シルヴィーナの出産
棺桶にはいって寝ようとする梢をレームが止めにやって来る。
どうやらシルヴィーナが破水したらしい。
慌ててシルヴィーナの家にすっ飛んでいく梢だが──
「さて、そろそろ寝ようか……」
その日は棺桶に入ろうとした時、レームさんが家を訪れた。
「コズエ様!」
「どどどど、どうしたの⁈」
思わず挙動不審になる。
「シルヴィーナの破水が始まりました!」
「えぇええええ!」
眠気がぶっ飛んだ。
「るるる、ルズさんには!」
「起こして来て貰いました、コズエ様も来て下さい!」
「や、役に立つかはわかんないけど行くね!」
パジャマから清潔な服に着替えてハイエルフの居住区に向かう。
「あれ、レームさんは入らないの?」
「出産は神聖な行為とされている為男は入れないんです」
「ああ……」
私はシルヴィーナの家に入る。
ルズさんが既に対応している、シルヴィーナは辛そうだった。
「コズエ、様」
「シルヴィーナ、頑張って!」
手を握り、応援する。
というかそれしかできない。
「おお、頭が出て来た! これは早い!」
え?
それから一時間後──
ふぎゃあふぎゃあ!
ふぎゃあふぎゃあ!
驚異的な速度で出産が終わった双子なのに。
ルズさん曰くこんな安産見たことないとのこと。
まさか、神様のお得に入って……るだろうな、うん、多分。
「コズエ様、祝福を」
「えっと確か……」
額に柔らかくなった世界樹ユグドラシルの葉を貼り、頬を水で塗る。
そして剥がす。
それを二回。
「これで良いんだよね?」
「はい」
双子を抱きしめながらシルヴィーナは微笑んだ。
「もうレームさん入れていい?」
「はい」
私は外に出てちょっと眩しいなと思いつつも、レームさんに声をかける。
「レームさーん、子ども生まれましたよー! 双子で、男の子と女の子ですー」
そう言うと、扉が開いて、わっと花びらが舞った。
ハイエルフさん達が出て来ている。
「レーム良かったなぁ!」
「おめでとうレーム!」
「さぁ子どもの元へ!」
レームさんは家の中に入る。
「ああ、俺とシルヴィーナの子達かぁ……」
双子を抱かせて貰い嬉しそうに抱きしめるレームさん。
「しっかりするんだよ、アンタは父親になったんだからね」
「はい!」
ルズさんに言われて返事をするレームさん。
しかし、ハイエルフの赤ちゃん、人間の赤ちゃんと変わらないなぁ。
生まれたばかりの時と。
なのに、なんでハイエルフは時間がかかるんだろう?
疑問に思ったならまず行く場所は。
「クロウー! 質問ー!」
「大体予想はついている、ハイエルフの事だな」
「うん」
「では我の家に来い」
「はーい」
クロウの家に行き、リビングにある椅子に腰をかけ、クッキーをアイテムボックスから取り出し、紅茶を入れる。
クロウの家だが、勝手にやっても構わない、暗黙の了解だ。
「このクッキー美味いな」
「それはどうも、ねぇなんでハイエルフは二年も妊娠期間があるのに赤ちゃんは生まれてきた赤ん坊は人間の赤ちゃんと同じなの」
「ハイエルフは成長が色んな意味で遅い最初に作られたハイエルフは十年くらいかかっていたが、神々がそれでは長すぎると二年までに短縮したのだ」
「神様ェ」
まるでゲームのデバッグで気にならなかったのが実際運用したらバグっぽく見えたから更新して修正したみたいだな。
「エルフも同様だ」
「わぁ」
神様、ちょっとおざなり過ぎません?
