落ち着く日々
梢が目を覚ますととっくに日が暮れていた。
慌てふためく梢に、仕事は全て終わった事を告げるティリオ。
それに驚きつつも落ち着きを取り戻す梢に、ティリオは──
「んふぁ……」
目を覚ますと棺桶の中だった。
「……誰か運んでくれたのかな?」
そう言って棺桶から出ると日は沈んでいた。
「うわやっべ、寝過ぎた」
慌てて身だしなみをとどのえる。
髪の毛をとかしていると、ティリオさんがすっと後ろに立った。
「コズエ様、どうなさいました」
「どうも、こうも、こんな時間に起きちゃったから慌ててるの!」
「今日は仕事はありません、コズエ様が危惧している温室の雪下ろしもしましたし、収穫もしました」
「え、本当?」
「はい、ですから落ち着いて。櫛を私に」
そう言って櫛を渡すと魔導水鏡に映る私の姿を見ながらティリオさんは髪をとかし結い始めた。
「……はい、これで良いでしょう。今日はアルトリウスさんがパンケーキを焼きました」
「本当?」
「はい、魔導冷蔵庫の中からイチゴとなまくりーむの素を使わせて貰いました」
そう言ってティリオさんは手を引く。
食堂へ行くと、生クリームとイチゴで飾られたふかふかのパンケーキが用意されていた。
「わぁ……! あれ、みんなの分は?」
「もう食べた」
「ええ、食べました」
「はい、いただきました」
嘘を言ってる感じはしない。
「じゃあ、食べるね」
私は椅子に腰をかけて、ナイフで切ってフォークで刺して食べ始める。
「んー! 美味しい!」
生クリームもほどよく、甘く、苺は甘く美味しかった。
「おかわりはいるか?」
「あるの?」
「勿論」
「じゃあ食べる!」
「分かった」
アルトリウスさんはパンケーキを皿にのせて、生クリームと苺で飾り私の前にだし、空になったのを下げた。
また私は食べ始める。
美味しくて手が止まらない。
やっぱり自分の作るごはんより他人の作るご飯の方が嬉しい。
「今日は雪も降ってませんし、宴は散々昨日尾やったので静かにしていましょう」
「うん……」
これも本当っぽい。
「コズエ、本を読むのは好きですか?」
「うん、好き」
「どんなものがお気に入りで?」
「恋愛かなぁ……」
悩んだ末にそう答えた。
「シルヴィーナがコズエにと本を持ってきてくれたので読みますか、ジャンルは恋愛ものですよ」
「読む!」
食い気味に言うと、アインさんは苦笑した。
ロッキングチェアーに揺られながら本を読む。
異世界の恋愛本というのも中々面白い、身分差もあるし、前世ものもある。
ただ、私が読んだのは史実に基づかれて書かれたロングセラーもの。
そう「愛し子」が愛した男と愛し子のお話である。
お祖母ちゃんでないことは確定だ。
だが、愛し子が実際に愛した結果の話だった。
愛し子が愛したのは自分の護衛をした騎士、思いが通じ合った途端愛し子と結婚を目論む王子によって騎士は遠方へとやられるが、愛し子はそんな王子を断罪し、騎士の元に行き、幸せになり子ももうけたというのだ。
正直できすぎてるとおもってクロウにこの物語の真偽を聞いたら真実だった。
「多少齟齬はあるが、内容はあっている。愛し子と騎士の子孫達は聖女、聖人として人の為になすべき事をなした。カインド帝国が他の国々を押しのけて力ある国としてやらかす前はな」
「じゃあ、その子孫さんは……」
「いや、わずかに生き残った者がおり、そのもの達が血を繋いでいる、聖人、聖女の力は無くともな。愛し子と騎士がいて、その子等が居た証を消したくないとな」
「へぇ……」
そんな話をして家に戻った。
アインさんとティリオさんはもう寝ていた。
そりゃそうだ、もう夜は遅い。
「コズエ、何か食べるか」
「うん」
