妊婦達の要望と問題発生
クロウに説教をし終えた梢は、妊娠した女性のいる家を回って依頼を受ける。
産衣などを作ってほしいというもので、それを織姫に梢は頼む。
その後畑仕事をしようとしたが、既に終わっていると言われ休むように言われた梢は──
「顔が痛い」
「クロウが悪い」
「それは理解しているがもう少し手心を……」
「プライベート空間にノックなしで入るのがいけない!」
すっかり拳の痕が消えたのに、まだぐちぐち言っているクロウに私は怒鳴る。
「レイヴンさんにまた言いつけるよ!」
「止めろ、彼奴のあの説教はきつい」
「ならこの話は終わり!」
「むぅ」
下着の試着をしていたなんておおっぴらに言うもんじゃないし。
この話はもうおしまいにしたい。
なのでおしまいにさせた。
ローレンス家のお屋敷に行くと、お腹が少し大きくなってるイリスさんがいた。
「ああ、コズエ様。どうなさったんですか?」
「体調はどうですか?」
「順調です、栄養のあるものが毎日出るのでサフィロの時より出産は早そうです」
「あのーサフィロ君はどれ位かかりました?」
「一年とそうですね、半年位でしょうか?」
「一年と半年⁈」
私は耳を疑う、ハイエルフの次に長いじゃないですか!
シルヴィーナ確か二年はかかるって言ってたよね⁈
「赤ん坊は血を特に栄養としますから、血液が増えるような栄養のある料理を作ってるんです、多分今回は普通の出産と同じ位かと」
「ママ、あかちゃん、おなかのなか?」
サフィロ君がぱたぱたと歩いてきた。
もう三歳か、早いなぁ。
「そう、サフィロはお兄ちゃんになるのよ」
「ぼく、おにーちゃ?」
「そう」
「わぁい!」
くるくる踊り出すサフィロ君、純粋に喜べる子で良かった。
「しかし、こうも村中の既婚女性達が一斉に妊娠するとは……喜ばしいがコズエ様の負担になっていませんか?」
「あー大丈夫大丈夫、アルトリウスさんやアインさん、ティリオさんや子ども達も居ますし。いざって時はクロウをこき使えばいいので」
私の下着姿見たんだから、これ位いっても許されるだろう。
私の下着姿というか、女性の下着姿を見るのは許されざる行為だからな。
合意も無しに。
ノックは重要、本当にね。
「そうですか……」
「いとしごしゃまはおなかにあかちゃんいないの?」
「私にはいないの」
「ざんねん」
心底残念そうにしてる。
サフィロ君すまん、そういう行為はまだ怖いし、親になれる自信がないんだ。
「そう言えば愛し子様、シルクスパイダーをお飼いになられたとか」
「え、ええ」
「宜しければ産衣を作ってくれるよう頼んではくれませんか⁈」
「いいですよ、色とか要望があれば言ってください」
「助かります!」
私は一通りメモとってから今度はアルマ家のお屋敷へと向かった。
「お邪魔しまー⁈」
出迎えたヴェロニカさんのお腹、めちゃ大きかった。
とても一ヶ月とは思えない。
「ヴェ、ヴェ、ヴェロニカさん、そのお腹……‼」
「愛し子様、大きいだろう。ここのブラッドフルーツを食べていたら大きくなるのが早くて」
「早すぎですよ!」
「この調子でいけば後二、三ヶ月後には出産だろうな」
吸血鬼マジよくわからん。
なんなの。
「そうだ、お願いがある。シルクスパイダーが居るのだろう?」
「ええ、まぁ」
「産衣を作ってくれるよう頼んで欲しいのだ」
「分かりました、要望は?」
先ほどと同じようにメモを取る。
アルマ家を後にした後同じように村十の家を回り、結果メモの束ができた。
優先順位別に並べて織姫の小屋に入る。
「織姫ー」
アインさんがトマトを食べさせていた。
「ん? オリヒメというのですか、このシルクスパイダーは」
「はい、そうですけど……」
「……いえ、何でもありません。何の用事で」
「ああ」
私は織姫にメモを渡す。
「この順番通りに産衣とか作ってくれないかな? 急ぎ、ではないから」
織姫は頷いた。
「有り難う、じゃあお願いね」
織姫は右手を挙げた。
アインさんと共に帰宅する。
「しかし、あれほどの注文があったのですか?」
「私以外の既婚女性皆妊娠しちゃってるから」
「そうですね、どうしてそのような事が……」
「さ、さぁね」
