お祝いのポトフとケーキ
一二三が旅立って一ヶ月後無事戻って来た。
向こうでお祝いをしたというので、こちらでもお祝いをすることに梢は決めた。
その際一二三が欲しいものが無いかと聞くと──
一二三ちゃん達が故郷に帰って一ヶ月が経過した。
ルフェン君達は遊び相手が一人減ってどこか寂しそうにしている。
『さて、そろそろ行くかのう』
「無事に戻って来てよー」
『うむ!』
クロウが飛び立っていった。
で、三十分後。
『戻ったぞーい』
「梢様ー戻りましたー!」
「梢様、儀式は無事終了しましたー!」
「へー……儀式?」
「あ、言っておりませんでした。祝いの証を貰うには天狐様の定めた儀式に立ち向かい達成する必要があるのです。私が一ヶ月かかったので一二三もそれくらいかかるかなと思ったら二週間で終わらせてしまい、村で祝いを受けました」
「そういう大事なこと言って! 冬だけど、お祝いやりますよ! さぁ、皆雪かきでスペースを作ろう!」
「「「「おう!」」」」
「梢様。どんなスープをお作りに?」
「一二三ちゃん、どんなのがいい?」
「私、ぽとふ、というスープがいいです!」
「一二三ちゃん、もっと我が儘言っていいんだよ!」
と言うと一二三ちゃんはもじもじしながら。
「……私も、クロウ様が召し上がったというけぇきを食べてみたいです……」
「よし来た任せろー!」
そう言ってまずケーキに取りかかる。
炊事場にでかいスポンジを出して、生クリームをかき混ぜて角が立つ位になったらスポンジに塗る、土台の下の方。
そして砂糖などで甘く味付けした蜜柑や桃を切ったものを並べていく、そして砂糖水ではけたスポンジを乗せて生クリームをまた掛けて形を整える。
それが終わったら、苺をカットしたものを豪快に飾り付けていく。
完成!
「お母さん方ー! ケーキつまみ食いしないように見張りお願いします! 私はこのままポトフ作りを開始します!」
「はい!」
「勿論です、コズエ様!」
「私共のお任せ下さい!」
「コズエ、私は何をすればいい?」
アルトリウスさんがやって来た。
「あーちょっと寒いけど、ブラッドフルーツのゼリーケーキ作ってくれる、これ材料と作り方」
「ああ、分かった」
「コズエ、私も手伝いますよ」
「コズエ様、私も手伝わせて下さい」
「じゃあ、ポトフの野菜切って?」
どん、と野菜をアイテムボックスから取り出す。
慣れた様子で野菜をざく切りにして行く。
ジャガイモの皮は私がサクッと向き、それを切ってもらう。
クラフト能力で皮向きも楽にできるからいいよねー。
で、作り置きしていたウィンナーやベーコンをドカ入れする。
鍋だから結構入れないとね。
それに塩胡椒をして、スープの素と水を入れて煮込む。
熱々のポトフのできあがり。
「外は寒いから家の中で皆で食べてね、さぁ鍋を持ってきて」
「「「「「はーい!」」」」」
元気よく返事をする子ども達。
鍋を持ってきてポトフをよそう。
「ポトフを食べ終わったらまたいらっしゃい」
「「「「「はーい‼」」」」」
元気よく帰路につく子ども達を見送る。
「ふー、風が吹かないのがよかったわ」
「そうだな、ところでこのでかいケーキどうするんだ?」
「量的に欠く家で食べる分には問題ないわよ、一二三ちゃんのお祝いだから一二三ちゃんが一番大きいのだけど」
「そうか」
『うまそうじゃのぉ』
「クロウおじちゃん、これは一二三ちゃんのお祝いで作ったから一二三ちゃんが一番大きいのを食べるのよ、おじちゃんはしばらく我慢して」
『わかっとるよー』
どうだか、よだれ垂らしてるし。
そうこうしていると、一二三ちゃんと、奈緒さんがやって来た。
「奈緒さん、一二三ちゃん、いらっしゃい」
「梢様、こちらにぽとふを入れて下さい!」
と土鍋を出されたのでそれに入れると一二三ちゃんは蓋をした。
「奈緒さん、こちらもっていって下さい」
大きめにカットしたケーキを箱に詰めて渡す。
「良いんですか?」
「これは一二三ちゃんのお祝いなので、一二三ちゃんに大きいのを食べさせて下さいね」
「‼ はい、勿論です‼」
