現状維持もまた勇気
収穫を行う梢と村の子ども達。
毎日のように収穫するので、食料は安定している。
そこでシャルロットとイリスの会話を聞きつつ、レラの会話を聞いた梢。
レラの事が気になるが話しかけるのを為酔ってるとレラが近づいて来て──
「コズエ様、こっちもあっちも沢山!」
「針の実じゃなくてくりも、沢山落ちてる!」
「リンゴも沢山!」
夕方起きて畑と果樹園に向かった私を出迎えたのは畑と果樹園で収穫作業をしている子ども達。
「みんな、有り難うね」
「どういたしまして!」
「これらが村全体の食料になるなら手は抜けませんから」
お母さん方がそう言って頷き合う。
ほぼ毎日のように実り、収穫できる。
冬以外なら畑では季節関係無く収穫が可能。
だから食料には困らなくてすむ。
お米も沢山収穫できているから有り難い。
麦も。
そして乾燥は風の精霊にやってもらえるからすぐ終わる。
天候を気にする必要はない。
「収穫とは難しいものね」
「慣れれば良いさ、ゆっくりと」
シャルロットさんとイリスさんが会話していた。
「懐かしいわ、村にいたときはこうしてたもの」
レラさんは収穫しながらニコニコしていた。
レラさんはなんか収穫作業に手慣れてる。
貴族じゃないのかな。
とか、考えいると、レラさんが近寄ってきた。
「コズエ様、私は貴族の娘ではありません、ただの村娘でした」
「そうだったんですね」
「ええ、ただその土地を支配する吸血鬼が『吸う』吸血鬼でしたので、生贄として連れて行かれたところをライガ様に救われました。私はあの方に恩を返したいと思い、あの方の旅について行き、そして今に至ります」
「それ、最初は帰るように言われませんでしたか?」
「言われましたが、ライガ様は早々に受け入れて下さいました。まぁ吸血鬼に差し出された時点で私は村では死人扱いなので帰る場所がないのも理由の一つでしたが……」
「血吸われてないなら死人扱いするなよ」
「そういう村でしたから」
レラさんは苦笑する。
こういうことがあるから吸血鬼元い吸わない私達に風評被害が来るんだよ。
やってらんねー。
「あの、ブラッドフルーツと粉ゼラチンを戴いても宜しいでしょうか?」
「いいですよー、何に使うんですか?」
「ブラッドフルーツのゼリーを作るんです、子どもや夫達の為に」
「吸血鬼の奥様方で?」
「はい」
レラさん嬉しそうに笑った。
「ところでコズエ様?」
「何ですか?」
「そろそろ子どもが欲しい、とか思いませんか?」
ぶー! と吹いた。
キスも手の甲だけで恥ずかしいのに、性行為なんて無理ゲーすぎる。
「そういうのは私、まだまだ無理なので申し訳ないですが……」
「そうですか……コズエ様の御子様ならきっと愛らしい素敵な御子様がお生まれになるでしょう」
「は、はは」
わっかんねぇよ?
親が性格良くてもクズは生まれるし。
クズからまともな子が生まれるし。
だからわかんない。
きっと私はまだ親になる覚悟ができていないんだろう。
いや、できてない。
妊娠も怖いし、出産も怖いし、それ以前に性行為も怖い。
子どもを育てる勇気もない。
子ども達は可愛いが、自分がその子どもを育てる勇気は全くない。
「臆病なのかなぁ」
「何をそんなに考え込んでいる」
「クロウ」
いつの間にかクロウが隣にやって来た。
「いや、子ども欲しくないのか見たいな発言されて、ほしいとは今は思えないんだよね」
「ほほぉ、何故だ」
「そりゃ、子育てする覚悟も無ければ子どもを産む覚悟とかもないわよ」
「なるほど、確かにそれは必要なことだ」
「でしょう? じゃなきゃ、子どもが不幸になるだけじゃない」
「不幸にはなりはしまいが、お前が覚悟がない以上親子関係で溝ができるのは見えているな」
「言わないでよ」
「それも、お前が愛し子故だ」
「分かってる」
私は普通じゃ無い。
吸血鬼で、愛し子だ。
その子ども達を普通の子どものように村の外に出してあげられないだろう。
仮に出してあげられたとしてもレイヴンさん達行商が付き添う必要がある。
子どもはこの村と共に生きる事になる。
この村から離れて暮らすのはあまり好ましくない。
それを子どもに強いることになる。
子どもは理解してくれるだろうか?
