新たな移住者と梢の酒
エルダードワーフがやって来た。
梢の酒を飲んだエルダードワーフ達は定住することの許可を求め、梢は応じる
久々のクラフトで家づくりをし、家を提供してから村を歩いていると──
その日は新たな来客と言う名前の移住者が来た日だった。
まだ夏の暑い時期。
セミらしき虫の鳴き声が響く。
私は夕暮れ時に目を覚まし、棺桶から出ると、レイヴンさんが来ていた。
「レイヴンさん、どうしました?」
「エルダードワーフの方々が来ました」
「……はい?」
エルダードワーフさんというのは普通のドワーフさんより寿命が長く。
また酒には五月蠅いそうだ。
酒造りの知識もエルダードワーフ独自のものがあるとかないとか、そこら辺はよく分からない。
来賓の館その一の一室に通して待って貰って居たようで。
「ここの酒は儂等エルダードワーフが造る酒よりも遙かに美味い、作っているのは誰じゃ?」
同伴してくれたロドノフさんが頭を下げて私を紹介する。
「エルダードワーフ様、酒を造ってるのはこの神々の愛し子コズエ様でいらっしゃる」
「神々の愛し子が⁈」
「酒造りじゃと⁈」
「え、えーとまぁ、他者にに見せない方法で酒を造ってます、ですので私のお酒造りの方法は明かせません、すみません」
「見せられん、となると精霊や妖精がかかわっとるのか……」
「ははは、仰る通りで」
『僕達は言わないぞー』
『愛し子様のお酒造りの方法は内緒だー』
妖精と精霊達が言い始めている。
「……妖精と精霊も言わないとな」
え、妖精と精霊の声聞こえるの。
「エルダードワーフはハイエルフと同様に精霊と妖精の加護を強くもちます、ドワーフなので貰いやすい加護はエルフとは違いますが、妖精と話すことなど簡単です」
「ほへー」
「しかし、極東の吸血鬼がまさか愛し子だったとは驚きじゃわい」
「はははは……取りあえずお酒を一杯いかがですか?」
「おお⁈ いいのか⁈」
「私あまりお酒飲まないので貴方達が求めている酒が本当に私の酒か分からないですし……」
そう言って葡萄のワインを取りに行く。
グラスにワインを注ぎ、エルダードワーフさん達に出す。
「うむ、良い香りじゃ」
「味もよいな」
「うむ、儂等が飲んだ酒はこれじゃ、間違い無い」
「そうですか、よかった」
私が胸をなで下ろしていると、エルダードワーフの三人は頭を下げた。
「な、なんです?」
「頼みがある、儂等をこの村に居座らせてくれ」
「無論村の事情は既にそこのハイエルフから聞いておる」
「その上で、儂等はこの村で酒造りをしたいんじゃ」
「どうします?」
「問題を起こしたらたたき出せば良かろう、まぁ問題は起こさないだろうがな」
レイヴンさんの言葉に、クロウが答えた。
「じゃあ、いいですよ。ところでお名前は?」
「儂がリーダーのドーガズじゃ」
「儂がベルンガ」
「儂がレイガンじゃ」
「家はいくつあればいいですか?」
「要望を聞いてくれるのか? なら工房を兼任する儂等三人が住む家をくれ」
「分かりました、ちょっくら作ってきます」
「なぬ?」
「今世愛し子は物作りが得意でな、お前達の要望を聞いた家を作ってくれるだろうよ。すぐにな」
「エンシェントドラゴン様、それは本当で?」
「嘘をついてどうする」
クロウは呆れのため息をついた。
梢は今までの愛し子以上に物作りの才能に恵まれている。
それもこれも、スローライフの為のもの。
「できましたー」
ドワーフの居住区に一軒家と工房をくっつけたものを建てる。
「……本当じゃ」
「エンシェントドラゴン様の言う通りじゃ」
「しっかりした作りじゃ、中はどうなっとる?」
「あ、道具は持ってきたと聞きましたので、工房部分は空っぽですよ、瓶とかはありますが」
「本当じゃ、よし、道具を運ぶぞ!」
「「おう!」」
ドガーズさん達は道具を運び入れていった。
「まさかエルダードワーフが来るとはなぁ」
「ロドノフさん」
「エルダードワーフは酒に特に命をかけている、だから並みの酒では動かんのだが……」
そう言ってちらりと私を見た。
