間に合わなかった最強、鈴木
「ぐばぁぁぁぁあ!」
タバコと酒の匂いが充満する部屋。カードを使い、賭け事に興じる男たちの中に、外で見回りをしていたはずの男が吹き飛ばされてきた。
吹き飛ばされた男はテーブルにぶつかり、酒瓶は割れ、カードは宙を舞う。
「なにもんじゃっ! ワレエっ!」
「ここがどこのもんか、わかっとるんかぁっ!」
「デザードアニキのトコやぞっ!」
賭け事をしていた男たちは、口々に暇つぶしを奪った者を睨みつける。
「あ~。悪ぃ悪ぃ。ちょっと挨拶に来たら殴りかかって来たんで、殴り返したんだわ」
まったく悪びれる様子もなく、筋肉質な男は、部屋の前に立っていた。
「……テメエ…知ってるぞ。その圧倒される筋肉。飄々とした態度。————————賞金稼ぎの鈴木だな」
「わかってるなら話は早い。おたく達が持ってる文明の遺産をもらいに来た。———————
さっさと出しなクズども」
賞金稼ぎの鈴木は、男達を挑発する。
「テメエっ! 生きて帰ると思うなよおおおっ!!」
2031年。国際宇宙ステーションは太平洋上のポイント・ネモへ廃棄された。それは安心安全に行われた、……はずだった。
国際宇宙ステーションには、強力な宇宙線にも耐えうるウイルス、細菌たちが繁殖していたのだ。地球へと廃棄され時、成層圏、対流圏において、ウイルス、細菌たちは、世界へとばら撒かれる事となる。
異常はすぐ現れた。人類に感染したウイルス、細菌たちは、99パーセントの人類を滅ぼす事となった……。
「え~と、ちゃんと映ってるのか? まあいいや。今日の動画配信は、歴史的事情にせめてみたぜ」
筋肉質の男、鈴木は、慣れた手つきでケータイ端末を手に、自身が泊っている宿の部屋で撮影をしていた。
「でだ。生き残った1パーセントの人類の中で、さらにウイルスや細菌と良い感じなって超常現象を操る人間が現れた。えーと、なんだっけ? あ、「適合者」って呼ばれてたな、うんうん」
ケータイ端末は、殺風景な部屋と筋肉質の男を写す。そこには、派手な演出も飾られたものはない。
「最後にその適合者どもが好きに暴れて、文明にとどめをさし、緑なす自然美しい日本列島は、カサカサな大地になったとさ。めでたしめでたし。とこんなもんか?」
鈴木は、撮影を止め、動画をインターネットにあげる。
「ま、どうせ。誰も見てねぇし。…………もうインターネットって言葉すら風化したからな」
鈴木は、少し寂しそうにケータイ端末を片付けた。
「ふぁ~」
鈴木は、部屋から出て階段を降り、一階に向かう。一階は、居酒屋で暇そうな者たちが集まって酒を飲んでいた。
「ずいぶんと遅いじゃないかい、鈴木。すでに死んじまったと思ったよ」
「ぬかせ、仲介屋もしてるババアが、欲張るとテメェの方が早死にするぞ」
鈴木は、いつも座るカウンター席に座る。鈴木にババアと呼ばれた人物は、カウンター席の内側で、ジョッキに酒を注いでいた。
「なんか飲めるもんくれ」
「下戸の坊やにやるもんはないねぇ」
「……依頼品は渡さねぇぞ」
「はっ。器の小さい男だね。冗談もわからないのかい?」
「け、言ってろ」
鈴木は懐から未使用の洗剤を取り出し渡す。
「これでいいんだろう?」
「そうそう。これを使うとよく汚れがおちてねぇ。」
ババアは、受けった洗剤を足元の収納箱に片付ける。
「…………まったく。こんなもんですら賞金を懸けないと手に入らない世の中になって、あたしゃ、悲しいよ。ほら、水」
「そうだな……ん?」
鈴木は、水を飲みながら周りを見渡す。
「なんか騒がしくないか? いつもはもっと寂れてるじゃねーか」
「寂れてるは余計だよ。ほら、あの娘。坊やが、洗剤を探しに行ってる間に雇ったのさ」
ババアの視線先には、ウェイトレスの恰好をして笑顔を振りまく女性の姿。