アルトリウスさんがそう言うので頷くとアルトリウスさんは食パンにレタスとハムを入れた物と、フルーツを入れた物をだした。
どちらも、私が作り方を教えた物だ。
それに、ミルクスープを添えられた。
サンドイッチに満足すると、スープを飲む。
出汁が取られてて美味しい。
ミルクも美味い。
「ごめんねー、今日は料理をしてなくて」
「いや、コズエが料理を楽しめないのであれば変わるとも」
そう言われて目を丸くした。
「そんな風に見えた?」
「ああ、昨日の君の料理は、楽しそうではなかった」
「……そっか」
少し反省。
料理が楽しめない位参ってたのかと。
「コズエ」
アルトリウスさんに言われて顔を上げる。
「こっちへ」
椅子に座っているアルトリウスさんに近づくと、頭を撫でられた。
「いつも抱え込んで辛かっただろう、私に言えない事もあって」
そう撫でられると、ぽろりと涙がこぼれた。
「え、あ」
涙が止まらない、止められない。
すると抱きしめられた。
「忘れないでくれ、私やアイン、ティリオは君の夫なのだ。君の支えになりたいんだ」
私はぐすぐすとアルトリウスさんの腕の中で泣いた。
「……」
アルトリウスは泣き疲れて眠ってしまったコズエを抱きかかえて寝室に連れて行った。
自分の棺桶の中に横にさせ、着替えて棺桶に入り抱きしめて目を閉じた。
ダンピールの自分とは違い吸血鬼なのに子どものように暖かいその体を抱きしめながら。
「んむぅ……」
目を覚ますとアルトリウスさんの棺桶の中だった。
蓋を明けると誰もいない。
今日も日が沈んでいる。
着替えて、顔を洗って髪をとかしていると、アインさんが後ろに立った。
「昨日はティリオがやったので、私が髪を結って良いですか?」
「あまり凝ったものでないのなら」
「勿論です」
髪の毛を結って貰い、食堂へ向かう。
「ああ、似合ってますよ。さて食堂へ向かいましょう」
「うん」
食堂へ向かうと、アインさんが料理していた。
トーストの良い匂いと、スクランブルエッグとベーコンとサラダが並んでいた。
私はドレッシングをとり、自分のサラダにかける。
「いただきます」
トーストのサクサクもっちりした感触と、スクランブルエッグの味と、ベーコンの旨みと塩気、それとサラダとドレッシング。
それぞれの旨みがしっかりしていて美味しかった。
「今日は雪が降ってるから雪かきをしましょうか」
「うん」
そう言って四人とも着込んで雪かきを始める。
この二日降ってなかった分降っているようにどか雪だった。
途中でおやつの休憩を挟みつつ、雪かきを終え、温泉に向かう。
ベアトリーチェさんが温泉が楽しめない吸血鬼用の暖かいスライム風呂を作ったのでアルトリウスさんはそっち。
私は女風呂、ティリオさんとアインさんは男風呂。
雪の降る綺麗な光景を見ながら風呂に浸かり、そしてでて体を拭いて合流して家に帰る。
アインさんとティリオさんは眠り、私とアルトリウスさんは雪かきを続行。
他愛のない話をしながら雪かきをした。
時折、頬や頭を撫でてくれる。
大切な人から触られるのは嬉しい。
少しずつ気分が楽になるのを感じながら、私はアルトリウスさん達と日々を過ごしていた──
梢が落ち着いて遅れる日々の話です。
分かりづらいかもしれませんが、皆で梢を愛でています。
羞恥心が決して刺激されないように。
なので気付かない梢はのんきに料理や本などを楽しんでいます。
ただ、溜め込んでいたのは事実なのでアルトリウスに言われてぐずぐずと泣きました。
それでより軽くなり、前向きになっています。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。