マリアとの話と──
イザベラと未来のことを話す梢。
そこで、交易のことを考え現状手一杯なのにどうしたものかと悩む。
シルヴィーナが居ないのも合わさって──
「コズエ様!」
「イザベラ様」
夕方、畑仕事をしているとイザベラちゃんが抱きついてきた。
「ドミナス王国から通えるのもあと三年になってしまったわ」
寂しそうに言う。
「18歳で結婚なさるのですか?」
「ええ、ロラン様は20歳、私は18歳。だから三年後の夏が、学校にいる最期の夏でもあり、ドミナス王国にいる最期の夏でもあるの」
「そうなのですね……」
「でも、私が王妃になるまではここに来ていいってロラン様達が言ってくださったの! 嬉しいわ!」
「ロラン様達、と言うことはロラン様のお父様とお母様である国王様と王妃様もですか?」
「ええ!」
イザベラちゃんは満面の笑顔になった。
「だからコズエ様、元気でいてくださいね!」
「勿論、というか風邪とか引いたこともないしね……」
「私もコズエ様の作った作物を調理して出されるようになってから、病気にかかりづらくなったの!」
「へぇ、それは凄い」
「きっとコズエ様の加護のお陰だわ! お母様達は病気を全くしなくなったもの」
「なるほど」
神々の愛し子である私の加護が良い方向に働いているのだろう。
なら喜んでおこう。
でも、これドミナス王国にいる間だけなんだよな、ロラン王子のいる国には野菜とか卸してないし……
どうしよう。
魔族の国と、ドミナス王国との交易で野菜とか出してるから今手一杯にも思えるんだよなぁ。
これ以上何かするなら畑とかまた広げないといけないし。
シルヴィーナが居ない今は無理に広げる事は悪手だもんなぁ。
どうしたものか。
「コズエ様ー! 収穫、終わりましたー!」
いつもより早い時間で子ども達が報告に来た。
そう言えば、村で生まれた子ども達そこそこ大きくなったり、移住してきた子ども達がここ二、三年で増えたりしているからよくよく考えれば人手は増えてるんだよな。
ただ、それにあぐらをかくつもりは無いから取りあえず現状維持で考えよう。
「有り難う、じゃあ収穫したもの好きな奴持って行って」
「わーい!」
「わーい!」
「ありがとう愛し子様!」
子ども達は持ってきた籠に収穫物を詰め込み家へと帰っていった。
「いつ見ても凄い作物だわ!」
「まぁ、私が育てたりするとそうなるみたいだから」
「でもね、この野菜のお陰で王都の飢えた子ども達も救われてるらしいの」
「そうなの?」
王宮だけで使う予定だと聞いていたが。
「野菜が大きすぎて沢山あるから残った野菜でスープとか作って孤児院に振る舞うの」
「あーなるほど」
「野菜を一つも無駄にしないですむし、孤児達もお腹を満たせて良い事だとマリア義母様が言っていたわ」
「さすがマリア様」
「ワインとかのお酒の量ももう少し増やしたいと言っていたわ」
「そこはレイヴンさんとクロウに相談をしてください」
私の管轄外です。
私は作る専門です。
「分かったわ、コズエ様!」
イザベラちゃんはぱたぱたと走り去って行った。
「もう15歳かぁ……反抗期あるようにはとてもじゃないが見えないな」
「そうでもないぞ」
「うひゃあ⁈」
マリア様が急に現れて声をかけて来たので尻餅をつく。
「愛し子様の前だけだ、素直なのは」
「はぁ……」
「私達の前では立派な反抗期をしつつ王族として務めを果たしているよ」
「凄い器用ですね、イザベラ様……」
普通に感心する。
「学校では見せないが私達の前では、『コズエ様ならそんなことなさらない!』と貴方を引き合いに出して反抗するのだ」
「ちょっと待ってよイザベラ様」
私は聖人君子でもないただのスローライフがやりたいだけのおばさんだぞ?
