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元当主ベアトリーチェ

ベアトリーチェが始祖の森へと来て二日が経過した。

梢は特に問題はないが、問題があるといえばあるという判断をしていた。

その理由は──





「ごとうしゅさまがいらっしゃったの?」

「元当主様だ。今はただのベアトリーチェ様だが、敬うように」

「はい、おかあさま」

「はい、母様」

 ヴェロニカは心労で押しつぶされそうだった。

 仮にも当主だった御方があのような小さな家に住むのはいかがなものか、とか。

 愛し子様も説得してくれれば良いのだが、あの御方は他人の意見を尊重する方だから無理だろう、とか。

 色々と考えることがあった。

 だが、仮にも元当主、子ども等には敬うように言いつけた。





「ふぁあ」

 ベアトリーチェさんが来て二日が経った。

 特に問題はないと言えば無いんだけど、問題があると言えば問題はある。

 ベアトリーチェさんの事を吸血鬼の方々ほぼ全員様付けして呼ぶ事にベアトリーチェさんがちょっと引け目を感じている。

 気持ちは分からなくもないけどねー。

 リサさんとアルトリウスさんは夜の都と無縁の暮らししていたから、様付けしない。

 でもリサさんは未だ私を様付けするな。

 お姑さんに当たるんだから様付けしなくていいのにねー。

 とは思うけど言えやしない。

 とほほ。

 多分私とベアトリーチェさんはおんなじ気持ちか、それに近いんだろうな。



「ベアトリーチェさん」

「何でしょうコズエ様」

「……ベアトリーチェさん、他の吸血鬼系統の方から様付けされるの実は嫌?」

「……そうですね、隔たりがあるようでというかもう私は当主ではないので普通に接して欲しいのです」

 結構難問だぞそれ。

「でも、当主だった事実は事実ですから早々簡単には変えられませんよ。私なんかほぼ皆に様づけされてますし」

「それはコズエ様が愛し子様だからでしょう」

「確かに」

 まぁ、好きで愛し子なったんじゃなくて神様がそっちの方がスローライフできるだろうって愛し子にしてくれたんだけどね。

 じゃないと吸血鬼であれこれできないからね!

「こればっかりは時間が解決すると思わないと駄目っぽいですよ……」

「そうですか……」

「……ん?」

 森の市口に複数の馬車が止まっている。

 出て来たのは吸血鬼達。


「吸血鬼達が馬車から降りて森の入り口になんかいますね」

「どんな馬車です?」

「えっと月と──」

「夜の都の馬車です」

「じゃあ、ちょっとご同行願えます?」

「はい」


 ベアトリーチェさんとクロウと、シルヴィーナを連れて森の入り口へ。

 ベアトリーチェさんの姿を見ると吸血鬼達は近づいて来た。


「ベアトリーチェ様、お戻り下さい! 私達が悪かったです!」

「ベアトリーチェ様! どうか、どうかお戻り下さい、儂達も悪かったのです!」


「……」

「えっと……」

「老人達と、若い連中です」

 ベアトリーチェさんはそう囁いてから、声を張り上げる。

「私はもう、当主ベアトリーチェではない! 当主の座はマルファスに譲った‼」

「ですから、どうかもう一度当主の座に返り咲いて欲しいのです!」

「お願い致します!」

 懇願する吸血鬼達、何があった。

「どうせマルファスの一族に対する厳しさに根を上げたのだろう! だからマルファスを選んだ! 私は身内に甘すぎた、だからそうならぬようにマルファスに頼んだのだ!」

「そ、そんな……」

「そんな事を言わず、どうかお戻り下さい」

「私はここを終の棲家として選んだ。もう戻らぬ! 立ち去るがいい!」

 ベアトリーチェさん、凄い眼光。

 マジ怖し。

 吸血鬼達は悲鳴を上げて馬車に乗り込み去って行った。


「エンシェントドラゴン様、シルヴィーナ殿、コズエ様、お手数かけて申し訳ない」

「いえ、良いんですよ」

「これで来なくなれば良いがな」

「そうですねぇ……」

「ここに来るの、誰かに話しましたか?」

 私は疑問に思って尋ねる。

「マルファスだけです」

「マルファスさん、口が堅い方ですか?」

「堅い方ですが……」

「……じゃあ何でここが分かったんだろう?」

「おそらく、私が別の夜の都には行かないと推測し、そこから安全に住める場所として導き出されたのが此処でしょう」

「……もしかして、ベアトリーチェさん、出さないで追い返した方が良かった?」

「かもしれません」

 やっちまったなぁー!

