スキンシップの変化
普通が何か分からない梢は、村の奥様会に相談する。
村の奥方達は梢に問題があるのではなく伴侶が側に問題があると感じ、イリスは影でこそこそしていたアルトリウス達を呼び──
普通って何だろう。
愛し合い方の普通って何だろう?
普通は人によって違うもの。
誰かの普通は、誰かの普通じゃない。
私の普通は、みんなの普通じゃない。
どうやって説得すればいいんだろう?
私は悩んだ、普通とは一体なんだろうと。
「……ちょっとリサさん達に相談するからしばらく私にべたべた触るの控えて……」
言えるのはそれだけで、私はユグドラシルに背を向けてそのまま三人を置いて立ち去った。
村の奥様会を行って欲しい、参加したいとリサさんに頼み込み、奥様会が開催された。
「愛し子様、どうしたのだ」
「普通というのが分かりません」
「どうしたのですか?」
リサさんが不安げに聞いてくるので洗いざらいぶっちゃけた。
「ああ、なるほど。あの子のスキンシップが激しいのは子どもの頃そうしてきたからですもの……」
「失礼ですが、旦那さんとは?」
「似たようなものです、夫は愛が重い方でしたから……あまり助言できずすみません」
「いえいえ、アルトリウスさんのあの行動理念が分かっただけでもいいんです」
本当にそう。
「ヴェロニカさんは?」
「そうだなぁ、軽く抱き合ったり、頬にキスをしたり、子どもの居ないところでは口にキスをするということはあるが……頻度は少ない。子どもへのスキンシップの方が多いな最近は」
「なるほど」
参考になりそうだ。
「イリスさんは?」
「私も同様だ、子どもが勘違いしないようなスキンシップの取り方をしている」
「是非教えて下さい」
「……そうだなコズエ様」
「?」
イリスさんが考えて言った。
「おい、其処の男三人! こっそり聞いて無いで入ってこい。これはコズエ様よりお前らが聞くべき話だ!」
声を張り上げるとアルトリウスさん達がドアからちょっと意気消沈して入って来た。
「……」
「コズエ様、席を外していただきたい。この盆暗三人にちょっと言いたいことがある」
「え、私は?」
「コズエ様がいるとなぁなぁになる。子ども達の相手でもしてくださると嬉しい」
「分かりました」
そう言って私は集会に使ってたイリスさん家の屋敷を出て行った。
「大丈夫かな?」
不安になりながらも、取りあえず頼まれたことはやろうと思った。
吸血鬼やダンピールの子ども等のところに近づく。
「何をしてるの?」
「変化の練習して疲れたから休憩してるんです」
「じゃあ、おかしを作ってくるから食べる?」
「いいんですか⁈」
「ええ、勿論」
女の子達は手伝いをすると言ってついてきた。
私は慣れた手つきでブラッドフルーツのジャムのクッキーとブラッドフルーツを練り込んだクッキーを作りを作りと紙コップにブラッドティーをいれて、女の子達と一緒に持って行った。
ブラッドフルーツを練り込んだクッキーは主に吸血鬼の子ども等に好評だった。
ロシアンクッキーはダンピールの子等に好評だった。
ブラッドフルーツのお茶は、皆ほっと一息つきながら飲んでいた。
空っぽになった紙コップを回収し、一端アイテムボックスに入れ、後で処分する予定、だってこの世界に無いものだしね。
「そういえば、コズエ様は変化できるの?」
「実はついさっき初めて蝙蝠になったばっかりで変化したこと無かったのよ」
「そうだったんですか……」
「だから、一緒に練習していい?」
「勿論です!」
私は子ども達は一緒に変化の練習をした。
霧になったり。
蝙蝠になったり。
狼になったりと。
ちょっとばっかし大変だったけどなるのも戻るのも無事にできて変な事は起きなかった。
「凄いです! さすがです!」
「いやー初めてにしては頑張ったと自分でも思う」
「さすがコズエ様です、愛し子様です!」
「愛し子関係あるのかなぁ?」
と苦笑していると子ども等のお母さん達がやって来た。
アルトリウスさん達と一緒に。
アルトリウスさん達、げっそりしてないかどこか……?
