梢について
蜜蜂たちのお陰で蜂蜜は一杯とれた梢だが、ホットケーキにはメープルシロップとかをかけたい気分になり、サトウカエデの木樹園を作る。
妖精達に説明をし、すぐにメープルの素が取れるようになることを喜んでいるとアルトリウスがやって来て──
『みつみつはちみついーっぱい!』
「はいはい、何処切れば良いのかなー?」
そう言って蜜蜂の指示に従い巣を切る。
かなりの量が取れたのでお礼を言う。
「いつも蜂蜜有り難うね」
『いとしごさまのためならば!』
アイテムボックスにしまい、クラフト小屋に向かい分解して貰う。
たっぷりの蜂蜜が取れた。
「ホットケーキでも作ろうかな、でもホットケーキには私メープルなんだよねぇ。入れるのは蜂蜜なんだけど」
試しにメープルシロップが作れるカエデの樹木園を作る。
『愛し子様これは──?』
「これはねぇ──」
と妖精と精霊達に説明すると。
『一晩あればそれくらいできるよ』
「太くおっきく」
『甘い汁をたっくさん!』
『だから堆肥を下さいな』
物は試しだ、やってみることにした。
堆肥を全部のカエデの根元に掛け、念の為水を掛ける。
あとは妖精と精霊に任せる。
「コズエ、何をしてるんだ?」
アルトリウスさんが声をかけて来た。
「新しい調味料の開発」
「……木を植えるのが?」
「うん、木の中で作られるの」
「木の中で作られるのか?」
「うん」
「……酒の木みたいだな」
「酒の木?」
何だろう、お酒が流れる木かな?
「ああ、木の中で液体が発酵し、酒になるんだ。だから酒の木。と呼ばれている」
「へーそんな不思議な木もあるんだ」
「ちなみにどんな調味料だ?」
「甘いの」
「そうか……」
「甘いの嫌い?」
「いや、好きだが……男で甘い物が好きなのは変だろう」
「変じゃないよ、ちっとも」
「そうなのか?」
「私はそうだよ」
「そうか……なら良いか」
アルトリウスさんは安心したような顔をした。
もしかして作ったお菓子とか気にしてて好きなように食べられなかったのかなぁ。
だったら、今後は気にせず食べてほしいな。
とは思うが、ティリオさんとアインさんがなんて反応をするか、だ。
「甘い物? 好物ですよ、何せまともな食事は呪えたのが確認できた時のみ与えられましたから、ティリオが毒や薬を覚える合間を縫って取ってきた蜂蜜を皆で分けて食べる時は至福でした」
「アイン様……」
そういやこの二人過酷な環境に居たんだった。
忘れてはいないけど、そう見えなくなってるからね。
「アルトリウスから貴方が新たな甘いものを作ろうとしていると聞きましたが……」
「うん、メープルシロップって言うものなの」
「めーぷる、シロップ? 甘いのですか?」
「甘いです、ただ作るのがちょっと手間かかるので私のクラフト小屋で作ります」
「ああ、あの立ち入り禁止……と言うか貴方以外入れない小屋の」
「へ?」
「え、気付いていなかったんですか」
全く知らなかった。
誰も入ってこないなぁと思っていたら、私以外入れない仕様だったとは。
「クロウ様ですら入れませんよ」
だからクラフト小屋の前で待ってる事があったのか……そうなのか。
「クラフト小屋で何を作ってるのかは分かりますが、どういう原理で一晩で酒を造ったりしているのかは分かりません、他にも色々です。ヨーグルトなる牛の乳から作られた不可思議な食べ物も、ジャムも、蜂蜜だけに分離するのもどうやってやっているのか知りません」
「……」
私も説明が難しい。
妖精と精霊は入って来てるのは分かる。
が、話を聞く限り、妖精と精霊も何をしているのか全く話してないようだ。
「ですが、貴方は全てこの村の為に行っている」
「……其処まで考えてないよ」
「考えていなくとも、其処まで行われているのです」
「……」
まぁ確かに。
過剰の食料は村を飢えから救い、そしてイザベラちゃん達、王宮の食料となった。
ワインなんかのお酒類は村の喜びとなり、宴には欠かせない。
ヨーグルトやチーズなんかの加工品も欠かせない。
また布なんかは衣服を作る際に欠かせない。
全てが欠かせない物なのだ、この村にとって。
「貴方は、それらを無償で村には提供し、住処も無償で提供する」
「まぁ、ね」
「それがどれほどとんでもない行為かお分かりですか?」
アインは続ける。
