前の愛し子について~冬来たりて~
梢は前の愛し子、自分の祖母に執着していたフェルナンについてクロウに尋ねる、
どうやら千年に一度の画家と言われていたらしい。
そして前の愛し子のマリーに出会ってから作品は全てマリーになるほどだったという。
気になっていた梢に「なら行くか」とブリークヒルト王国へ梢達をクロウは連れて行った──
「クロウ。あの吸血鬼、レイジさんって高名な画家さんだったの?」
「ああ、千年に一人の画家フェルナンとして有名だったぞ。六百年前は」
「へぇ……」
クロウの家で全員集まり話をする。
「どうしてレイジ・フェルナンは梢に執着を? いえ、正確には前の愛し子である御方に執着を?」
「それは当然、フェルナンの小僧は前の愛し子のマリーに恋をしていたからだ」
「なるほど……」
「マリーに出会ってからの作品は全てマリーが題材だ」
「愛が重いですね」
シルヴィーナが少し引きつりながら言う。
「何なら行くか?」
「どこに?」
「ブリークヒルト王国に明日」
結果。
クロウがドラゴンで飛んで行って、脅して国立美術館に入る事に。
視線が痛い。
私とアルトリウスさんは日除けのローブでフードを被っているから更に目立つ。
だけど絵を見ると、確かに私によく似た元い若い頃のお祖母ちゃんの絵が沢山並んでいた、風景画とかはほんの少し。
「何でこんなに六百年前の人の絵が並んでいるの?」
「ブリークヒルト王国は愛し子が長く滞在した国だ、その間に愛し子の絵を描く画家がこぞって現れた、その中でも抜きん出ていたのがフェルナンだ」
「へぇ」
「あと、今の時期はフェルナン家が保管していた愛し子の肖像画を出してくれる時期らしい、人気が高いのは当時愛し子がいた最後の作品だな」
「『最愛の聖女マリーの16歳の誕生日に』ん? 何で聖女?」
「当時はまだ愛し子は聖女、聖人の高位互換だとされていたからな、だから聖女とつけたんだろう」
「いつ頃から愛し子と聖女は完全別個に?」
「マリーが神に召されてからだ神の神託が世界中に伝わりそうなった」
「ほへー」
真正面を見てこちらを微笑むおばあちゃんの絵は確かに美しかった。
「マリーはいつ頃召されたの?」
「16の誕生日の後だ」
「へ?」
「この絵の後にマリーは処刑された」
「……」
「正確には神に召されたがな」
絵を一通り見て始祖の森に帰還する。
うーん、お祖母ちゃんのこちらの世界での肖像画を大量に見せられるとは。
なんとも言えない気分だ。
「自分のそっくりな女性の絵を見せられるのは複雑でしょう」
「あ、うん」
ぽけーっとしてたのかシルヴィーナにそう声をかけられる。
実際は若い頃のお祖母ちゃんの絵見たからなんか変な気分なんだよね、私に似ているといっても、私ほど間抜けな顔してないし、どっちかって言うとしっかり者の雰囲気とか慈母の雰囲気纏ってたし。
うーん、そっくりなのは顔つきだけで中身が違うのは丸わかりだな!
だからあの吸血鬼はお祖母ちゃんが降臨した時は、お祖母ちゃんにばっか視線がいっていたんだろうなぁ。
若干腹が立ってきた!
どうせ似ているだけですよー!
私なんか若い頃のお祖母ちゃんの魅力の半分もありませんよーだ!
ふーん!