そういうので引き合いにだすような存在ではないよ。
いや、マジで。
「私達は『愛し子様を聖人かつ政治にも聡い方扱いするのはおやめなさい。お前にとって大恩のある人物なのは分かっているがこのように使われるのは愛し子様の本意ではないだろう。それくらい分かるだろうイザベラ』と、たしなめるとむくれるが納得するのだ、全く困り者だ」
「ははは……」
本当そうだよー。
私聖人君子じゃないんだから。
「愛し子様は善人だが聖人ではないと言って申し訳ない」
「いやぁ、事実なので……悪人に慈悲かける程聖人じゃないんで」
「確かに」
マリア様は笑った。
「だが善人や普通の人が困っていたら手を差し伸べるだろう」
「まぁ、そうですね。困ってたら」
「確かに貴方は善人だ」
「はははは……」
ちょっとティリオー!
お願いだから早く来てー!
会話が辛いー!
「正妃マリア様、此処にいましたか!」
ティリオがやって来た。
良かったー!
「おお、ティリオ殿か、どうした?」
「魔王レストリア様がお待ちです、話がしたいと」
「ほほう、かの魔族を統べる王か、話は聞いて見たかった」
「え、お会いした事無いのですか?」
「それが中々会う機会が無くてな、ちょうど良い色々話しを聞きたい」
「ではこちらへ」
マリア様をティリオが連れて行くと私は盛大にため息をついた。
「疲れた~~!」
本当に疲れた。
慣れない会話はするもんじゃ無い。
「コズエお疲れ様です」
「ああ、アインさん、どうも……」
「リンゴジュースですが飲みますか?」
「うん、飲む」
私はリンゴジュースを飲み干した。
甘酸っぱいジュースが喉を潤す。
「はー少しすっきり」
「やはり不慣れですか? 権力者と話すのは?」
「多分、なんかこう独特の威圧感があってキツい……ティリオさんはなんで平気なの」
「ティリオは貴族社会に紛れ込んで帝国にとって不利益となる人物達を殺すように命じられてきましたから、慣れているのですよ」
「……」
「ティリオを軽蔑しますか?」
アインさんに言われて首を振った。
「そうしなきゃ生き残れなかったんでしょう」
「ええ、その通りです、私達は他者の命を奪う事でしか存在意義を与えさせてもらえなかった、幼い頃から」
「……」
本当心の底からロガリア帝国がなくなって良かったと思った。
これ以上、アインさんやティリオさんのような子どもが増えるのは見たくない。
「後はデミトリアス聖王国とイブリス聖王国の合併した国ですね……デミトリアス聖王国の連中が子どもを攫おうとしていますが、妖精と精霊達が神々に命じられて妨害されていると……」
「ハァー⁈ あの連中まだ懲りてなかったの⁈ あんだけ呪われてるのに! 特にイブリス教の連中!」
信じられない!
「まぁ、今は両者とも呪われてますから大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃない気がする!」
「クロウ様に話しては?」
「そうする!」
私はクロウの家へと向かった、アインさんと一緒に。
「クロウ! 居る⁈」
『何じゃ梢』
扉を開ければクロウが居た。
「良かったいた、あのね──」
私は事情を話す。
『まぁ、神々が対応しているから大丈夫だとは思うが、そこまで梢が心配なら儂が壊滅させてきても良いぞ』
「えー連中が身動き取れなくなって奴隷の方達が逃亡できればそれでいいんだけど……仕方ない、壊滅させてきて」
『うむ、分かった』
そう言うと、クロウは外に出て飛んで行った。
「どれ位かなぁ?」
「すぐ戻ってくるでしょう」
アインの言った通り、二時間ほどでクロウは戻って来た。
奴隷達を連れて。
奴隷の対応はアインさんに任せた。
私が愛し子だけど吸血鬼だからみんな忌避してたし。
しょうがないよね、こればっかりは。
村の作物が王都の孤児院にも役に立っていることが分かり梢は嬉しかったりしてます。
マリアとの会話は王族、しかも正妃との会話なので梢はかなり神経を使っています、こう見えて。
あと、まだ馬鹿なことをやらかしてる連中を壊滅させたクロウ、奴隷の対応をアイン任せにした梢。
梢は自分が愛し子である前に吸血鬼という存在であることを知っているので立場をわきまえているところがあります。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。