一二三ちゃんと奈緒さんは仲良しそうに尾を振りながら帰って行った。
その後ポトフを貰った子ども達が来て子ども達にケーキを切ってあげて、残った分を私達と、クロウおじちゃんで分けた。
「やっぱりケーキは美味しいわね」
家に戻りそう呟く。
「ああ……そう言えばブラッドフルーツのゼリーケーキだったか、好評だったぞ」
アルトリウスさんが言う。
ブラッドフルーツの甘味は少ないからね、合ったものを作るって大変よ。
でも、今回は上手くいったみたい。
「親達からも感謝されたぞ」
「それは何より」
「あとレシピを欲しがっていたから貰ったノートに書き写して破いて渡した」
「うん、有効活用」
私は頷く。
「コズエは、すごいですね。あのブラッドフルーツからそのような菓子を作り出すなんて」
「あーまぁ、神様の加護がありますから」
「そうですね、コズエ様は神の愛し子様ですから」
「あのさぁティリオさん」
大分前から気になっていたのでそろそろ指摘する。
「私に様つけるの止めない? 夫婦なんだし」
「ですが、コズエ様は命の恩人で……」
「恩人なら皆一緒だろう」
「そう、です、ね」
「せめてさん付けにして欲しいの、夫婦なんだし」
「で、では……こ、コズエ、さ、ん」
「うーん、道のりは長そうだ」
「長いだろうなぁ」
「そうですね」
二人は若干呆れたように言い、私は困ったように言った。
が、一番困っているのは多分ティリオさんだな。
長年の染みついた癖が抜けないんだろう、多分。
翌日、相も変わらず雪かきをしていた。
「豪雪で困るわ、今年は!」
『でも、雪が溶けると栄養たっぷりな水に皮って大地を潤すよ』
『もっと豊かになるよ!』
妖精と精霊が口々に言う。
「そうなんだろうけど、何事にも限度があるのよ……毎日雪かき、温室の点検とか大変すぎる……」
『お疲れ様だよー』
『お疲れ様ー』
「どーも」
ふぅと息を吐いて、雪かきを再開する。
「梢様ー!」
可愛らしい声に振り向くと一二三ちゃんがいた。
二つの尾をゆらゆらと揺らしてニコニコ笑っている。
「どうしたの? 一二三ちゃん」
「昨日のぽとふ、とっても美味しかったです!」
「そう、それは良かった」
「それとけぇき! 甘くって、美味しかったです! 茶色い板がとっても甘くて……」
「チョコレートね、頑張り屋さんの一二三ちゃんに特別にプレゼントとしてあげたの、私からのお祝い」
「有り難うございます!」
「いいなー、一二三。あの、コズエ様。俺もお祝いの時そのチョコレートついたケーキ食べたいです!」
「チョコレートなら、今度皆に配ってあげるから」
「本当⁈ 約束ですよ!」
「またチョコレートが食べれるんですね!」
「うん」
温室栽培でカカオが大量に貯まっていたので、チョコレートにクラフトで加工していたのだ、勿論味は甘いタイプで。
一ヶ月後、私はチョコレート菓子を作り、村中に配った。
お返しは入らないと言って。
子ども達は甘いチョコレートに夢中、大人はお酒入りのチョコレートにご満悦。
クロウにはかなりの量を上げて満足して貰った。
ダンピールの子達はブラッドフルーツのソース入りのチョコレートにご満悦。
アルトリウスさん達にもそれぞれ渡した。
アルトリウスさんはダンピール用の、ティリオさんとアインさんには大人向けのを。
三人は必ずお礼をする、と言っていたが、私は別に入らないと言っておいた。
冬ーバレンタインが終わり、しばらくすると雪が溶けていく。
そして春が訪れる──
梢の手料理が一二三が欲しいものでした、ポトフもケーキも。
母親が早くに亡くなった一二三にとっては梢はもう一人の母親のような存在なのかもしれません。
そして食い意地のはってるクロウ。
美味しいものには我慢ができないのでしょうね。
そして次回から三年目最期の春が訪れます(夏に梢はこちらに転生してきたので春が一番最後の季節になるので)
ここまで読んでくださり有り難うございました。
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