「おじさん。君がいるなら毎日でも通っちゃう」
「ありがとうございますっ。で・も、その手は引っ込めてくれると嬉しいですっ」
「オレと付き合わねえ?」
「ごめんなさい~。特定の方とは~」
「…………」
鈴木は女性を見て目を細める。
「坊やもあんな娘が好みかい? 確かに器量よし、スタイル良し、さらに人当たりも良いと来たもんだ」
「…………いや。珍しい人間がいるもんだなってな」
「確かに、こんな無法地帯じゃあ、珍しく育ちの良さを感じるさね。過去は詮索しないからあたしゃ、しらんが」
「ババア。もう一杯くれ」
「あいよ。」
ババアは鈴木の渡したコップに水をそそぎながら話す。
「次の依頼だ。いけるかい?」
「ああ、大丈夫だ」
「って、ただのおつかいかよっ!」
鈴木は手に持っていた買い物リストの紙キレを地面に投げつける。
「ダメですよぉ。買い物も立派な仕事ですっ!」
「…………俺、一人じゃないのかよ」
胸を張って、鈴木に注意する少女。
「私も頼まれたんですっ!」
「はあああああ~。わーかったよ。で、えーと?」
「ピアスです。」
「はいはい、偽名ね。で、俺は荷物持ちってことか?」
「もちろんですよっ。そんな丸太みたいな腕をして、お箸より重いものは持てませんなんて言うつもりですか?」
「……言ったらどうする?」
「どうしましょう?」
ピアスは可愛らしく首を傾ける。鈴木は頭をかかえたくなるのを我慢して、相棒の乗り物に乗った。
「さて、行くか」
「……あの、自転車ですよね、それ。本とかで見た事あります」
「最高の相棒だ」
「あの、私の乗るトコロは」
「ないな。俺は安全運転なんだ」
「どうしてですかっ、ここは、素敵にエスコートしてくれるんじゃないんですかっ!? そもそも、野郎ならバイクの一つでも用意してるもんでしょっ!?」
鈴木は、ピアスの口調の荒さに本性が出たなぁとか思っていた。
「ハア……。気の利かない人だとわかりました。いいです。その自転車? 私が乗りますから」
「ああ? なんでだよ。相棒は誰にも渡さねぇ」
「何でですかっ。私に歩けとっ? 足が太くなるじゃないですかっ!」
「ムチムチしていいんじゃないか?」
「さ、最悪ですっ!」
ピアスは、怒りながら歩いていった。鈴木も後を追うように自転車をおして歩く。
「……ついてこないでください」
「仕事だ。お嬢ちゃんは知らないかもしれないが、マーケットは色んな連中が集まる」
「そうですか」
修繕する者がいなくなったアスファルトの道を歩くこと一時間ほど。人の気配が増えていき、鉄の棒を建て布を被せた簡易なテントがたくさん並んでいた。テントの前では食べ物や工具などの日用品が売られている。
「おお~。ここは人がいっぱいですっ!」
「そうだな。……そうだ、撮影しとこ」
鈴木は、懐からケータイ端末を取り出し、行き交う人々や、風景を撮っていく。
「何ですか、それ?」
「俺の趣味だ。こうやって動画や写真を撮影してネットにあげるんだよ」
「え、それって昔の遺産ですよね。……電気、どうしているんですか?」
「………………気合発電」
適当な事を言った鈴木とピアスの間に微妙な空気が流れる。
「……そういうことにしておきます。それより、買い物ですよ。荷物持ちさん」
ピアスは、メモの通りに日用品を買っていく。鈴木は適度に風景を撮影しながら、荷物を背負う。自転車は押して移動しているので、すれ違う人間は少し迷惑そうであった。
「えーと、これで全部だと思います」
「……」
「何ですか、難しい顔して。私はちゃんと買いましたよ」
「……いや。うかつだなぁ、と思ってな」
鈴木は、ケータイ端末に映るピアスを見る。そこには、ピアスとは、まったく違う少女が映っていた。
