梢は髪を切ったが──
シルヴィーナの子ども二人が梢の髪の毛をしゃぶった日から梢は悩んでいた。
そしてある事を実行しようと、ティリオに髪切り用の鋏を渡した。
長い髪を短くしてほしい、と言うとティリオは慌てだし──
シルヴィーナの双子ちゃんが私の髪の毛をしゃぶった事件から数日、悩んだ私は──
「ティリオさんちょっといい?」
「なんでしょうか?」
髪切り用の鋏を渡す。
「髪の毛切って欲しいのばっさり」
「な、何故⁈」
私の発言にティリオさん戸惑いまくり。
「いやね、クロウの発言からハイエルフの赤ちゃんを抱っこする度に私の髪の毛しゃぶられる可能性がでてきたから髪の毛ばっさり切って赤ちゃんが髪の毛しゃぶるのしないようにさせたいの」
「何だそう言う事でしたか、てっきり我らと離婚とかを──」
「考えてないよ」
「森から出るとか──」
「それも無いから切ってよ」
ヘアカット用品を渡し、髪の毛が服に着かないように体を覆う特殊な布で、髪の毛を切っていく。
「梢、腹が減った──何をしてる⁈」
クロウが入ってくるなり声を張り上げた。
「髪の毛長くなったから切ってもらってるの、それだけ」
「なんだそれだけか、驚かせるな」
「何よー髪を短くすると何かあるの?」
「離縁する、世俗から離れる、と言った意味が女性では聞くな。もしくは女性扱いされないために髪を短くするというのも聞いた」
「そう言うのじゃないから安心して、赤ちゃんが髪の毛しゃぶるの防ぎたいだけだから」
「なるほど」
そうしていると髪の毛が短くなった。
ショートボブ。
ここに来た頃の髪型。
「あーさっぱりした」
「……本当にこれ、よかったんですかね」
「誤解は生むが仕方なかろう、取りあえず梢、お前の髪の毛はアイテムボックスにしまっておけ」
「あ、うん」
私は切った髪を集めて袋詰めし、アイテムボックスに入れておいた。
「いつか役に立つ」
クロウがそう言うが何のことかさっぱりだ。
「そう?」
私は髪を切ったので帽子を被ってコートを羽織って外に出る。
結果。
皆から理由を聞かれた。
なので正直に喋った。
愛し子だからということを省いて赤ちゃんが髪の毛しゃぶるのはちょっと不味いし、そろそろ頭が重くなってきたから切ってもらったということ。
それだけだということを。
説明してなんとか納得。
離婚するのと聞かれたときは「無い無い」と笑った。
髪切るだけでこんな大事になるとは。
結うべきだったか?
なんて今更考えたも遅いし、頭が軽くなってすっきりしたから良し。
やはり世界が違うと髪を切るだけで大事になるのか。
そういや、よくよく考えたら女性はルビーさん見たいな女性騎士と聖女以外は皆髪を長くしていたよな。
村の女性達だってみんな髪が長い。
なのでクロウに聞いてみた。
「短くするのには何か理由があるの? というか長くしなきゃいけない理由があるの? 何で短くしちゃ駄目なの女性は」
「女性の髪にはディーテ神の加護が宿ると言われ、豊穣などの証とされる。だから長ければ長いほどよい」
「だから長いんだ」
「男の神にはと創造神デミトリアスと戦神ファルスの加護が宿るとされていて、両方とも髪は短く描かれる。その為多くの男は短い、結果その加護をあやかろうという女性は短くする」
「ティリオさんとかアインさんとかアルトリウスさんは長いよ?」
「まぁ聞け、魔力は髪の毛に宿りやすいとされているのだこの世界では。だから魔力関係の仕事に就く者や何らかの加護を持つ者は髪の毛を長くする」
「……そういや吸血鬼の方々も髪の毛長かったな」
「だから基本的髪の毛は長くする傾向にある」
「ハゲの人はどうなの?」
「まぁ……魔力と縁遠かったと言われる程度だ。そもそもこの世界のハゲは少ない。人間とドワーフくらいだ。ドワーフの男は髭に魔力が宿ると言われているからそっちを重要視している。若いドワーフは髭でなく髪だが、髭が生えてくれば魔力はそっちに移動するので髪の毛が亡くなってもドワーフの奴らはなんとも思わん」
「や、ややこしい……」
神様なんかややこしい作りしてません?