「はぁ」
色々と考えて憂鬱になる。
クロウが頭を撫でた。
「今は深く考えるな、こればかりは時間の経過が必要だろう」
「クロウ……」
「まぁ、お前はどのみち大変だろう、夫が三人もいるんだから」
そういやそうだ。
「そこにいるぞ」
「え?」
物陰から私を見つめる三人の視線。
おかしくて私は拭きだしてしまう。
「三人とも、どうしてそんなところから見てるの」
「いや、クロウ様といい雰囲気に見えたのでつい」
「私もです」
「はい、私も……」
「あははは! クロウとはそういう関係は一切ないから」
「我もだ、此奴は孫みたいなもんだしな」
「えークロウがお祖父ちゃん? まぁ、普段はお祖父ちゃんだけど、その姿の時厳しいんだもんヤダー!」
「誰が厳しいだ、かなり甘く対応しているぞ、他の連中より」
その言葉に頷く三名。
え、ちょっと何かあったの?
「コズエ、以前子ども達からクロウが剣などの指導をしていると聞いた事はないか」
「あーある」
アルトリウスさんの言葉に頷く。
「私達三人は特に厳しく鍛えられていてね」
「ええ、本当アレは厳しすぎますよ……」
「クロウ、なにしとんの⁈」
アインさんとティリオさんの言葉に私は驚愕してクロウを見る。
「我がこの森から出ている間、森を守るのはシルヴィーナと此奴等だ、鍛える必要があるだろう、シルヴィーナはもう既にあの若さで弓矢の達人、魔法も極めている、が此奴等はまだ伸びしろがある」
だからってスパルタな特訓はいかがなものか。
「もうちょっと手心加えてもいいんじゃない?」
「まぁ、梢が言うなら考えよう」
「コズエ、助かる」
「死ぬかと思いますからアレは」
「本当にキツいんですよ……」
「クロウ……一体何してるの」
「コズエは知らなくていい」
「言い切った……」
これ以上情報は引き出せない。
それくらい分かるので私は引き出すのを止めることにした。
「ところでお前さんら、何処まで進んだ」
「下世話な話を聞くな」
私は不機嫌になる。
「口吸いくらいは進んだか」
「できるかー!」
私は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「……」
「なんだつまらん」
「この助平爺ー‼」
思わず口調が崩れる。
「コズエ! 落ち着け!」
「コズエ、落ち着いて下さい!」
「コズエ様、落ち着いて下さい‼」
「フシャー‼」
「梢、お前は猫か?」
ガルガルモードになる。
いくらクロウでも許せん。
「コズエ、家でチョコレートでも食べよう!」
「ホットミルクも作ります」
「クロウ様、お帰り下さい! コズエ様本気でキレてますよ」
「そのようだな、我ももう少し言葉を改めておかねばな」
クロウは立ち去り、私はずるずると家に引きずり込まれる。
チョコレートを囓り、ホットミルクを飲みながら私は一息ついた。
「次似たような発言したらクロウの顔面に殴ってやる!」
「コズエ様、手加減を……」
「コズエ様が本気ならクロウ様が重傷を負います」
「そうすると一大事です」
「うぐぐぐ……」
苛立ちを抑えようとホットミルクをおかわりして、チョコレートに齧り付く。
ボリボリと咀嚼する。
「……」
そうしていると、三人がそれぞれ私の手の甲にキスをした。
「本当は口にしたいが、君は嫌がるだろう」
「恥ずかしくてね」
「ですから手の甲だけもお許しを」
「……」
私の事、考えてくれる三人がいるんだ、今はそれで満足なんだ。
子どもの事はもっと後に考えよう、私達には時間が沢山あるんだから。
村収穫の秋、冬に向けて食料を溜め込んでいます。
で、新人でも収穫をしている元貴族のシャルロットとイリス、そして慣れた手つきのレラ。
此処でレラの過去とライガとの出会いが明かされました。
また吸血鬼が恐れられる理由の一部も判明、梢が起こるのも無理はないです。
そして子どもの話になると、無理となる梢。
どんな子どもが生まれるか分からないし、そもそも子どもの親になる勇気がないし、また子どもには窮屈を強いることになるとか色々考えて無理ーとなってます。
性行為できないのも無理な原因ですが。
そしてクロウが盛大に梢の地雷を踏む、口吸いもできない位進めらねれないんだ畜生と梢の逆ギレというか八つ当たりといいますか、どっちにしろ怒り心頭状態です。
その後、三人が良い具合にフォローしてくれたのが梢にとって救いかと。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。