久しぶりに四人で
梢がトラブルに巻き込まれているというアルトリウス。
梢も自覚があるのか申し訳なさそうにする。
今回のトラブルは、服作りをするというものだったが、いつもより遅くまで起き、日が出た後まで針仕事をしていると言うことに気付いた梢。
無理しているとアルトリウス達三人に叱られ──
「コズエ、またトラブルに巻き込まれてるな」
「しゃーないよ」
アルトリウスさんに言われて私は申し訳なさそうに言う。
トラブルが起きる度に三人との交流が減ってしまうのが申し訳ないのだ。
でも、トラブルは否応なくやって来るし。
「それに、今回のシャルロットさんは服を持たずに着の身着のまま来たから寝間着で外に出ているようなものだったから服を作ってあげたかったの」
「それは分かりますが……もう少し自分を大事にしては?」
アインさんが言う。
「自分を大事にというと?」
「もう朝ですよ」
「⁈」
カーテンの隙間から見える日差し、眠そうにしているアルトリウスさん。
「えっとその……夢中になってたから」
「もう一週間も同じの続けてますから、顔色悪くなってますよ」
「うそ‼」
気がつかなかった。
何着か服を作って気がついたら眠たくなって寝ていたから。
ティリオさんは呆れたように言う。
「無理のしすぎです、日中が平気でもコズエ様は吸血鬼なのですから、ほら、寝て下さい」
作業を中断させられ、ずるずると三人に引きずられ、棺桶に入れられる。
「では、俺も寝る、お休み」
「うー……お休み」
私は眠ることにした。
夕方目覚めると、三人に囲まれた。
「それで、なんであんなに服を作っていた?」
「シャルロットさんの服が少ないから作ってあげようと……それとその服のデザインを見たイザベラちゃんが服のおねだりを……他の小さい子も……」
「どうりで、小さい子向けの服が多かった訳だ」
「でも昨日で作り終える予定だったから……」
「で、その後、体を壊すと」
「あうう……」
「無理しすぎて体を壊したのは未だ見たことがないが、精神にダメージを受けて寝込むのは私達は見たことがある。体に疲労が蓄積されればそうなりかねない」
「ぐうの音も出ません……」
「服は後一着で終わりなんですよね?」
「アッハイ」
「ならそれを終わらせて下さい、無理のない範囲で」
「畑とかは私達ができる範囲でしますので」
「申し訳ない……」
私は食事を終えると作業室に入った。
そこで最期の仕上げをする。
「でっきたっと!」
できた服をアイテムボックスに入れて外に出る。
「終わったか?」
「終わったよ」
「では行きましょうか?」
「はい?」
「これ以上色々と抱えこまれては困りますので」
「うへぇ……」
この三人、かなり根に持ってる。
その後、シャルロットさんに服をプレゼントしてから、イザベラちゃんや、他の女の子達にも服をプレゼントした。
みんな喜んでくれて助かった。
お母さん達が「これは大切な時に着なさいね」と何度も言っていた。
シャルロットさんにはウェディングドレスの話をしたら、何故かシルヴィーナが登場してその話をかっ攫っていった。
「これで、漸く四人でゆっくりできる」
「そうですね」
「はい、そうですね」
「……」
そう言えば四人でゆっくりする時間が無かったなと思う。
「ハイエルフ達が作ったアイスクリームでも食べてゆっくりするか」
「いいですね、味は?」
「悪いがバニラ一択だ、他が売り切れててな」
「バニラですか、いいですね」
「チョコレートとかもあるけどね」
「コズエ、当分それを伝えるなよ」
「わ、分かってる」
カカオが大分量が蓄積されているので、チョコレートを作れるようになった。
「じゃあ、バニラにチョコソースかけて味変しよう?」
「それなら」
「構わないな」
「はい」
私はチョコレートのソースをとりだし、四人分のバニラアイスにかけた。
皆チョコレートの色に少し驚いていたが、食べると目を丸くした。
「甘く苦いな、これは珍しい」
「それはちょっとビター混じってるの。もっと甘いのもあるよ」
「そうなのですか?」
「うん」
そう言い合いながら食べる。
「あー美味しかった……」
しかし、何か物足りない。
そう、辛いものが食べたいのだ。