「?」
ピアスは首をかしげる。ケータイ端末越しだと違う姿をした……もっと幼い少女が首をかしげていた。
「ま、いいや。さっさと—————」
「デザードファミリー様の視察だぜエエエっ!!」
周りに知らしめるように男の声が響く
「な、なんですかっ!?」
ピアスも含めマーケットにいる人々は驚く。視線の先は、男の後ろを歩く、5メートルほどの人型をしたロボットの姿。無骨で色褪せもひどく、角張った見た目をしている。ロボットの顔の部分が搭乗席なのか、ガラス張りのような場所に人が座っていた。
「ありゃあ、この辺りで偉そうにしてる奴だな」
周りの人間たちは、誰も彼も委縮して隅の方に移動している。
「お、大きいですね……」
「力の誇示には、デカいってのはわかりやすいからな。ああやって、威張ってんだよ。今や法も何もかも滅茶苦茶だからな」
「な、何しに来たんでしょうか……?」
鈴木とピアスは、元から端の方にいたため移動はしていない。二人は、現われてデザードファミリーを見ている。
「おうおうおう。ここで商売したかったらちゃんと、出すもん出さないとなぁ。わかってるんだろう? ボスは適合者様なんだぜ?」
男は、一人ではない。たくさんの男たちが、マーケットで商売している者たちに声をかけていた。言う言葉は同じ。
「あきれた。ただの脅迫じゃないですか」
「まあ、アレで上手く回る業界もあるんだよ。俺達はさっさと帰———」
「アニキっ!! スゲエ美人がいやすぜっ!」
男の一人が、ピアスに気付き声をあげる。
「ちっ。面倒な、来いっ!」
「え、ちょ、きゃんっ!」
鈴木は、ピアスをお姫様抱っこし走り出す。
「ちょ、ちょおおお。ドコ触ってるのって、ひぃぃぃぃ、思っているよりも早いいぃぃっっっ」
走る鈴木に誰一人追いつけることなかった。完全にデザードファミリーの関係者がいなくなるのを確認すると鈴木はピアスを地面に下す。
「ハア、ハア、ハア」
「何でお前の息がきれてるんだよ?」
「仕方ないじゃないっ! あ、アンタみたいな人にお、お、姫、運ばれたことなんてないんだからねっ!」
「お嬢ちゃんには刺激が強すぎたか……」
「お嬢ちゃん言うなっ!」
ピアスに買い物袋で叩かれる鈴木。
「そう言えば、アンタの相棒はどうしたのよ」
「し、しまった……忘れてた」
「ばーかばーか」
鈴木は肩を落とす。
「…………オマエなんか、ほっといたらよかったぜ……………」
「はあ……。ここからなら私一人でも帰れますから、自転車を捜しに行ってください。元はと言えば、私が美人すぎるのが原因ですし」
「…………………。い、いやさすがにそれは……」
「大丈夫です。大切なものなんでしょう? とても丁寧に扱われていることがわかりましたし」
「…………わりぃな。」
鈴木は、マーケットの方へと向かって走り去った。
「さて。私も本来のお仕事をしますか」
「ない」
すぐさまマーケットに戻った鈴木は、自転車を探す。だがどこにもなかった。すでに日は沈み始め夕方となっている。
「クソッ。いくら相棒が麗しく美しいからってパクりやがったな……おい、お前」
「は、ハイっ」
鈴木の傍を通りすぎようとしていた男性の肩を掴み、鈴木は詰め寄る。
「この辺りで、相棒……自転車見なかったか?」
「じてんしゃ?」
「あー。人が乗る乗り物で、文明の遺産だ」
「そ、それでしたら……、デザードファミリーの人が、」
「そうか。ありがとよ。」
鈴木は、男性を解放するとデザードファミリーの拠点がある方へと向き、指を鳴らす。
「とりあえず、ぶっ潰して、探す」
鈴木は決意した。決意した鈴木の行動は早かった。デザードファミリーが拠点としてるホテルに訪れる。高級ホテルとして名が通っていたもので、噴水や庭、プールなどが併設されていた。今や面影はないが。
