四度目の春~梢の憂鬱~
もう直ぐ春になる頃、梢は悩んでいた。
子どもを作る事に関して、深く悩んでいた。
自分達は夫婦と呼べるのかとかも。
そう悩んで居ると──
『もうすぐ春ですよー』
『まだ冬ですよー』
この冬、私は内心鬱々として過ごした。
それがアルトリウスさん達には分かってしまうらしく気にかけられた。
その度になんでもないと笑った。
子ども、子どもかぁ……
と、憂鬱になっていた。
アルトリウスさん達がいくら私の事を優先してくれていたとしても、それでも彼らの望みもあるだろう。
そういう行為をしてないし、口にキスもめったにしない。
本当夫婦か⁈
と、問われれば、一応夫婦ですと言うしか無い。
一応がつくあたりが悲しい。
夫婦の営みしてないって所謂セックスレスだよね、セックスレスで離婚したなんて元いた世界で色々あるし、セックスレスで浮気して泥沼離婚とか色々ある……そんなのは嫌だー!
頭を抱えて小屋でテーブルに頭を打ち付ける。
「うごごごご……!」
怖い、恥ずかしい、色んな感情がごちゃ混ぜになって辛い。
どうしてこうなったのか!
結婚したのに確かに私の意思はなかったが、幸せではある。
けれども、この幸せは三人に我慢をさせる幸せだ。
そうだ。
でも、離婚なんて言い出せないし。
どうしよう。
と思って居るとスマホが鳴った。
「は、はい!」
『もしもし儂じゃよ、神様じゃよ』
「神様、どうしたんですか」
『良いか離婚はするんじゃないぞ』
「しませんよ、あちらから言い出さない限り……」
言われそうで怖いけど。
『ならいいんじゃ、あの三人はお前さんを心の底から愛しておる、だからセックスレス状態も我慢できる』
「でもそれって三人に酷なんでは」
『まー多少はな』
「やっぱりぃいいい!」
私はテーブルに突っ伏しぐりぐりと頭をこすりつける。
『儂等も将来的にはお前さんに子どもを産んで貰いたいとは思うがあくまでお前さんの意思があってのものじゃ』
「……なんで神様も産んで欲しいんすか?」
『そりゃあ、お前さんから生まれた子は聖人、聖女になるからの』
「……それだけ?」
『村から出ないじゃろうがお前さんの仕事の負担が減るじゃろう』
「いや、それなら気にしないんですが……」
『でも、梢。お前さんも子どもは欲しいんじゃろ?』
「欲しいですけど、ですけどー!」
テーブルに突っ伏したままぐりぐりと額をこすりつける。
「変に知識がある所為で、性行為が怖くて……それに子どもの親になる勇気がなくて……本当駄目ですよね……」
もう気力もない。
『お前さんの世界じゃまともな思考じゃろう。親になる勇気がないのに親になって悲劇が起きるなんてよくあることじゃ、悲しいがの』
「……」
『お前さんはまだ若い、だからゆっくりやるといい。ほれ、イリスとグレイスみたく中々子どもができん例もあるしな』
「あの二人は子ども欲しくて中々できなかったので……」
『吸血鬼だし、血の契約もしてるんだから子どもはゆっくりで良いんじゃよ、梢儂等は急がんし、三人も急がん』
「……」
と、言われても、我慢させてる事実は変わりない。
『全く難儀な性格じゃのお前さんは』
「ほっといてください」
面倒な性格なのは重々承知ですよ!
『まぁ、子どもは欲しくないが、そろそろそう言う事してもいいんじゃないかと思ったらこの世界にも避妊薬があるから作っておけばいい』
「え、あるんですか?」
『飲む薬だがな、即効性も高い。お前さんが元いた世界に比べて』
「へー……」
『まぁ、お前さんはそういう行為が解禁される頃には親になる気になってそうだから使う必要なさそうじゃがの』
「見透かすような言い方やめてください」
いや、マジで。
確かに自分でもそうなれば子どもも自然と欲しくなる確信がある。
だがしかし、今は性行為が怖いので無理ゲー。
『お前さんは今のままで良い』
「はぁ……」
『じゃから再三言うが離婚は考えるなよ』
「はい……」
『それじゃあの』
通話は終わった。
ツーツーという音だけが聞こえる。
私はスマホを仕舞い、小屋から鬱屈とした表情で出る。
神様と話してもすっきりしないからだ。
「「コズエ!」」
「コズエ様!」
「うわぁ⁈」
いきなり呼ばれ尻餅をつきそうになる。
が、体を支えられ、それは免れた。
「びっくりしたぁ」
「すまない、コズエ。あまりにも暗い表情をしていたから」
「えっとそれはね」
「今度は何を思い詰めてるんですか?」
「コズエ様は思い詰めますからね」
三人にぶっちゃけようか、ぶっちゃけまいか。
どうしよう。
「コズエ、言え。俺達は改善があるなら改善する」
「ち、違うの! 改善するのは私の方にあるっていうか……何というかその……」
「コズエに? 貴方に問題なんてありましたか?」
「そうですコズエ様に問題なんてありませんよ」
「……白い結婚で、子どもも作らない、離婚されてもおかしくないと思って」
そう言うと三人の表情が怒りに染まった。
「誰だ! コズエにそんな事を吹き込んだのは!」
「出て来なさい! 今すぐ‼」
「コズエ様、そんな事はありませんからね⁈」
三人とも必死だ。
「どうしたのだ、そんなに大声を出して」
「クロウ様! 聞いて下さい、コズエが白い結婚で、子どもも作らないから離婚されてもおかしくないと言い出したのです!」
アルトリウスさんが言う。
クロウはぽかんとしていたが、直ぐに察知したかのようで。
「あーそれは神と対話してコズエが勝手に思い込んだだけだ。コズエの悪い癖が出たわけだ」
「本当ですか、クロウ様?」
「嘘をついてどうする、というか梢から白い結婚という単語が出てくるのが驚きだったな、知っていたのか」
「まぁ、一応……」
元の世界で色々本読んでたから知ってたよ。
ここでも通じるかは不明だったけど。
「アルトリウス、アイン、ティリオ、梢がそう思わぬようにもっと甘やかしてやれ」
「「「畏まりました」」」
「え、ちょ、わー!」
家に連れ込まれ、たっぷりと甘やかされました。
ちょっと他人には言えません。
溺愛されるってこういうのも言うんだなぁと遠い目をしたくなりました。
それは春になっても続きました。
『春ですよー』
『春ですよー』
今年で四度目の春。
それが終われば五度目の夏が来る。
「コズエ何を考えているんだ」
「えっと、畑とかの事」
「今年も豊作になるだろうなぁ」
「だよね。そ、それと漸く保管庫の中身が減ったし」
「ドミナス王国の王宮等にやる分で減ったのだろう」
「う、うん」
「そうやって話をごまかさないで私達を見て下さい、コズエ様」
ひぃー!
私の春の始まりは、溺愛というなの三人の独占欲に翻弄されるのであった。
どうしてこうなった。
梢は子どもは欲しいが性行為が怖い状態からまだ脱出できてません。
またその所為で白い結婚に近い状態だから離婚されるのでは無いかと怖がっています。
アルトリウス達はそんな考えないのですがね、梢の事が大事なので。
神様も神様で思う所がある様子。
クロウはクロウで焚き付けるし、梢は大変ですね。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。