 と、思いながら頭を抱える。

「取りあえず、マルファスには連絡をしておく」

「お願いします」

 厄介事になりませんように……



 それから二日後、ネヴィアさんとランスロットさんの結婚式が行われた。

 夕方からだけど、その時間帯じゃないと私起きられないから二人はそうしてくれた。

 ユグドラシルの元で愛を誓い合い、キスをする二人はロマンチックだった。

 その次の日に、ガンツさんとジェリカさんの結婚式が行われた。

 酒を浴びるように飲みまくる、個人的にはロマンチックがかけているというかドワーフって本当酒好きなんだなと思わされた。


 で、その日の夜にベアトリーチェさんがマルファスから連絡が帰って来たと聞いた。

 結構早いなと思い尋ねると、

「頻繁に他の都とやりとりしていた私ほどになりますと、吸血鬼の飛ぶ速度も速いですから。マルファスも同様」

 どうやら元々マルファスさんを跡継ぎとしてみて居た様子。

 身内に甘い自分ではいずれ夜の都は立ち行かなくなるのではないかと判断した結果だったそう。

 ベアトリーチェさんも、色々とクロウしてるんだなぁ。


 んで、帰って来た内容は、


 愛し子様にご迷惑をおかけし申し訳ない。

 ベアトリーチェ様にも迷惑を掛けて申し訳ない。

 エンシェントドラゴン様にも迷惑をお掛けして申し訳ない。

 今後このような事が起きないように、戻って来た一族と今居る一族の甘ったれてる連中を締め上げて、夜の都の守護者にして統治者である意識をたたき込む。

 とのこと。


 相当スパルタとみたこの方。

 アエトス一族の皆様哀れ。

 いや全員じゃないな、甘い汁吸ってる連中だけだな。

 となるとあの姫さんもしぼられそうだな。

 可哀想とは思わないが哀れには思う。


「やれやれ、マルファスは生真面目だ。だから選んだのです」

「はぁ」

「マルファスの蝙蝠達から次は逃れられないでしょう」

「じゃあ、大丈夫そうですか?」

「……マルファスが謝罪に来ない限りは」

「フラグ建てるの止めて下さい!」

 いや、来られたら困るわ!

「フラグ?」

「気にするな、まぁ言ったことが現実になる的なニュアンスで言ったのだ」

「マルファスには始祖の森に来ること無く仕事に励むように書いておきましたので……」

「なら大丈夫だろう」

 クロウ、例外ってもんがあるんだよ!

 とは言えなかった。


 正直な事を言うと、この不安は杞憂で終わる事となる。





「ベアトリーチェ様」

「ベアトリーチェで構わない、なんならさん付けでいい」

「でも母様が……」

「おかあさまが」

「……」

「ベアトリーチェさん、そんな顔しても駄目ですよ。今度親睦会を開くのでそこで指摘しましょう」

「感謝いたします、コズエ様」

「いえいえ」


 で、親睦会を開いたら、他の吸血鬼の方々はベアトリーチェさんの要望でさん付けで呼ぶことに抵抗はなかったが、元アエトス一族だったヴェロニカさんは怖くて無理と拒否。

 怖くないから少しずつ慣れましょうという形でなんとかその場を収めたが、ベアトリーチェはガチでショック受けた顔をしてた。


 うーん、元当主だから怖かったんだろうねぇ、ヴェロニカさん。

 アレックスさんはそうでも無いみたいだけど。


 お子さん達にはアレックスさんから言うようにしたみたい。

 ヴェロニカさん、ベアトリーチェさんが当主時代にあの吸血鬼に酷く迷惑掛けられたのトラウマになってるのかな?


 結構可哀想だけど、身内に甘かったベアトリーチェさんのミスと言うことで我慢して貰おうしばらくは。







畏敬の念から様付けしてるヴェロニカの感情を完全に読み取れなかった梢。

まぁ、そう思われても仕方ないのは事実ですが。

夜の都の元長というのも大変な立場ですね、ベアトリーチェは。

取りあえず、アエトス一族が守っている夜の都から逃亡者とかはこない……のかもしれません。


ここまで読んでくださり有り難うございました。

次回も読んでくださると嬉しいです。

イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。

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― 新着の感想 ―
うわぁ…。この吸血鬼たち見事な手のひらくるぅですね。どんだけベアトリーチェさんに甘えてたんだろ?ちょっと引いちゃいますねぇ。マルファスさん、見事な手腕ですね! そして、ここでもフラグが…。なんだかこの…
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