テラー侯爵家と逃避行してきた二人
正妃マリアがシャルロットをファミリーネーム付きで呼ぶと血相を変えるシャルロット。
父達に連れ戻されていることを恐れている彼女にそれをしないことを伝え、正妃マリアと梢はシャルロットとミカエルの馴れ初めを聞く──
「シャルロット? もしかして、シャルロット・テラー侯爵令嬢か?」
シャルロットさんを見て、マリア様が問いかけました。
シャルロットさん、顔が真っ青。
「正妃マリア様、どうか、どうかここに居ることは元実家には内密にお願いします」
「……駆け落ちか」
「……はい」
「分かった、イリスの件もある。内密にしておこう、あの家の連中は頑固者が多いからな」
「有り難うございます」
シャルロットさんは夜になったのでミカエルさんを起こしに行った。
「で、実際どうするんです」
「知らんふりをする、吸血鬼を毛嫌いしているのだ、この村の調和を乱しかねん」
「有り難うございます」
「我らの情報で愛し子が吸血鬼だと知らされた時も『そんな事あるはずがない!』と声高に叫んでるような奴らだ、貴方は関わらない方がよいだろう、愛し子様」
「はははは……そんな中でシャルロットさんがミカエルさんを選んだのが不思議ですね」
「シャルロットは賢く、柔軟な娘だ、連中の言う吸血鬼についても独自で調査しているだろう」
「ナルホド」
「それもありますが、飲む吸血鬼からミカエルが私を救ったのもあります」
「ほほう?」
「人目につかないところに行っていたってことですよね、どうして?」
一匹の犬を見せた。
「あら、可愛い」
豆柴風の犬だ。
「極東から来た子の子孫なのですわ」
なるほど。
「この子が屋敷を飛び出してしまい私は追いかけました、私以外になつかないので……」
「駄目だよー迷惑かけちゃ」
と言うと、ワン! と元気よく返事をした。
「そしたら森深くに居て、戻ろうと思ったところを吸血鬼に教われかけ、ミカエルが助けてくれました」
「そうなんだ」
「お互い、一目惚れでした」
吊り橋効果もあるのかなー?
と無粋な考えもしてみる。
が余計なことなのでお口チャック。
「緊張からではないのか?」
マリア様ー!
ぶっ込んできた!
「それも考え、度々夜合うようになりました」
「Oh」
「なるほど」
「そしてこれは恐怖心ではなく、ミカエルに惹かれたのだと思いました」
よく乾きに耐えたなミカエルさん、すげぇよ。
「で、どうして犬ちゃんが一緒に?」
「メルトとミカエルと一緒に夜の散歩中を父達に見つかり、怒鳴る父から逃げる為に私はメルトを抱いてミカエルの馬車に乗り、この地を目指して来ました。」
「あーなるほど、二度と合わせてもらえなくなりそうだもんね」
私がそう言うと、シャルロットさんは頷きました。
「その間ミカエルさんは乾いたことは無かったのですか?」
「ありましたが、自分の腕に齧りつき、耐えていました」
わぁ『乾き』の吸血鬼って罰ゲームにも程がある。
「今は『乾き』が無くなり、ブラッドワインとブラッドティーで満足しているようです」
「それは何より」
「これで一緒に寝られますしね……」
ワーオ、大胆。
ん?