世界創造なんてことしたとしたなら、もう少しこうデバッグ的な事をやってから創造してくださいよ。
「そう言えば、愛し子は私の前は人間だけだったのですか?」
「そうだな、サイクル的に人間がちょうど良いから人間が愛し子に選ばれていたな」
「……それだと、吸血鬼の私だとサイクル乱すんじゃ……」
「神々は今は目の着くところに置いておきたいから、お前で良いらしい」
「なんですかそれ」
「前の愛し子が神々が目を離した隙に処刑まで行ってしまったからな、神々もピリピリしているのだ」
「……なるほど」
確かに、神々の愛し子なのに、処刑されるまで行ったのが気になっていた。
「下級神と呼ばれてる存在がいたじゃないですか、その方々は報告を──」
「怠った。人間ごときが神の力を振る舞うなど許さないと」
「おい」
私吸血鬼だから偽物作ったのと同じ思考回路じゃねぇか。
「神々はもう今は下級神をギチギチに締め付けているようだ、悪しきことを考えたら神の身から唯の人間に堕とされる。無力な人間にな」
「堕とされるってことは」
「その姿のまま堕とされて、高確率で死亡し、それで終了。普通の者達のような転生はありえない」
「死刑じゃん」
死刑じゃないか、どうあがいても絶望。
「それだけの事をした、という事だ。下級神が調子に乗ったからカインド帝国やロガリア帝国なんかができたんだ」
「えー……」
「神々はやることが多数あった為、それを許してしまった、その反省から今がある」
「……」
なんとも言えない。
取りあえず、神様にも色々あるのだなとしか言えない。
というか下級神、上の神様達から言われた仕事しろよ!
「コズエ様、ここにいらっしゃいましたか」
そんな話をしていたらシルヴィーナとレームさんがやって来た。
「どうしたの、赤ちゃん産んだばっかりでしょう? ゆっくりしてないと!」
「大丈夫です! ルズさんからのお薬でのケアはバッチリです!」
「其処薬に頼らないで休む時は休む!」
「ルズさんがティリオさん達薬師の方々にマナの実とリラリスの実を調合した薬を作って貰っていてそれを飲んだらこうなったんです」
「わー!」
体力とか回復させるリラリスの実に魔力を回復させるマナの実の薬なんて、消耗しているハイエルフにも万能薬じゃん!
ぐおおお、クロウのあの件で実とかを収穫できるようにして売ってもいるからなぁ……
「……シルヴィーナへのお叱りは後にして、何の用でしょうかお二方」
「先ほど娘と息子に名前を付けたのです」
「おー!」
「娘はシルフィ、息子はレイ、と名付けました」
「良い名前だねーお互いから取ったの?」
「ええ」
「そうだね」
二人は赤ん坊を抱きかかえながら見つめ合っていた。
「おめでとう、ただ薬に頼らずしばらくはお家にで休むこと」
「そんな! 漸くコズエ様のお役に立てると思ったのに!」
シルヴィーナはショックを受けた顔をしていたが、私は指摘する。
「シルヴィーナ、貴方の優先順位は今は子ども達のお世話、育児がトップにあるべきなの。それが終わったらまた今までのように手伝って頂戴」
「コズエ様……」
「それまではいつまでも待つわ」
「──はい!」
「まぁそれまではクロウをこき使うけどいいよね?」
「構わん」
「アルトリウスさん達もちょっと頑張って貰うから、シルヴィーナは子育て頑張ってね、でも一人で抱え混まないでね」
「はい!」
シルヴィーナは嬉しそうに笑った。
「さて、一息ついたけど、どうしたもんか」
「まぁ、父親衆に今は働いて貰おう」
「そだねぇ」
「後、難民の中で使える者を使えば良い」
「人を見繕うの任せて良い?」
「ああ」
ある意味、大変な状況。
だからこそ、踏ん張りどきなのだ。
頑張れ私!
シルヴィーナのお産が異常なほどにスムーズだったのはディーテ神の加護が合ったからです。
無かったらかなり苦しい思いをしてます、普通のお産。始祖の森の村の女性陣は皆ディーテ神の加護を貰って居る、自動で付与されるので、お産が異常な程スムーズに進み、体にも負担が少なく終わります。
後、シルヴィーナが回復が早かったのは以前クロウが飲んだあの液体を飲んで体を万全にさせたからです。
が、梢は加護は何となく理解してますが、薬の件はきっちり把握しているのでシルヴィーナに無理すんな、子どもの世話が一番大事だからレームと頑張れ的なことを言ってます。
あと、クロウの発言は事実です。神様達割とそこら辺やってから「アレー?」ってなったりします。
梢は頑張ろうとしているので、クロウも頑張ろうと思ってます、実は。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。