魔族との交流~信用されるクロウ~
魔族の国と交易が始まり、レイヴンの弟子レーヴが主導となって交易を行っていた。
ただ、まだまだレーヴは未熟らしく、クロウが補助に入っている。
クロウは慕われているなと梢は思う。
事実、クロウが倒れて回復した翌日にはレストリアが訪ねて来ていて──
魔族の国との交易が村で始まった。
それはレイヴンさんが主導でやってるけど、しばらくしたらレイヴンさんのお弟子さんに変わるみたい。
レイヴンさんの仕事はあくまで行商らしいから。
だからお弟子さんのレーヴさんが魔族との交易の主導をとれるよう今からビシバシとしごいているらしい。
レーヴさん可哀想だけど、これもお仕事だから仕方ない。
実際、レイヴンさんが居ない間はレーヴさんが交易のやりとりしてるんだけど、途中でつまるとクロウが口出ししてくる。
クロウは面倒くさいらしいけど、レイヴンさんから補助をお願いされているから仕方ない。
クロウはなんだかんだで面倒見が良い。
慕われているし。
実際、クロウが倒れて私の薬を飲ませて回復させた翌日にレストリアさんが訪ねて来た。
魔王という立場で忙しいのに。
「エンシェントドラゴン様! 倒れたと聞き──」
「梢の魔力回復薬で回復済みだ」
「え⁈ し、しかし愛し子様──コズエ様が持ち帰ったリラリスの実は一つだけで……」
「なら見に行くと良い」
「はいーこっちですどぞー」
私は案内した。
肥大化した紫の実、リラリスのみがたわわに実る巨木がある果樹園を。
「こ、こんなに大きく?」
私は木に登り、実を一つ取る。
人間の赤ん坊サイズだ。
それを持って、木を下りる。
「はいこれです」
「あのリラリスの実がこんなの大きく……⁈」
「木を植えると大体こんな感じになるんですよ」
と私は笑う。
レストリアさんはぽかんと口を開けている。
「魔王よ、ここではお前の知る常識は通用せんぞ、何せ梢は愛し子だ、作物を肥大化させるなど朝飯前だろう」
「私の力じゃなくて、妖精さんと精霊さんの力なんですがね」
『違うよー僕らのもあるけど愛し子様のが大きいよー』
『そうだよー』
「しかし、愛し子が作物を育てるとこうなるなど聞いた事がない」
「それはそうだ、愛し子は皆幼い時に見つけられ、愛し子として世界を巡ることを求められてきたからな、このような力の使い方などしない」
「えっと、つまり……」
「もし愛し子だと気付かずに農村で暮らしていれば梢のこの村の畑のようになっていたと言うことだ」
「そう、なのですか……」
「だが、愛し子は愛し子だと気付かれる、年を経たら親元から離され、世界に奉仕することを強いられる。搾取と何が違う」
クロウは厳しい表情で言う。
何か怒っているようだった。
「どの愛し子もそれで良いと認めていたが、今梢を見ればそれが本当に正しかったかとは思えん。愛し子はもっと自由であるべきだったのだ」
「クロウ……」
「六百年前の悲劇を我は忘れぬ。あれほど恩恵を得ておいて、処刑するなど」
やっぱり怒っている。
「クロウ、今怒ってもしょうがないよ。それにレストリアさん達魔族は転移門の向こう側に追いやられて、転移門も破壊されたんだから」
「知っているその時から何かできなかったのかと自分に腹が立つ」
「クロウ……」
クロウは六百年前助けられなかった自分に怒っている。
今回、助けられたことでそれを思い出して怒ってるんだ。
私はクロウの手を握る。
「クロウ、前の愛し子様の為に怒ってくれて有り難う」
「我は──」
「だけど、それで自分を傷つけるのは止めてね、前の愛し子様が悲しんじゃう」
「……分かった」
「なら、いいの」
「コズエ様、申し訳ございません」
「いーのいーの、今の私はすっごく幸せだからさ」
「そうですか……」
「なら、良いのだ」
そう、私は今、とても幸せだ。
何故かって?