神様のあれこれの結果だなんて言えない。
ぶっちゃけて私が原因とも言えない。
「女性陣という働き手がいなくなったのは痛いですが、畑仕事を子ども達がより手伝ってくれるようになったので助かります」
「それは良かったです」
と言ってから思い出した。
「畑の整備やってない!」
種まきはやったが整備のほうは終えてなかった。
慌てて畑に向かおうとすると、入り口でアルトリウスさんとぶつかる。
抱きしめられる。
「大丈夫か?」
「う、うん。今畑の整備──」
「それなら俺とティリオでやった」
「はい、終わりました」
ティリオさんも顔を見せた。
「コズエ、君はもう少し休んだ方が良い」
「う、うん」
「そうですよ、コズエ。無理しすぎないで」
「うん……」
無理している訳じゃ無いんだけどなぁ。
なんかする気も起きずまた村を歩き回る。
「おや、コズエ様。こんな夜遅くに村に来るなんて」
「ルズさん!」
産婆のルズさんが声をかけて来た。
「ルズさんこそ大丈夫ですか? こんな夜遅くに」
「妊婦達の事が心配でねぇ、家を回ってるんですよ。ハイエルフの子を取り上げる者も妊娠してしまって、子どもを取り上げるのはあたしゃの役目になりそうなので」
そういや、助産婦に相当するハイエルフの方も妊娠しちゃったって言ってたもんな。
既婚女性で妊娠してないのは老人と私だけだな。
「あ、あんまり頼りにならないと思いますけど私もお手伝いします!」
「それは嬉しいけど、コズエ様の負担にならないかねぇ……」
「えっと日中は役に立つか不明ですが、朝通しの出産なら起きていられるし、頑張れるので!」
「ふふ、夜通しが普通なんだけどねぇ」
ルズさんが笑う。
そしてしわがついた手で私の手を握る。
「こうやって私達がいられるのもコズエ様のお陰です、どうかお体を大事に」
「……はい」
また村を歩きはぁ、と息を吐き出す。
手が足りない。
どうしたものか。
「コズエ様!」
「梢、ここに居たのか」
「な、なんですか二人して⁇」
レイヴンさんとクロウが駆け寄ってきた。
「決定権はお前にあるのだが……」
「?」
「実は難民が発生してしまったのです」
「へ?」
「ディーテ神を奉っている国フィヨルド王国に居なくなったと思ったロガリア帝国の連中が侵攻をしており……」
「はー⁈」
連中ゴキブリとか害虫よりタチ悪いじゃない!
「鎮圧はしたのだが、住める場所ではなくなってしまったようでな……」
「で、でもここ吸血鬼居ますし、私が筆頭吸血鬼ですよ? 色んな種族いるから喧嘩になるんじゃ……」
「そこは向こうに説明済みだ、それでもなおこちらに移住したいのならと言ったら大体そうだな七十人程が集まった、孤児を含めてな。でどうする?」
「う、うーん…… じゃあ家族とか、人種とか色々と聞いて下さい」
「分かった受け入れるのだな」
「いまはともかく人手が欲しいですから……」
「分かった伝えよう」
クロウはそう言って飛んで行ってしまった。
「こちらがリストになります、大体10家族程になります、要望としてはディーテ神の教会が欲しいと、他の細かな要望は移住が終わってから言うとのことです」
「はぁ、人種は?」
「人間になります」
「人間かーそっかー」
じゃあ、獣人と人間の地区広くしないとね。
「分かったじゃあ、やりますか」
「お願いします」
私は貰った資料にも目を通した──
老人と梢以外は全員妊娠しちゃってます。
既に妊娠しているシルヴィーナはそのまんま。
そして産衣などをシルクスパイダーを飼っている事から頼まれ、織姫に梢は依頼します。
産婆のルズと会話し、役に立つか分からないけど手伝うと決めた梢。
そんな梢にレイヴンとクロウが他国で難民が発生し、受け入れるか決めて欲しいと言われた梢。
梢はこの種族ごちゃ混ぜの環境だけどいいのかと聞くが、無効は承知しているとのこと。
なので、梢は受け入れることに。
ロガリア帝国の残党、まだいた様子ですね。
カインド帝国といいロガリア帝国といいしつこいですね。
ここまで読んでくださり有り難うございました!
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。