とむくれていると。
「おい、梢が勝手に思い込んで、むくれてるから宥めろ」
おい、クロウ。
それはどういう意味じゃい。
と、思って居るとアルトリウスさん達が話しかけてきた。
「私もあの時前の愛し子様を見ましたが、私達にとってはコズエが一番です」
「ああ、私にとっても、前の愛し子よりもコズエが一番だ」
「私達にとっては前の愛し子様なだけであって、今大切なのはコズエ様ですから」
「……」
「あと、コズエにはコズエの魅力がある、前の愛し子には悪いが前の愛し子など知らん」
「ええ、コズエにはコズエの魅力があります。慈悲深いと言われてたとしても私にはコズエの方が魅力的です」
「前の愛し子様は愛し子様、コズエ様はコズエ様です、魅力は違いますがありますとも、かけがえのないものが」
「やめろー! 私を褒め殺すなー!」
真っ赤な顔を覆って絶叫する。
「よし、機嫌は直ったな」
「クロウ、後で覚えてろ」
心からそう思った。
『もうじき冬ですよー』
『冬ですよー』
『秋だから冬支度はしてねー』
『してねー』
妖精と精霊がそう言いながら空を飛んでいる。
季節の変わり目の目教えてくれるのは有り難い。
「となると、そろそろ収穫もおしまいかな」
と言って保管庫を見ると増設した保管庫も全部ぎゅうぎゅう詰め。
「来年も増設した方が良いかな、畑とか年々広げてるし、果樹園も」
ぼやいてみるが、村的には食材は多い方がいいし、何より王宮に卸しているのだから大いにこしたことは無い。
さて、今年の冬はどう過ごすか。
そして、一週間後、雪が積もり始めた──
『冬ですよー』
『冬ですよー』
妖精と精霊達が飛んでいる。
「さて、今年の冬はどうしよう?」
来年の夏で五年目に突入する。
現時点では四年目。
さて、どうしよう。
「コズエ様、宜しいだろうか?」
「ベアトリーチェさん?」
家の玄関を開ければ肌寒そうなベアトリーチェさんが。
着ている物は秋物か。
「いや、実は冬物がボロくなってしまっていてな」
「もっと早くに言ってくださいませんか?」
「いや、何せコズエ様は畑仕事で忙しそうだったから……」
申し訳ない。
「じゃあ、今から作るので待ってて下せんか?」
「すぐできるのか?」
「ええ、だから待っててください」
ブラッドティーを入れて食堂で待って貰い、私は自室にこもる。
クラフト画面を出し、冬服のドレスとコートと手袋、マフラー、ブーツの項目を出す。
着る相手を選択し、サイズも合わせる。
そして材料を元にして一気に作り上げる。
二時間程経過して、二着分ができた。
かなり疲れたが、急ぎのようだ。
疲れた体で、服達を持ってリビングへ向かう。
「に、二着分一式できました……」
「本当に早いな……だがかなり疲れてないか⁈」
「急ぎでやったので……」
私は空笑いを浮かべ、ベアトリーチェさんに見せる。
「身につけてきて良いのか?」
「着替え部屋があるので……」
と指さした場所に入っていった。
十数分後──
「ああ、素晴らしい出来の服や靴などだった、いくら払えば良い?」
「あ、タダです‼」
「それでは私の気が収まらない!」
「といいましてもねー……」
「ではこれを」
ベアトリーチェさんは懐から何かを取り出した、袋だ。
袋に何か入っている。
「何だろう……」
真っ黒でつややかな光をする玉がころんと出て来た。
「夜真珠貝の夜真珠だ。黒真珠よりも黒く、それでいて艶やかで月のように光る」
「お、お高いんじゃ?」
「ははは、こちらに来る際、夜真珠貝を水槽に移して今も村の妖精と精霊達に頼んで居るから収穫には事欠かんよ」
「いや、ですからお高い……」
「白金貨3枚だな、その量で」
「うわ」
たっけぇ。
私は袋を覗き込む。
「いつも世話になっているからその分も合わせてだ。安いがな」
「こ、こんな高い物……」
「コズエ様はアクセサリーづくりが好きと聞いた、是非使って頂きたい」
ベアトリーチェさんはそう言って服一式を着て出て行った。
「……どしよ」
まぁ、貰ったからには使わないとね。
オーソドックスなのはネックレスかブローチかな、この大きさだと。
私は夜真珠という初めて見る真珠に目をキラキラさせながら想像した。
梢、書かれている祖母の穏やかな慈母的表情を見て自分の顔が魅力がないと感じてしまいむくれます。
梢には梢の魅力があるのは皆知っているので、褒め殺しされて赤面します。
そして冬服がぼろくなっていたのに気付いたけど頼めなかったベアトリーチェ。
いれた時は気付いて居たのですが、中々頼めなかったんですよね梢が色々抱え込みすぎてて。
そして、梢は速攻で作りましたが、お礼の夜真珠は黒真珠によく似ています。
が黒真珠よりも黒く、月光のような光反射をします。
梢は何をつくるんでしょうね。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。
次回も読んでくださると嬉しいです。