「辛いの食べたいなぁ……」
「なら『エルキャラット・ブース』のスープを作ろう」
「本当⁈ いいの⁈」
「ああ、それにらーめん、とやらの麺を入れればいいだろう」
アルトリウスさんの行動に感謝。
「手伝いましょうか?」
ティイリオさんが口を開く。
「エルキャラット・ブースを見て顔色を悪くする奴らには手伝わせられんよ」
「申し訳ございません……」
頭を下げるティリオさんとまだアイスを食べているアインさんと私を残し、アルトリウスさんは小屋の方に向かっていった。
「顔色が悪くなるって、何があったの?」
「ええ、エルキャラット・ブースはどんな荒れ地でも生える植物です」
「そうなんだ」
「それ故、奴隷の子どもが起きないと目覚めさせる為に口の中でエルキャラット・ブースを握りつぶすのです」
「ちょっとそんなの虐待じゃん!」
「それが日常だったので、エルキャラット・ブースは私達にはあまり好ましくない食べ物なのです」
「知らなかった……言ってくれればよかったのに」
私は心底そう思った。
「貴方の笑顔がいやしてくれるんですよ、私達の暗かった過去を」
「だからどうかお気になさらずに、コズエ様」
「……うん」
そうしてしばらく二人と談笑していると、アルトリウスさんがやって来た。
「麺は無いがスープはできた食べてくれ」
「味見は?」
「レイヴンがやってくれた、麺が欲しいそうだ」
「うん、分かった」
小屋に行き、どんぶりに入ったスープを見て私は湧かされたお湯にラーメンの麺を大盛りで二玉分入れる、火が通ると湯切りをしてスープに入れた。
「ああ、これです。この味を待っていました!」
「ははは、レイヴンさんも物好きだね、私もだけど」
そう言いながらスープを飲み、麺を啜る。
「あー! この辛さ、たまんない! 美味しい!」
「本当ですね!」
汗をだらだらかきながらエルキャラット・ブースのラーメンをい啜る。
「美味しかったぁ」
完食した頃には服は汗でびっしょりだった、Tシャツで良かった。
「コズエ、いいか?」
「なに?」
「下着が見えてる」
「……気にしないで下さい」
「いやいや、気にしますから!」
「私の下着のチョイスミスなので」
「それでもです!」
レイヴンさんから見えないように布で私を隠すティリオさん。
「レイヴンさんすみません、次は下着見えない奴にしますので」
「分かりました、では気をつけてお帰りを」
出て行く音が聞こえた。
ティリオさんが布を仕舞い、息を吐く。
「そういう扇情的な格好になるのが分からないのですか⁈」
「いやはや、辛いの食べられるうれしさですっ飛んでた」
「駄目ですね、危機感が足りない」
「コズエが自分に対して危機感が足りないのはいつものことだろう」
「うわひっでぇ!」
「事実ですよね?」
「事実でしょう」
「事実かと……」
こんにゃろ、こっちも傷つくことがあるんだぞ。
そう思いながら家に戻り、風呂に入って着替える。
「久しぶりに皆でゆっくりできたね」
「そうですね」
「本当にそうだ」
「コズエ様、もう少し私達との時間大切にして下さい」
「それに関しては本当にごめん」
何度目かの謝罪をする。
アルトリウスさんが息を吐き、頭を撫でた。
「分かったら、もう少し自分を大事にな」
「……うん」
私は頷いた。
そうだ、大事な時間だもんね、沢山あるとはいえ。
梢は無理しがちです、結構無理できる体なので。
結果三人に怒られるというものです。
あとお人好し過ぎるのもあります。
ちなみにシャルロットのウェディングドレスの話をシルヴィーナが持って行ったのは梢に無茶させない為です。
エルキャラット・ブースはアインとティリオのトラウマです。
梢は好物になってますが、アインとティリオはカインド帝国で奴隷扱いされていたのでそれを思い出させるからです。
まだ傷は残ってますが、梢といることでアインとティリオは癒やされています、確実に。
だからこそ、梢が心配なのです。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
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