抱え込み、吐き出せず
梢の髪の長さが戻り、ヘアアレンジをされる日々を送っていた。
その日はティリオにヘアアレンジを頼み、雪かきをしていた。
翌日雪が降っていないのでスープを振る舞おうと梢は料理を始める──
結局髪の毛の長さは今まで通りに戻り、私の髪は毎日色んな人にヘアアレンジされる日々が始まった。
「コズエ様、どうでしょう?」
「あ、うん。ありがとう」
私はティリオさんに頭を下げる。
皆凝った髪型にしたがる中、ティリオさんだけはシンプルな髪型にしてくれるから気が楽だった。
「いつも有り難うね」
「いえいえ、ですが私などでいいんですか?」
「いいのよ……他の人だと髪飾りまで派手なのを付けたがるし」
「ですが……」
「こういうシンプルなのが好きなのよ、ありがとう」
私は椅子から立ち上がり、外へ出た。
相変わらずの豪雪っぷり。
温室が壊れないように雪を払い、除雪作業に勤しむ。
「うー少し寒い! 明日雪が少なかったらスープ作って村の皆に振る舞おう」
そう言いながらざくざくと雪かきを続けた。
翌日。
「あれ、雪止んでる、というかほとんど降ってない」
私はぼやく。
「まぁ良いか、スープ作りだ!」
「わーい!」
「わーい!」
喜ぶ子ども達。
一二三ちゃんたち善狐の子ども等も喜んでいる。
一二三ちゃんは控えめだけども。
「久々にポトフを作ろうと思うわ」
「わーい!」
「俺ポトフ好きです!」
「良かった」
私はそう言うと、早速料理に取りかかった。
野菜を切り、ベーコンを切って入れ、ウィンナーを入れ、煮込み、スープの素を入れて胡椒を入れる。
ぐつぐつ煮込めば美味しいポトフの完成……だと思う。
うん。
野菜もほくほくとろとろで、肉もジューシーで、スープも胡椒を入れたのが良く、美味しかった。
できあがったポトフを配ると皆嬉しそうにしてくれた。
一息ついて、焼きたてのパンとポトフを食べる。
よそう役はティリオさんが変わってくれた。
アルトリウスさんはパンを焼き、アインさんが配っている。
「愛し子様」
「んぁ? ああヴェロニカさんですか」
「……具合が悪いので?」
「……かもしれません」
私はため息をついた。
周りは妊娠ばっかりで、気が滅入っているのかもしれない。
おめでたいことなのだが、こうも続くとそうじゃない例外の自分の肩身が狭く感じる。
その結果ストレスを溜め込んでいるのかもしれない。
寝込むなんてメンタルやられなきゃ起きないので今はその状態なのかもしれない。
「愛し子様は繊細なのだ」
「そうでしょうか?」
「繊細だ」
「……」
「貴方様は苛立ちを溜め込む気質だ、どんなものであれ」
「……そう、かな」
「そうだとも、今まで見てきた私がこう言うのだからもっと身近な者に聞いてみるといい、そうすれば分かる」
そう言ってヴェロニカさんは、吸血鬼用のスープをよそいに戻った。
「……」
繊細なのかな?
「どうしました、コズエ様」
「ねぇ、シルヴィーナ、私具合悪そう?」
「……はい」
そっか、シルヴィーナにも具合悪そうに見えるんだ。
「なんでそう見えるのかなぁ……」
「具合が悪そうというより、何かを抱え込んでいそうが正確ですが」
「……」
何かを抱え込んでいる。
確かに色々と抱え込んでいる。
そういうことが怖くてできないとか。
皆子どもを持っているのに、私はないとか。
そもそも愛し子としてどうするべきなのか、とか。
色々ありすぎて憂鬱になる。
「はぁ」
そもそも解決できる気がしない。
「コズエ様は、コズエ様のままでいいんですよ」
「本当にそう思う?」
「はい!」
元気よく言うシルヴィーナ。
いつもならこの元気に励まされるんだけど、何か今は上手くいかない。
心が重い。
「あ゛──駄目だわ、今日は本当に……」
「コズエ様……少しお休みになられたらいかがです?」
「……そうする」
私はのろのろと立ち上がり、その場を後にした。
家に帰り、仮眠用のベッドに横になる。
何かが足りない。
冬だから畑仕事もほとんどない。
今幸せなはずなのに、満たされない感覚。
「はぁ~~……」
何が欲しいのか分からない。
何が自分に足りないのか分からない。
どうしてこうなってるのか分かるようで分かっていない。
悩みばかりが膨らんでいる。
「コズエ」
「アインさんですか……」
「シルヴィーナから話は聞きましたが、本当に精神的に疲れているようですね」
精神的に疲れているというか、何か消化不良というか、多分どっちも。
体を起こそうとしたら、そのまま寝かせられ、隣にアインさんが横になった。
「少し早いですが、寝ましょう。カーテンで日の光も入ってきませんし」
そう言えば何故か眠い。
メンタルの疲れが出てたのか、背中を軽く撫でられる感触に心地よさを覚えて気がついたら私の意識は心地の良い眠りに誘われていった。
すぅすぅと寝息を立てるコズエの髪を撫でて、アインは額にキスをした。
「コズエの様子はどうだ?」
「精神的に無意識に自分を追い詰めてたのでしょう、今はぐっすり寝てますよ。きっと眠りも浅かったのでしょう、ここのところ添い寝も無かったですから」
アルトリウスが入って来たので、アインは起き上がり、コズエの頭を撫でた。
「きっと甘えたかったんでしょう、でも誰でもいいわけじゃ無い」
「……」
その言葉にアルトリウスは考え込むような仕草をした。
「おい、梢はどうだ?」
「アイン様、コズエ様はどうですか?」
クロウとティリオが部屋に入る。
アインとアルトリウスは二人を見る。
「眠っていますよぐっすりと」
「うむ……ここ最近の出産ラッシュで色々悩む羽目になったのか?」
「それでしたら、まだ続きますよ」
「分かってる」
「息抜きが上手くできなくなってたのでしょう」
クロウ達の言葉を聞いたアインが梢の頭を撫でる。
梢はすやすやと、穏やかな表情で眠っている。
「おい、お前達に厳命だ」
「何ですか?」
「何でしょう?」
「何でしょうか?」
「梢の羞恥心を刺激しない程度に梢を甘やかせ」
「甘やかす?」
「今の梢はストレスで自分の首を絞めている、だから無理をさせるとよりストレスがたまる、だから羞恥心を刺激しない程度に梢を甘やかせ」
「かなり難しいのでは?」
アルトリウスが口を開く。
「それくらいできるだろう、お前達は梢の夫だ」
「……分かりましたやってみましょう」
アインがそう答えた。
「そうこなくては」
クロウは満足げに頷いた。
梢自分の中に訳の分からないものを抱え込みグロッキーになる。
今の梢はそれが何なのか分かりませんが、そのもの所為で精神がかなりやられています。
そこでクロウが梢の羞恥心を刺激しない程度に負担を軽くする──甘やかすようにアルトリウス達三名に命令します。
三人はできるのでしょうか。
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