鈴木の姿を見た見回りの男達は、鈴木に詰め寄る。
「どこのもんだ」
「相棒を返せ」
鈴木の手が男の頭を掴み、投げ飛ばす。
「やべえ奴が来たぞっ!」
「相棒を返しな」
銃を構えた男に近寄り、銃口を握りつぶし、蹴りを入れる。
「相棒は何処だ」
異変を感じ、ホテルから現れる男たちを次から次へと殴り飛ばし、蹴り飛ばしながら、鈴木はホテル内に入って行った。
「なんだ、騒がしいな?」
「あら? そんなこと、どうでもいいではありませんか」
スイートルームと呼ばれていたであろう場所で、デザードファミリーのボスは、機嫌よくソファーに座り、ワインを飲んでいた。ワインを注いでいるのは、胸元が大きく開いた露出の高いドレスを着たピアス。
「そうだな。俺様は今日とてもツイている。お前のようないい女を手に入れたのだからな」
「ふふふ。そんなに煽てても素敵なサービスしかできませんよ?」
「では、もっと煽てるとしようか」
ボスの視線ピアスの胸元に集中していた。そんな嫌な視線を気にすることもなくピアスは、ボスに寄り添い話をする。
「旦那様は適合者とのことですけど……」
「くくくっ。そうだ。俺様は文明を壊した強大な力を持つ適合者だ。適合者はいいぞ。何もしなくても、金は集まり、男は頭を下げ、女は寄ってくる」
「まあ、素敵。————それで、旦那様はどうような能力を」
「ボスっっっっ!!!」
ボロボロの姿をした男がスイートルームに駆け込む。ボスは、ピアスとの会話を邪魔されたと思い不機嫌に男を睨んだ。
「何しに来た。返答次第では、」
「襲撃がぶるりゃぁぁ!!」
男の背後から腕が伸び、男の肩を掴むと壁に叩きつけられた、現れる鈴木。
「……相棒を連れ戻しに来た」
「テメぇ……ここが———」
「な、なんでアンタがここにいるのよっ!?」
ボスの声を遮り、驚愕の声をあげるピアス。
「……ババアの依頼はどうした?」
「そんなのとっくに片付けたわよっ! それより、どうして、」
「くくくく。はっははははははっ!!」
ボスは笑い声をあげる。ピアスはすでにボスから距離をおいていた。
「なるほどなぁ。ババアってのは仲介屋のアイツか。ならテメエは、下の連中を壊滅させてるっていう、賞金稼ぎに鈴木か」
「……そうだが?」
「手際が良すぎると思っていたんだよ。人間一人の力じゃぁ、どうしようもねぇ事があるもんな。相棒ね。その女と組んでいたか」
「え、」
ボスの指摘にピアスは目を丸くする。
「わ、私は——」
「女で籠絡させて男で壊す。実にわかりやすいじゃねえか。俗っぽくて俺様は嫌いじゃないぜ————だが」
ボスの背後から地面を突き破りロボットの腕が現れる。
「俺様は適合者だ」
スイートルームの地面を壊す、その衝撃で壁は壊れ、柱が傷つき、支えきれなくなった上層部が崩れてくる。
「きゃ!?」
「あぶねえっ!」
瓦礫は、ピアスの元へ落ちていく。鈴木はピアスを抱きしめ庇った。スイートルームのあるフロアそのものが崩れ壊れた。
「……女はもったいなかったなぁ?」
天井は崩れ、夜空が見渡せるようになったスイートルームだった場所でロボットに搭乗しているボスは、瓦礫の山を見ながら呟いた。
「生きてたら、可愛がって……」
瓦礫の山から音がし、瓦礫の下から人影が見える。その姿にボスは驚く。
「無茶苦茶な事をしやがる。物は大切にしろって教わらなかったのかよ」
鈴木と鈴木に守られたため無事のピアスの姿。
「……アンタ……腕が」
「あ? ああ、片腕がもげちまったな」
鈴木の腕があるべき場所にない。だが鈴木はまったく気に留める様子もなかった。ピアスの指摘にはじめて気づいたように見える。
「ち、治療しないと……」