「貴方はもう少し自分を大切にした方が良い、もう少し欲を出した方が良いです」
「欲を出す……か」
少し考えて私は笑った。
「欲で動いてるよ、今回のメープルシロップだって、私がホットケーキが食べたいからかけるのはメープルシロップが良いって思って作りだした事なんだから」
「……どうせ余ったシロップは村人達に分けるのでしょう?」
「当然! だって独り占めしたらバチが当たるじゃない、この間のラーメンの件もあるし」
「アレは……気付いてしまったのです、村人も気付いていたようですが『愛し子様だって一人でこっそり何か食べたい時がある』と気付かぬふりをしてたのですが……私達は好奇心にまけ……」
「うっそ、村の人にバレてた?」
「獣人の嗅覚舐めてます? というか貴方が花の香りを強く漂わせていると何か隠し事があるような気がしているのですよ皆」
「げぇ」
やっぱり花の香りの香水作ってたけどバレてたか。
香水匂いキツいもんなぁ。
「コズエ、貴方は色んな意味で自覚したほうがいい」
「と言われても、隠し事されまくってるからそういう気にはなれないし……」
「分かりました、ちょっとクロウ様とお話をしてきます」
アインさんはそう言って家から出て行ってしまった。
どうしよう。
クロウの家をアインは訪れた。
「クロウ様ちょっと宜しいですか」
「ふむ、何だ」
「コズエの件です」
コズエの件で会話をしに来た事を明確にする。
「コズエに何故そう隠し事をするのです?」
「まず、梢には鑑定ができない事を前提に話そう」
「知っております、歴代の愛し子は必ず持つ鑑定能力をコズエは持っていなかった」
「持って居ないのではない、封印されているのだ神々によって」
「何故?」
「鑑定能力によって真偽や価値を見定めた結果、その能力によって大打撃を受けたカインド帝国に魔女として処刑された歴史は知っているか?」
「はい、一応。幼い頃父母に教わりました」
「それと、梢はこの地で生きていく上で、良いもの、悪いもの程度の判断しか鑑定できない程度まで封印されている、何故か。梢の作り出すものの価値を梢が知るとおびえて何もできなくなるからだ」
「……」
クロウの言葉にアインは心辺りが山ほどあった。
「心辺りはあるだろう」
「ええ、勿論」
「だからこそ、梢は自由に物を作り畑を耕し、作物を得る為に価値をほとんど知らないまま過ごす必要がある」
「……」
「だから我らは梢に隠し事をする必要があるのだ」
「……分かりました」
「やれやれ物わかりの悪いようで良い男だ」
「余計なお世話です」
「──で、そこでこそこそ聞き耳を立ててる二人、入ってこい」
クロウが少し大声で言うと、アルトリウスとティリオが入って来た。
「すみませんアイン様、思い詰めた顔で入っていかれたのを見たので、私はどうしても……」
「すまん、気になった」
「よい、もう一度説明するぞ」
クロウはアルトリウスとティリオに説明し直した。
「──と、言う訳だ。アルトリウス、アイン、ティリオ。お前達は夫として隠し通すところは隠し通せ」
「分かりました」
「ティリオ、お前は鑑定ができるが決して言うのではないぞ」
「は、はい!」
「良いな、梢にはくれぐれも内密にするのだぞ!」
「わかりました」
「畏まりました」
「はい、クロウ様」
クロウはふぅとため息をついた。
「うーん、我が儘になっていいのかなー、でも十分我が儘だしなー」
「何処の誰が、我が儘だって?」
「アルトリウスさん?」
棺桶の中でゴロゴロしてるとアルトリウスさんが蓋を明けて呆れたように言った。
「君が我が儘なら世界中の連中は強欲だ、もっと我が儘になっていい」
「うん、じゃあ明日からそうするー」
と言うと、アルトリウスさんはなんか呆れたようにため息をついた。
なんでじゃ。
梢隠し事が下手だが、隠し事されているのも感じ取っていました。
クロウは梢が知らないで良いことが山ほどある為隠し通すように特に夫であるアルトリウス達に言っています。
梢の知らない所では村人達にも言っているのでしょう。
また、梢は自分をかなり我が儘だと感じてますが、アルトリウスは違うと言っています。
どちらが正しいのでしょう。
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