹底しておかねば」
「でも、どうしようもならないなら頼ってください、それならいいですよ」
「良いのか?」
「まぁ、頑張るのは私ではなくクロウですが多分」
「まぁ、そうなるだろうな」
クロウがやって来た。
クレープ食べながら。
「エンシェントドラゴン様、それは一体?」
「コズエが考案したクレープという食べ物だ」
「くれーぷ」
「今アルトリウス達が作って村人に配ってるから貰ってみるといい」
「では……」
私が考案したというが、元の世界にあった食べ物。
どうやらこう言う食べ物はなかったらしく、私は試しに三人に作って見せてたべて貰った。
結果これはいいとなり、今流行っているのだ。
実はブラン君も食べて居たりする。
エミリアさんも食べた。
「うむ、美味い」
「本当ですか?」
「レシピがあるなら登録して貰えばこちらでも作れるのだが」
「はいどうぞ」
クレープのレシピを渡してマリア様に渡す。
「コズエ様もいかがです」
「うん、苺の頂戴」
「はい」
そう言ってクリームと苺がたっぷり入ったクレープを食べる。
「うーん、美味しい」
「コズエ様、美味しいですね!」
「コズエ様、美味しいです!」
「コズエ様、こんな美味しいもの作ってくれて有り難う!」
「いや、レシピを考案して色々作っただけだから……」
と私は苦く笑う。
元々はここに来る前の世界にあったものだから。
「それでも凄いです! 王宮なら流行しそうですね!」
「かなぁ?」
そうだと良いんだけれど。
クレープ配布も一段落つき、私達は家でのんびり紅茶を飲んだ。
この世界に珈琲豆なるものがあってカッファと呼ばれる飲み物になるんだけど。
私は珈琲牛乳分と、村人と王宮分しか作っていない。
なぜなら──私は珈琲が苦手だからだ。
なので村人が飲む分と王宮に卸す分しか今は作ってない。
珈琲牛乳なら飲めるのになぁ。
なので私は紅茶とホットミルクばかり飲んでる。
「コズエ、どうしたのだ?」
「皆も好きなもの飲めばいいよ? 私カッファ苦手だから飲んでないだけで──」
「俺もカッファはあまりすかん、気にするな」
「私もです」
「私もあまり……ですのでコズエ様お気になさらず」
「んーそっか」
私はそう言って返した。
砂糖スプーン一杯分の紅茶。
ストレートを飲めればいいんだけど、私の味覚は子ども舌なところがあるのでストレートは飲めない。
シロガネのミルクから作ったホットミルクなら飲めるけど。
「何もなければいいんだけど……」
私は呟く。
「色々あったからな」
「吸血鬼が旦那で奥さんが人間の出産ラッシュ、エルダードワーフさんの移住、ついさっきあったエミリアさんの件……」
「出産ラッシュとエルダードワーフの件はともかく、先ほどの件はどうにかしたいものだな」
「避難所扱いされるのはいいんだけど、人間観のゴタゴタに巻き込まないで欲しい……」
エミリアさんの件は夫婦間の問題だったしね。
完全に旦那さんが悪い案件。
あれ、どうにかなるのかなぁ?
と思ったが、どうも案が思いつかない。
「多分これからも避難所になるんだろうなぁ」
「コズエ、お疲れ様です」
アインさんが背中をさする。
私は顔をテーブルに突っ伏したままため息をつく。
そしてマリア様達は夏の終わりが来たので帰って行ってしまった。
イザベラちゃん達が帰って二日後。
『秋ですよー』
『秋ですよー』
「コズエ様、リザードマンの集団が!」
「えっと、モンスター? それともそうじゃない?」
「そうじゃありません!」
「……一応出ようか」
森の入り口に向かう。
「愛し子様はいずこか?」
「私ですが……」
リザードマンの群れ三十人位が一斉に跪いた。
「お願いがございます、どうかこの村に移住させてはいただけないでしょうか?」
「え? どうして?」
「愛し子様──コズエ様はそうなった経緯を知りたいと申しております」
シルヴィーナが補足する。
リザードマン達は沼地に住んでいたが、ある日その沼と周囲の水辺が原因不明の汚染で生き物が死んでしまい住めなくなったそうだ。
このままでは飢え死にしてしまう、ならば愛し子が住まうという始祖の森に助けを求めよう。
という流れだそうだ。
「原因不明の汚染か、ちょっと我が見てくる」
クロウはドラゴンの姿になって飛びさっていった。
「……ここに居ても寒いだけでしょうから宜しければ村に入ってください」
「感謝申し上げる愛し子様」
リザードマンの長老っぽい人が言う。
このリザードマン達からは悪い気配も何も見えないし大丈夫だろう、と思い村に入れた。
そしてホットミルクを振る舞う。
ここまで来る際に少しだけ冷えた体には良かったらしく、おかわりを所望された。
そうしていると、げんなりした表情のクロウが帰って来た。
「アレは人為的なものだ、ロガリア帝国かカインド帝国の知識をもった輩がした」
「え?」
「あそこまで穢れてしまったなら特に汚染が酷い沼地は世界樹を植えないと駄目だろう」
「うへぇ」
「しかも特別な」
「……って事はリザードマンさん達帰れない?」
「そうだな。幸い、お前の家の方に沼地と水場がある、そこに家を建てれば良かろう」
「よしきた、任せて」
私は自分の家の方を進み、沼地と、水場を見つけると、木を切り倒した。
リザードマンさんは大きな家に皆でくらすと行ったので大きな家を二軒木で建てた。
「「「おおお!」」」
「好きな方に入ってください、では私は次の工程に」
「次の工程?」
「世界樹を貰って植えに行くんです」
そう言ってユグドラシルに向かい、特別な苗を貰い、クロウと共に沼地に行った。
すっごい臭かった。
で、なんとか土盛りをして沼を潰しその上に世界樹を植えると周囲の腐ったにおいは消えていた。
「なんで、こんな事したんだろう」
「お前を帰したら我はもう少し様子を見る、いいな」
「うん」
宣言通り、クロウは私を村に帰したら行ってしまった。
何もなかったらいいんだけど。
梢が平穏を望んでいても、向こうからトラブルが舞い込んでくるというものです。
それと梢と夫達の事情、相変わらずスローです、大丈夫なのかと思いますが安心してください、大丈夫です。
梢は料理を色々作ってるのでレシピ代でも小金持ちだったりします。
リザードマンの沼地汚染の事件、一体犯人は何者なのでしょうか?
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。