「に、人間は?」
「奴らは基本髪だ、だかえらハゲはほぼ無い──が、神の怒りや妖精、精霊の怒りを買ってハゲになる奴、髪の毛から魔力をごっそりぬかれて白髪になる奴がいる。銀髪は間違えられやすいが魔力が貯まりやすい髪だ、金色も」
「黒は?」
「闇や夜の妖精と精霊に愛される髪色だな、吸血鬼からすれば喉から手が出る程欲しい髪色だ」
「そんなに?」
「そんなにだ」
髪色にもそんな要素があるとは恐るべし。
「なんか一気に知らない情報が出て来て頭がごちゃごちゃだよ」
「だろうな、お前は覚えるのには時間がかかるほうだろう」
「反論できない」
そうだ、ちっちゃい頃から人並みから離れて遅くて。
頑張ってついて行こうとしてボロボロになった。
「まぁ、覚えるのは時間をかければいい」
「?」
「此処ではお前が覚えていない前提で話が進んでいる」
「どゆこと?」
「忘れたか、お前はこの世界の大半を忘れた状態で転生させられたと言っているのを」
「あ」
そうだそうだ、そんな事言ってたわ私。
「なら髪を切ることに躊躇いがないのも周囲は戸惑いはするものの納得がいく」
「他の連中に言ったら哀れまれたぞ、吸血鬼になる前一体どんな酷い事をされたのだ、と」
「うぐ」
「まぁ、我に言っても結果は変わらんがな」
「ちょっとー!」
結果くらい変わってよ!
ドンドンドンドンドン‼
ノック音というか扉をたたく音に私は驚く。
クロウが扉を開く。
「コズエ様! どうして一言このシルヴィーナに相談してくれなかったのですか!」
「えっと……」
シルヴィーナに詰め寄られる。
「私達でしたら髪の毛を切らずとも良い髪型を考案できましたのに」
後ろの女性陣がうんうんと頷きあってる。
「シルヴィーナそれは違う、私髪の毛の重さが鬱陶しくなったの。だから切ってもらったの」
「あの美しい髪を……」
「また伸ばせば良かろう」
クロウが口を開く。
「どれだけ時間がかかるか!」
「吸血鬼やエルフなら一瞬だろう」
「他の方々にとっては長い時間なのです!」
「仕方ない神々からはあまり言わないように言われていたが言うか」
クロウ何言おうとしてるの?
「コズエの髪は一定の長さになると伸びなくなる。切っても七日で元通りだ」
「はぁー⁈」
ちょっと神様、聞いて無いよ!
せっかく髪の毛切った意味ないじゃん!
「これなら良かろう」
「わ、私が髪を切った意味は……」
「まぁ無駄だったというわけだ、だが愛し子の髪には魔力が多く含まれている、精霊や妖精などに与えてみろ、面白いことが起きるぞ」
「絶対やらない」
とんでもない事が起きるのが目に見える。
「何だつまらん」
つまらんってなんだよつまらんって!
「せっかく頭軽くなったのにまた重くなるのか……」
私は憂鬱になる。
「コズエ様、長い髪に何かトラウマが?」
「うーん、どうだろう、忘れちゃった」
お前なんかに長い髪は似合わない。
うん、言われたな向こうの世界で。
「コズエ様、貴方には長い御髪が似合います」
「髪の毛の手入れは私達にお任せ下さい、長くなったら色んな髪型にしましょう!」
「はは……赤ちゃんが間違ってしゃぶらない髪型ならいいかな」
「大丈夫です、そうします!」
そして一週間後。
私の髪は切ったときと元の長さに戻っていた。
憂鬱だ、滅茶ロングではないとは言え、頭が重い。
文化の違いですね。
男女の髪の長さの違いの理由、アルトリウス、アイン、ティリオが髪を伸ばしている理由。
他の種族はどうなのか、あとハゲはどうなのかなど色々です。
ただ、梢は愛し子なので髪を切ることで大騒ぎになりました。
が、梢の髪の毛はクロウが宣言したとおり一週間で元通り。
ある意味徒労で終わります。
梢の回想は、梢の心を傷つけて生き辛くさせた誰かですが、今の梢には関係ないですね。
長い髪をシルヴィーナ達にまとめられる日々が始まりそうです、本人は嫌そうですが。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。