「さすがコズエ様の酒じゃ、あのエルダードワーフ達を動かすとは、しかもエルダードワーフのドガーズを」
「知ってるんですか」
「知ってるも、何も酒造りでは有名なエルダードワーフじゃよ、こいつの酒を超える酒はないとまで言われ取ったんじゃが……」
「私のお酒が……」
「そうじゃ、あのドガーズが認めざる得ない酒を造るコズエ様はさすがじゃのぉ」
「ははは……」
クラフト小屋で謎製法で作ってる事は言えない。
自分でもどう作っているのかさっぱりだ。
素材とか作物を持ち込んで、クラフトスペースにぶち込んでしばらくしていると完成するから。
何か色々考えたくなくて歩いているとメルトとシャルロットさん、とまた豆柴、黒い色の子が現れた。
「シャルロットさんどうしたんですか」
「エンシェントドラゴン様にメルトの番いが欲しいとお願いしたら、極東まで連れて行ってくださって、メルトと相性の良い子を選んでくださったの」
「へー……あのクロウが」
内心驚愕。
そしてメルトともう一匹を見る。
仲よさげにすりすりと頬をこすり合っている。
「ちなみに名前は?」
「ロワと名前を付けました」
「ふーむ」
まぁ、いいんじゃないかな?
「ちなみに雄ですよね」
「ええ、ロワは雄です」
きゃわん!
わんわん!
二匹は元気よく吠えている。
「よーし、元気の良い子達だ、でもシャルロットさんとミカエルさんとシャーロットちゃんを困らせたらだめだぞ?」
と言いながら頭を撫でると吠えて手にじゃれた。
ちょっとよだれでべとつく、後で洗おう。
「ではシャルロットさん、お体をお大事に~~」
「はい、コズエ様」
シャルロットさんと別れて家に戻り手を洗うと、私はリビングで一人シードルを飲み始めた。
うん、シードルは美味しい。
甘くてそれでいてお酒飲んでる感も楽しめていい。
「コズエ、酒か?」
アルトリウスさんが声をかけて来た。
「うん、何となく飲んでみたくて」
「私も少しくれないか?」
「いいよ」
瓶に入ってるシードルをグラスに注いで渡す。
アルトリウスさんはくいっと飲み干した。
「コズエのこの酒はいいな、悪酔いしない」
「そう?」
「俺も母も酒には強くなくてな、だがこの酒は母も好んで飲むそうだ」
「今はイリスさんちで暮らしてるけど寂しくない?」
「大丈夫だ、毎日会いに行っている」
「そっか、それなら良かった」
「イリスのところのサフィロにお祖母ちゃん扱いされてるそうだ」
一緒にいてお世話してるからかな、それにしてもロッズさんどんまい。
「どうした?」
「……」
アルトリウスさん、本当なら自分の子を抱いて欲しいだろうに、それを言わない。
いや、言いたいのを我慢してる。
全部私が怖がってるから──
「ねぇ、アルトリウスさん、私──」
「コズエ、言わなくていい。君以外考えられないけれども、君に無理強いする気は無い」
「でも……」
「なに、孫が生まれたら喜ぶだろうがそれより夫婦仲が良い方が母は安心するだろうさ。時間をかけて私達なりに進んでいこう」
「うん」
アルトリウスさんは私の手をにぎり、私はアルトリウスさんの手を握り返した──
梢の酒がエルダードワーフのいる土地まで流れていったようです。
そしてエルダードワーフの偉い人達が定住することを決めました。
それほど梢の作ったお酒は美味しいようですが、クラフト小屋で作っているので梢は苦笑いですますしかありません。
そしてシャルロット、メルトに番いとしてロワという豆柴を見つけてきたようす、クロウが手伝って。
梢は二匹に言い聞かせたのでシャルロット達が困ることはないでしょう。
そしてアルトリウスとの会話で梢はまだ怖がっているけど、勇気をだして言おうとしけど遮られます。
怖がっている相手にアルトリウスは無理強いするつもりはないからです。
ここまで読んでくださり有り難うございました!
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
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