「なんか馬車っぽいのが来てますね、紋様が盾と本と剣?」
シャルロットさんの顔色が真っ青になる。
「お父様ですきっと!」
「テラー侯爵か、ならば私が出よう」
「マリア様?」
「我もついて行こう」
「クロウ?」
ちょっと嫌な予感がするがクロウは大丈夫だと言った。
不安だったけど、連れて行くことにした。
「テラー侯爵! ここに来るとはよほどのことがあったようだな⁈」
「せ、正妃マリア様⁈ どうして此処に⁈」
「イザベラが夏の避暑地としてここを選んでいるからだ、私達親が見ていなくてはならぬだろう?」
テラー侯爵さん、顔を青くしているが口に出してきた。
「こ、此処に我が娘シャルロットは居るのでしょう! 案内をお願いします!」
「シャルロットか知らんが、乾きの吸血鬼は『乾き』の呪いを解いて娘を伴って夜の都に旅立ったぞ」
「き、貴様には聞いておら──」
クロウが巨大なドラゴンに姿を変える。
『エンシェントドラゴンである我に喧嘩を売るとはよほど命知らずらしいな』
「ひぃ⁈ え、エンシェントドラゴン⁈」
「クロウ、そうやって驚かさないの?」
『愛し子の言うことなら仕方あるまい』
クロウは人型に戻る。
「きゅ、吸血鬼が愛し子⁈ そんなまさか‼」
「そのまさかだ、愛し子様は吸血鬼。血を吸う事はせぬがな」
『あんまりしつこいと呪うぞー!』
『呪うぞー!』
妖精と精霊が叫ぶ。
こらこら、そんなに短気になったらあかんよ。
「こ、侯爵様、妖精と精霊が我らを呪うと言っております!」
「何⁈」
『居ないんだからとっとと帰れー!』
『帰れー! 愛し子様の邪魔すんなー!』
「ひぃ! 怒っておられます! 愛し子様の邪魔をするなと!」
「ぐ、ぐむむ……」
「ということだ、テラー侯爵。娘のことは諦められよ、自分で選んで彼女はついて行ったと聞いたからな」
「わ、わかりました……」
テラー侯爵はどこかより年老いたように見えた。
そのまま森から立ち去った。
「まぁ、分からんでも無い、シャルロットは遅くに生まれた故愛情の反面厳しく育てていたらしい」
「なるほど」
色々事情があるんだろうなぁ。
「父は帰りましたか……」
「森にも来ないだろうし、二度と会うことはないだろうな」
「正直、合わなくて良いと思うとほっとします。父は私の結婚相手を探すと言い出していましたから……私にはミカエルしかいません」
「お母さんは?」
「幼い頃亡くなりました。それまでも父は厳しかったですが、母が亡くなった途端厳しさは悪化したように思います」
「教師の友人から聞いた話では友人関係にまで口だしする程だったそうだ」
「毒親じゃん」
「どうやって逃げるかばかり考えていた時期がありました。だからこれで良かったのです」
「愛し子様、この森は貴方が許可した者以外出入りできないのだな?」
「多分?」
「多分じゃなくてその通りだ、正妃よ」
クロウが説明を補足する。
「シャルロットよ、お前とミカエルは森を出ない方が良いだろう」
「そうですね」
「さて、我はアイスを所望する、バニラだ」
「はいはい」
私はつかれたように言うと、正妃マリア様とシャルロットさんがくすくす笑っていた。
クロウの食う量はヤバいんですよ、本当。
でかいボウルに山盛りのバニラアイスを作って出した。
「うむ」
クロウはでかいスプーンで食いだした。
「あ、あのお腹は壊されないのですか? 冷たい食べ物なのでしょう?」
「ははは、冷たい物だけど、クロウは腹壊したことないので」
見てみたいわ、あるならいっそ。
「これで安心して暮らせます」
「それなら良かった」
「今後護衛関係はテラー家の者は排除しないといけないな」
正妃様が言う。
「居るんですか?」
「護衛の騎士と精霊妖精使いの中にテラー家はいる。が、ここの護衛にはつけないようにする」
「有り難うございます、正妃様」
「何、気にするな」
色々と大変なんだなぁ。
「シャルロット!」
「ミカエル」
ミカエルさんがシャルロットさんを抱きしめる。
「君が側に居ないと寂しいとも」
「私もよ、ミカエル」
砂糖吐けそう。
甘ったるい空気に正妃さんがわざとらしく咳をする。
「ごほん、いちゃつくのは家の中でしてくれないか」
「も、もうしわけない」
「こうやって抱きしめ合えるのも奇跡だったので……」
「そうか……」
「あ、そうだ。シャルロットさん」
「はい?」
私はシャルロットさんにワンピースを渡した、着の身着のまま出て来たから着替えが無いっぽいので。
「まぁ、素敵……」
「サイズも合っていると思うので宜しければ着て下さい」
「いつの間に」
「作るのには特化しているので」
「確かに」
シャルロットさんは早速屋敷に着替えに行った。
着替え終わったシャルロットさんによく似合っていた。
シャルロットさんも嬉しそう、ミカエルさんも嬉しそう。
今年の夏は色々あるなぁ、そう思った。
シャルロットの父親が登場しましたが、追い返されました。
シャルロットはミカエルとここを終の棲家とし生きて行くことを決めたのです。
そして、クロウは相変わらず頼もしいけど食い意地はってます。
多分カロリー爆弾食っても腹壊さないと思います、完食しておかわり所望しそうな雰囲気。
そして梢も相変わらずですが作ったワンピースを着てもらえて嬉しいようです。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
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