子を望まれる重荷
交易に顔を出した日、梢はリアとルビーの二人と再会する。
ここに来ていいのかと二人の身分を気にして問うが問題ないと言われる。
そして来た理由があると言われ──
その日は、穏やかな日だった。
魔族の国からの交易が行われており、魔族の国の綺麗な宝石が手に入った。
こちらからは巨大野菜の出荷。
私が作ると巨大野菜が大量にできるので、保管庫に余裕ができるよう調整中、ドミナス王国と魔族の国の交易で。
「これは何ですか? とても甘い」
「メープルシロップって言うんです」
「めーぷるしろっぷ? どうやって作るんですか?」
「えっとですねぇ」
私は普通のメープルシロップについて教えた。
「宜しければそのサトウカエデの苗木頂けませんか?」
「いいですよー、百本くらいでいいですか?」
「流石に一度に百本は……今日は十本でいいですよ」
交易担当の魔族の方とお話しながらレイヴンさんも交えてあれこれ話す。
分からない事もたくさんあったけど楽しい会話だった。
「コズエ、レイヴンと自棄に仲が良いな」
「そりゃあ、シルヴィーナやアルトリウスさん達の後? 位に来たハイエルフさんだもの、レイヴンさんは」
「付き合い長いしな……」
アルトリウスさん遠い目をしてる、そうだよ、付き合い長いんだよ。
「レイヴンさんがいなかったらイザベラちゃん達やルフェン君達とも出会わなかったし、ドワーフさん達とも出会わなかった、そしてハイエルフの方々が移住する事も無かった」
「そう言えばそうですね……」
「話を聞くだけでしたが、長いですね……」
アインさんとティリオさんは納得したように頷いた。
「まぁ、レイヴンさんには奥さんとお子さんがいるからそういうのはないかな」
「そうだな」
「そういえばそうですね」
「確かにそうですね」
何を考えていたのやら。
「それに私の伴侶は貴方達でしょう、それは忘れないで」
「分かっている」
「勿論です」
「はい、分かっております」
ならいいんだけどさ。
「コズエ様!」
「愛し子様!」
呼ぶ声がした。
振り返ると。
「あ、リアさんに、ルビーさん!」
リアさんとルビーさんがやって来ていた。
リアさんは王妃様になってるし、ルビーさんは宰相さんの奥さんになって騎士団をとりまとめる役割を貰ったってレストリアさんから聞いたけど、ここに来ていて大丈夫なんだろうか?
「ここにきて大丈夫ですか?」
「大丈夫です、レストリアにも許可を貰ってます」
「実はここに来たのには訳があって……」
何だろう訳って?
「……実は妊娠薬を貰いたくて」
「にんしんやく?」
避妊薬なら聞いた事あるけど妊娠薬なんて効いたことねーぞ?
「それなら薬の調合場にあると思います」
ティリオさんがそう言って二人を薬の調合場へと案内して行った。
「何で妊娠薬が欲しいんだ?」
「それは子どもが欲しいからだろう。妊娠しやすくする薬だからな」
「なるほど……ん?」
つまりリアさんとルビーさんは旦那さんとそういう関係になっていると?
うわ凄い。
いや、それが普通か、王妃とかそういう立場なら子どもが求められる。
所謂白い結婚はあんまりないだろう。
レストリアさんも宰相さんもリアさん、ルビーさんを大事にしているから。
二人とも奥さんである二人を大事にしているから。
私も大事にされてる自覚はあるけど……
未だ子どもを持つという気になれないんだよなぁ。
まだ精神が子どもな感じがするから、子どものまま子どもを持つのは不幸でしかないと思うし。
でも周囲は私の子どもを期待している。
プレッシャーすごい。
どうしよう。
「それで駆け込んできたのか。愛し子様」
ヴェロニカさんはふぅと息を吐いた。
「まぁ、確かに獣人達は人間は愛し子様の子を楽しみにしているのがわかる」
「やっぱり!」
「でも、愛し子様。子を産むか産まないかは貴方の選択だ。産む勇気がないならいまのままでよいだろう」
「でも……」
「愛し子様。産むのは貴方だ。他の誰でも無い貴方自身だ。出産は体力を消耗するし痛いしで大変だ、人間や獣人やエルフ達なら死ぬ事もあり得る」
そうなんだよねー、お母さんから聞いたことあるから怖いんだよ、それもあってー!
やはり無理だ、私に子どもなんて……
「だが、私の判断では。貴方はきっと良い母になるだろう」
ヴェロニカさんは微笑んだ。
「うーん……」
『貴方はきっとよい母になるだろう』
ヴェロニカさんから聞いたこの言葉が引っかかり、私は余所の親御さん達に聞いて回った。
答えは皆同じ。
『愛し子様なら』
『コズエ様なら』
『きっとよい母親になるでしょう』
というものだった。
本人である私は納得していない。
だって、良い母親には子どもが成長して大人になって初めて分かる物だと思うから。
私のお母さんは……ちょっと私に期待しすぎたお母さんだったな。
言ってはいないが、これも私が生き辛かった理由の一つ。
期待されないのは辛いが、期待が重すぎるのはもっと辛い。
お母さんの件はお祖母ちゃんに渡した遺書には書いていない。
生きてるのが辛くなったとだけ書いて終わった。
この世界で生きて行くことで期待されるが、なんとかできる範囲なので問題無いのだが、子どもを産むことを求められるのは結構負担。
重荷。
「はぁ……」
ため息ばかり出る。
気がついたらいつも通りユグドラシルの木の根元に来ていた。
『梢どうしましたか?』
「また同じ案件……」
『子を産む事ですか』
「そう……」
私は木に寄りかかり、座り混む。
「正直私は自分が大人になるのたくさん失敗してるから子どもにそう言う思いはさせたくないんだよ」
『梢、子どもというのは失敗を繰り返して大きくなるものですよ』
「そうかもしれないけど……」
私みたくなっては欲しくは無い。
『自分のようになって欲しくないと思ってますね』
「何で分かるの⁈」
私は驚く。
『それくらい分かりますとも』
「……」
『梢、今は貴方の意思のままでよいのです』
「周りは欲しがっているのに?」
『ええ、梢。貴方が産むのです、誰も変わりになってくれません』
うんそうだ。
誰も代わりに産んではくれない。
私の子どもは私が産むのが当然だ。
『家という単位では、妻が子を産めず。側室に子どもを産ませて繋げるという事もありうるでしょう』
「うん」
『兄が子どもを作らず、弟などに妻と作らせると言うこともあるでしょう』
「うん」
ちょっと生々しいな。
『でも、貴方の家の妻は貴方一人、貴方の代わりは誰も居ない。三人の変わりも誰も居ない』
「……」
『だったら周囲の声など気にせず。貴方が子を欲しがったその時を私は、私達世界樹は楽しみにしてますよ』
「うん、分かった」
なんかしっくりは来なかったけど。
無理に産む必要はないと言ってくれて嬉しかった。
だからそうすることにした。
王家や貴族だと子どもが産むことがかなり必須な気がします。
実際そうかと。
梢は他者の妊娠願望を聞き、そして自分への期待も聞き結構重荷になっています。
ですが、ユグドラシルのお陰で少し楽になった様子。
梢が子を望むようになるのはいつ頃でしょうか?
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。