五度目の夏来たりて~揺らぐ梢~
五度目の夏が近くなり、ドミナス王国から手紙が届く。
いつもの内容かと思いきや、マルス王太子の正妃になる予定のエリザが妊娠したため、マルス王太子とエリザ、側妃予定の二人、マルス王太子の母側妃クレアが来られないという内容が書いてあった。
それを読んだ梢は──
『もう直ぐ夏ですよー』
『まだ春ですよー』
季節の妖精と精霊達が行き交う。
そして手紙を手にし息を吐く。
手紙の差出人はドミナス王国正妃マリア様。
内容は「今年の夏も向かうから宜しく」的なもの。
まぁ、いつもの事だからいい。
ただ、今年はシルヴィーナの姿が見えない事を言われるかもしれないと少し億劫だった。
いま、シルヴィーナは妊娠期間中で大事な時期。
ハイエルフだと、二年位妊娠するから生まれるのは今年の冬頃になる。
それまでシルヴィーナに頼らずにやってはいけるが、シルヴィーナの話から私が子どもを持たないのかという話に飛躍するのではないかと悩んでしまう。
「悩んでもしょうがない、向かいいれる準備をするか」
私はそう思い手紙を再度読み直した。
どうやらマルス王子達は来ないらしい。
正妃になる予定のエリザさんが妊娠したので王宮滞在になったそう。
ドミナス王国からここまで遠いもんね。
マルス王子達もエリザさんだけを置いてくるわけにも行かないし。
また、マルス王子の母親であるクレア様も様子を見てないといけないので滞在。
つまり、マリア様、ロラン君、イザベラちゃん、あとおつきの人達等が来るというこどだ。
妊娠……
去年結婚式挙げて、もう妊娠か……
王族的には良い事なんだろうなぁ……
はぁ……
「どうした梢」
「ううん、何でも無い」
アルトリウスさんの問いかけに覇気の無い声で対応してしまった。
「何でも無い分けないだろう、そんな声で」
「……マルス王子の正妃になるエリザ様が妊娠したからあの四名は来られないって」
「随分早いな、王室は」
「王室的には良いんじゃ無い? 子どもは必須だから」
「……何か複雑そうだな?」
「周囲が子どもを授かってる状況で私は子どもを産むのを求められているのに子どもを授かるのを拒否しているってのがね」
「……そういうことか」
「それって我が儘なのかなーって」
私は肩を落とす。
「いや、君は親になる覚悟がないから妊娠しないと言い切ってる、そこにどんな事情があったとしても、君は子どもを不幸にしたくないという思いからの発言だ」
「そうなんだけどねー……」
「ならば私達もその意見を尊重するまでだ」
「うん、ありがとう……」
「礼は要らん、だが……」
「?」
アルトリウスさんは何か言おうとしたが止めたようだった。
「とにかく気にする必要はない、では」
そういって出て行ってしまった。
「……取りあえず返事書いてレイヴンさんに添削して貰って出してきてもらおう」
私はペンとレターセットを取り出し、書き始めた。
そして、何日か過ぎ──
『夏ですよー!』
『夏ですよー!』
夏が到来、五度目の夏だ。
たまにシルヴィーナに飲食可能な果実のジュースを持って行ったりするが──
「コズエ様、私は大丈夫ですので。自分の事を大事にしてください」
と謎の言葉を言われるのが毎回。
いや、大事にしてるつもりなんだけどな、と思いながらも反論する気にはなれず──
「うん、分かったよシルヴィーナ」
とだけ返す。
何を大事にしてないんだろう、私は。
そして──
「コズエ様!」
「イザベラ様!」
イザベラちゃん達がやって来た。
うーん、夏って感じ。
「マルス達は来たがっていたのだが、妊婦にこの距離は重荷だろう」
マリア様がそう言って姿を見せる。
「でしょうね」
「と言うわけでマルス達とクレアは王宮待機だ、何かあった時直ぐ対応できるようにな」
「それは良かった、ところで妊娠してどれ位ですか?」
「妊娠が発覚して124回目の朝日を見た位だな」
「なるほど」
じゃあ、四ヶ月位か?
それにしても数字こまけぇな。
「ところであのハイエルフは? シルヴィーナはどうした?」
「えっとシルヴィーナも妊娠しておりまして……」
「おお、目出度い!」
「ですよねぇ」
取りあえず話を合わせておく。
「で、愛し子様。貴方は?」
「……」
視線をそらす。
「コズエにはコズエの事情があるのです」
と、アルトリウスさんが間に入った。
「……そうか、分かった」
マリア様、取りあえず納得。
ふぅ、冷や汗が出たよ。
アルトリウスさん助かった有り難う。
そう思った。
「はぁ」
イザベラちゃんとマリア様達を村へ案内して私は家に戻った。
後の事はレイヴンさんに任せた。
「子ども、かぁ」
「コズエ、他人の意見に振り回されてますね」
「うわ、アインさん」
アインさんが急に声をかけて来たので驚いた。
「シルヴィーナが不安がる訳です」
「え?」
シルヴィーナが?
どういうこと?
「コズエ、貴方は他人の意見に振り回されて自分の意見を見失いそうになっています、それが子どもの事であれ」
「……」
「私達は貴方が望むまでそういうことはしません」
「……」
「貴方は他人の意見に振り回されず、ありのままで居てください」
アインさんはそう言って家を出て行った。
私は一人考え込む。
確かに、今の私は周りの意見に左右されがちだ。
子どもはいつかは欲しい。
だけどそれは今、じゃない。
今はただ自分の心構えを確かな物にしたいのだ。
他人の意見に振り回されているのはある意味いつもの事かもしれない。
だけど、ここまでじゃない。
私は、私の意思で歩いて行きたい。
私は──
「今は子どもは生む気はない! 子どもは欲しいがまだ後! 夫婦生活を最優先! この生活を最優先!」
と声を上げる。
「よし、これでいい。私は私らしく生きるんだ!」
でもいつか──
そういつか。
我が子を抱きしめたいと思ったその時が。
私が色々と一歩踏み出す時なんだろう。
私はそう思った。
梢、結構無理して自分に言い聞かせてます。
結構ブレブレな状態なんです。
アルトリウス達がそれをなんとか保たせている。
シルヴィーナが大事にしてないというのは梢自身の事なのです。
もう少し、梢が色んな事を受け入れ、前を向いて歩いたらきっとその時は梢自身が胸をはって言えるでしょう。
「これで良かった」と。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。