梢の悩み
梢はアルトリウス達に溺愛されて疲れ切っていた。
其処をクロウに愚痴るが分かってもらえず。
羞恥心を刺激される溺愛の仕方なんだというと、クロウはアルトリウス達を呼ぼうとし──
「梢、何か疲れているな」
クロウが言ってきた。
「アルトリウスさん達にめちゃくちゃ構われているんだよ……」
「良かったでは無いか」
「誰のせいだと思っているの……!」
ちょっとクロウに腹が立った。
「溺愛されるのはいいことだろう?」
「限度ってもんがあるのよ、私の羞恥心も限度がある!」
「溺愛されて羞恥心が出ると?」
「そうよ、文句ある?」
「仕方ない、奴らの溺愛の仕方を聞いてこよう」
「わー! 止めて止めて! 何でそういうところで楽しそうにすんのよ」
こんなところでアクセル全開になるの止めてよ!
本当クロウの悪い癖!
「人の嫌がることはすんなって教わんなかったのかー!」
「嫌がっているようには見えんがな」
この節穴め!
「コズエ、何処だ?」
「コズエ、何処です⁇」
「コズエ様、何処ですか⁇」
げっ。
私は溺愛してくる三人から逃げるべくユグドラシルへと向かった。
猛スピードで。
「もう、限度を覚えて欲しいよ」
私は世界樹ユグドラシルに寄りかかりふてくされて言う。
『どうしたのですか、梢』
「実はね──」
私はユグドラシルに色々と話した。
「私我が儘かなぁ?」
『度を過ぎる愛情は害にもなります、貴方が私達にしてくれたように適度な愛の方が重要でしょう』
「度を過ぎる愛、かぁ」
確かに言われてみるとそうかもしれない。
三人の溺愛は、恥ずかしくて、頭の中がごちゃごちゃになって、それで上手く拒否できない。
『ところで梢、前々から思ってたのですが……』
「何?」
『真祖にしては威厳が足りないのでは?』
「は? 真祖?」
真祖ってたしかあれだよね。
吸血鬼的に言えばいっちゃん始めとかそんな感じの人。
よくよく考えれば、私神様に吸血鬼にしてもらったから普通の吸血鬼じゃないし、真祖と言われても不思議じゃない。
「この世界の吸血鬼の真祖ってどんな感じなの?」
『ブラッドフルーツか血しか飲まないところ以外は梢によく似ているかと、陽光の下も平気、流れ水は渡れないが蝙蝠になって飛ぶことはできる、狼に姿を変えられる、それから──』
「ちょっと待って、私、蝙蝠にも狼にもなったことない。他の吸血鬼の方々みたく蝙蝠使役したこともない」
『……そう言えばそうでしたね、母の記憶も見ましたが梢はそう言う変化はしたことないですし』
「いいのかなー? なんかコツとかないのかなぁ?」
『コツはそうですね、ヴェロニカ達が子ども等に変化を教えてた時、イメージすることがコツだと言っていました』
「イメージかぁ、よし、やってみよう」
目を閉じイメージする。
すると、体が無くなったような感覚になり目を開ける。
『愛し子様が蝙蝠になった!』
『蝙蝠になった!』
『わーい! 蝙蝠なれたーってこれからどうしよう? 流石に村に見慣れない蝙蝠が現れたら不味……』
「コズエ何処だ⁈」
「コズエ何処です‼」
「コズエ様、何処にいますか⁈」
『げ』
『あらあら、貴方を探して三人がやって来ましたよ』
『も、戻れない』
バタバタと飛びながら、ユグドラシルを見上げて言う。
「いつもならここに逃げ込んでいるはずだが……」
「クロウ様の家に逃げ込んでないなら、ここですよね」
「でも、誰も居ません……」
焦ってるアインさんとティリオさん、よし、逃げられる。
「いや、居る」
「え?」
「何処にです?」
アルトリウスさんが近づいてくる。
私は慌ててよろよろ飛んで逃げようとするが捕まった。
「見つけたぞ、コズエ。蝙蝠になって逃げようとするとはな」
「え⁇ その蝙蝠コズエなのですか?」
「よく考えろ、コズエは吸血鬼だぞ、蝙蝠になれてもおかしくない」
「でも、一度もなったことなかったじゃないですか」
「本人がなれるかどうかわからなかったんだろう、おそらくユグドラシルに聞いて変化したというところだろうな、そうだろう世界樹ユグドラシルよ!」
アルトリウスさんの手に包まれて身動きできない状態になった私は現状を把握することができない。
『……そうですね、一応合っています、梢の伴侶達』
「やはりそうか、コズエ。戻って貰う」
えー! やだよー!
あんな溺愛とかされるのー!
『その前に聞いて頂けませんか?』
ユグドラシルが三人に静かに話しかける。
「なんでしょうか、世界樹ユグドラシルよ」
「世界樹ユグドラシル、改まってどうしたのですか?」
ユグドラシルがため息をついたように聞こえた。
『貴方達、愛情表現間違ってません?』
「「「は?」」」
そうなるよねー!
どうするのこれ!
『貴方達の溺愛が恥ずかしくて梢は逃亡し、今は姿を変えています』
「それは知っています」
『知っていますか? 重すぎる愛情は負荷になりうると、特に梢のような乙女には貴方達に溺愛は羞恥心を刺激され、逃亡したくなる物だったでしょう』
そうだー!
ユグドラシル言って言って!
『梢も同意してますし』
「なっ……」
「そ、それほど私達の行為は不味かったと?」
「なんてことです……」
あのーそろそろ出してください、アルトリウスさん。
『狭い!』
『アルトリウス、梢を出してあげなさい。狭いと言っています』
「……逃げないか?」
『それはアルトリウスさん達の今後の態度によるー』
『貴方達の態度によると言ってます、少しは頭を冷やしなさい』
「「「……」」」
無言になる三人。
『無言はやめてよ! 怖いから!』
「私達はどうすればいい、世界樹ユグドラシル」
アルトリウスさんが問いかける。
『とりあえず、今のやり方は止めなさい、そこから梢にどういうスキンシップが良いか聞くと良いでしょう。つまりは梢の意思尊重が大事』
「なるほど……わかりました」
ようやく手から開放される。
パタパタと飛びながら、どうやって戻ろうかなと考えている。
「コズエ、頼むからいつもの姿に戻ってくれ」
「お願いします、コズエ」
「コズエ様、お願いします」
三人が懇願する。
私は元のイメージを浮かべる。
体が作り上げられていく感触がする。
「おわぁ⁈」
空中から落下し、アルトリウスさんに抱きかかえられる。
「あーびっくりした、空中落下とか危ない」
「コズエ、蝙蝠に変化して戻るときは地面に足を付けるイメージも必要だ」
「ありがとー次はそうする」
そう言って下ろされる。
「コズエ、君はどんなコミュニケーションが望みなんだ?」
「普通のがいい」
「その普通が分からないんだ」
「う゛ー」
私はどう説明するべきかその場で悩み始めた──
梢、初めて蝙蝠になる。
そして、三人の溺愛の仕方が羞恥心を刺激するものな為疲れてしまっている。
ユグドラシルに愚痴り、ユグドラシルが三人に梢の代弁をする。
そして普通がいいという梢、けど普通がわからず説明できないまま今回は終わりました。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
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