「お前達は家に戻りなさい、私達は愛し子様にお話がある」
「わかりました」
イリスさんの言葉に子ども達は皆家に帰っていく。
「あ、あのどう、でした、か?」
恐る恐る聞いてみる。
「やっぱり私、いた方がよかった、ですか?」
「──いや、居なくて良かった。伴侶に罵声を浴びせられるなど見たくないだろう?」
その言葉にこくこくと頷いた。
「この男共、生まれやら何やらで認識がおかしい! そんな過剰な行為をしていればコズエは羞恥心で倒れそうになるだろう!」
イリスさんが三人を怒鳴る。
三人は反論もできないようだ。
「取りあえず、一通り夫婦で普通そうなやりとりをたたき込んだ、それ以上の行動を望まないならきっぱり断ってくれ、コズエ様」
「は、はい」
イリスさん達はそう言って帰って行った。
「と、取りあえず、帰ろう?」
そう言うと三人は力無く頷いた。
家に戻り鍵をかけると、三人が抱きついてきた。
「み、みんなどうしたの?」
「大人の女性からの罵倒とはあれほど怖いものなのか……!」
「彼女達の罵倒は怖すぎる……!」
「あれほど心がえぐれるものはありません……!」
「……」
私は引きつった笑みを浮かべる。
「こ、こわかったですねー」
ぎゅっと抱きつく三人。
ちょっとだけ離れて貰って椅子に腰をかけ、もう一度抱きつかれる。
どれだけ締めたんだろう、イリスさん達。
「おい梢!」
焦った表情のクロウが入って来た。
ドアをバーンと開けて。
「イリスやヴェロニカ達に何を言った⁈ 我が糾弾されたんだぞ、クロウ様が焚き付けたのが悪いと!」
「あははは……過剰な接触どうすればいいか分からないから相談しただけだよ……いや本当……」
嘘は言ってない。
「それだけであそこまで締められたんだぞ!」
「焚き付けたのがクロウならクロウが悪い」
「中々進まんお前達がじれったいから口出ししたのだ!」
「もうちょっと言葉選ぼうよ」
私はため息をついて三人の頭を撫でる。
「まぁ、取りあえず今後過剰なスキンシップは無しだと嬉しい、あれは羞恥心が酷いからね」
と私は疲れたように笑った。
その日から三人のコミュニケーションというかスキンシップが変わった。
結構控えめになった。
私が少し照れる程度か普通にしていられる位。
人前では更に控えめ。
「イリスさん、ヴェロニカさん、何したんですか?」
「夫婦のやりとりを教えただけだ」
「ついでに説教して離婚の危機に陥りたいのかと脅した」
「ソレカー」
なんかびくびくしてたのは離婚されるのにおびえてたのか。
離婚はしないけど……
しばらく姿を隠して距離は置こうとするかな?
ユグドラシルの根元でキャンプする場所作ってしばらく距離を置くくらいは……
でも、きっとそれをやると余計過激になってたから、イリスさんとヴェロニカさん達に頼るのが一番いい対応だったんだろうなと思う。
まだまだ恋愛初心者の私には結構大変だよ、結婚生活二年目だけどさぁ。
恋愛してる時間がなかったもの、恋愛かっとばして結婚だったし。
まだまだ色々とやりたいことはあるし、恋愛も進んでないのでスローペースながら頑張ろうと思う。
子どもを持つなんてまだまだ先だよやっぱり。
旦那三名、梢の居ないところで締められる。
ついでにクロウも締められる。
三人とも出自の成果スキンシップが梢にのみ、過剰になりがちなのを締められてガクブル。
クロウは焚き付けたとして戦犯扱い。
確かにクロウは戦犯ですね、焚き付けていましたから。
また、梢はその間に吸血鬼としての変化を会得。愛し子&真祖スピードです。
これからスキンシップ控えめになることで梢もまた対応が変わるでしょう。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。