生き苦しさもない、誰かの顔色を極度にうかがう必要もない。
自分らしくあれるからだ。
あと、私のことを愛してくれる三人の存在と、大切にしてくれる人々の存在も。
「コズエ、宴の準備ができたぞ」
「今日は魔族の方も交えて宴でしょう」
「ああ、そうだった」
鍋の準備も皆が率先してやってくれるので、私がやる回数も大分減った。
お陰で楽だ。
まぁ、巨大なジャガイモとか里芋の皮むきとかは私がやらないと駄目だけど。
「なぁ、アルトリウス兄ちゃん、今日は何のスープ?」
「コズエがよく作るトンジルだ」
「わぁーい!」
ルフェン君が嬉しそうに駆けて行った。
「一応味を見てくれ、他の二人は大丈夫と言ったが君が必要だろう」
「うん、分かった」
私は豚汁の味を見る。
豚汁の旨みがしっかりと出ていた。
豚や野菜の甘みと味噌の味などがしっかりと絡み合っていた。
「うん、美味しいよ。大丈夫」
「そうか、良かった」
アルトリウスさんは胸をなで下ろす。
「後は、個別にネギを刻んでおいて、七味唐辛子を用意すれば問題ないね」
「ネギか、忘れていた、用意しよう」
アルトリウスさんはそう言って保管庫に戻りネギを取りに行った。
なので七味唐辛子は私が用意する。
アイテムボックスから香辛料入れを取りだし、七味唐辛子か再度確認。
鍋の近くのおたま置き場に置いておく。
「ネギ刻み終わったぞ」
「ありがとう」
木のボウルにネギを入れる。
村人達が集まってくる。
魔族の方達も集まってくる。
「さぁ、宴だ、飲んで食べて騒ぎましょう!」
おー! と、声が上がる。
ティリオさんがよそっている。
そして各自お好みでネギや七味唐辛子を入れている。
「梢、村の規模がどんどん大きくなるな」
クロウが話しかけてきた。
珍しく食べずに。
「そうだねー、レーヴさんの話じゃ移住したい方も居るらしいし」
「そうだな」
「どうしたの急に」
「お前の負担にならないか?」
「ならないよ、それに……」
「それに?」
「もうじきマルス王子の結婚式でしょう、そういうことで他人を排他してするつもりはないよ」
「そうだな」
「この村は悪人以外は受け入れるよ、だからね、クロウ。しっかり見極めてね」
「──ああ」
クロウは微笑んだ。
「さて、我も食いに行くとするか」
「相変わらずだけど、器大きいね」
ボウルサイズじゃね?
と思いながらも、言わないでおいた。
もうじきマルス王子の結婚式。
一応、ドレスは準備したが、ローブで隠されることになる。
何せ、愛し子と言わずに、エンシェントドラゴンの弟子という扱いになるのだ。
人は次代のエンシェントドラゴンだと勘違いするかもしれない。
「ん、美味しい」
「こんな美味しいスープは初めてです」
レストリアさんは驚いたように言う。
「故郷の料理なんですけどね」
と私は笑う。
「故郷は豊かだったのですか?」
「さぁ、覚えてません。愛し子になった時に記憶の大部分が飛んだので」
と何でも無いように言った。
「そうですか……」
「早くおかわりしないとなくなっちゃいますよ」
「それは大変だ」
どこか寂しそうに言うレストリアさんに、私はそう言うと彼は少し慌てた。
私はそれがおかしくて笑った。
クロウがどれだけ信用され、そしてクロウがどれほど愛し子を思っているか分かってくださると嬉しいです。
六百年前失った愛し子という友。
今回は二度と失わないという思いで梢の側にいるのがわかるでしょう。
トンジルは豚汁です、我が家ではジャガイモだったり里芋だったりその日で変わります。
ボウルサイズというのは料理をする時のボウルです、結構でかいサイズと思ってください。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
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