青い顔をしたピアスは、立ち上がり鈴木を見るが、その顔は驚愕に染まった。
「な、なに、これ、……き、機械?」
「おう。俺の身体はほとんどが機械だ。——————でだ、デザードファミリーのボスさんよぉ」
ボスは、黙って鈴木の様子をうかがう。それは、ロボットの力で物事を簡単に支配してきた今までは違うと言う直観が働いて。
「そいつの正式名称は「ロウアーマー」……適合者どもをぶっとばすために俺が造って国連にあげたもんだ」
「あ、アンタ、もしかして、適合者の中で唯一、人類を護ろうとした」
鈴木は口元を緩める。
「本物の適合者ってもんはな、人間やめてる奴ばっかなんだぜ。————フロンティアムーンにアクセス」
それは、地球ではない場所で起こる。月の地下深くに収納された兵器が動き出す。
兵器は人のカタチをしていた。流線形をした外装には、溶接後などのつなぎ目が一切ない。
まるで生き物のような白亜の巨人。大量に繋がれたコードが、巨人を機械製だと認識させる。巨人の足元で、十二面体や八面体のような様々な幾何学立体が、転がり点滅しながら、動き回っていた。
『班長。鈴木くんからオーダーですよ』
『まだスリープ中だけど……』
『ダメっすよ。ほら、スペアの腕と装備項目αっす』
『ジョージくん。今日は君が班長で』
『ういーす』
直接会話はしていない。すべて月内部に張り巡らされたネットワーク内で起こっている事象。この地に生身の人間は存在しない。
『反粒子炉心、重力操作システム、遠隔操作プログラム。オールグリーン。量子転送可能、準備整いました』
『了解。転送します』
夜の暗闇にひと際、明るい光が灯る。それは目が眩むほどの刺激的な光を纏い現れた。
「な、なんだ……」
ボスは唖然とする。
「俺の適合者とての能力は、「好きなもんをいくらでも作れる場所」を創る力だ。だが適合者どもは、俺の製作の邪魔ばかりしてなぁ」
鈴木の視線はピアスを見る。ピアスは寒気がして震えた。
「一部の有志たちと月に行くことにしたんだわ。で、今の月は俺の工房。ながーい事かけて、最高傑作ができたんだよ」
白亜の巨人は、ロウアーマーに比べ二回りも大きい。そして、音もなく、翼もなく、空中に浮いている。片腕だけは巨人と同じサイズの腕が付いていた。
「そんで地球に戻ってきたら、適合者ども大人しくなって、丸くなっての。信じられねぇだろ? 好き勝手暴れて、後は皆と一緒に頑張りましょうだぜ?」
巨人は拳を振り上げる。
「ま、でも俺も思ったさ。もう戦わずに済むならいいかってな。だがなぁ……ソイツは、守るための力だ」
鈴木はロウアーマーを睨みつける。
「ひっ」
ボスは慌ててロウアーマーから逃げようとして。
「——————さあ、廃品回収のお時間だぜ」
白亜の巨人の拳が、ロウアーマーにおろされた。
「おっと。配信者のプロフィールに自己紹介してなかったな」
仲介屋のババアがやっている宿屋の一室で、ケータイ端末を触りながら鈴木はつぶやいた。
「えーと、宇宙エレベーターに乗れる未来が来ると思っていた、鈴木ですと。こ————」
「鈴木っ!!」
部屋の扉が乱暴に開かれる。そこにはピアスがいた。ピアスの姿は女性ではなく幼い少女。
「私、アンタを監視することになったからっ!」
「?」
ツインテールを左右に揺らしながら遠慮なく鈴木の部屋に入って、鈴木を指さす。
「私はねっ! 第三世代適合者っ! 新政府に登録していない適合者を探すエージェントなのっ! アンタは当然登録してないでしょっ!」
鈴木は、よくわからず首をかたむける。
「ふふん。その反応で察したわ、さすが私。」
「あー、うん。がんばってね。お嬢ちゃん」
「子供扱いするなっ! うー、なんで私の精神干渉が聞かないのよぉ……」
半泣きになるピアスに、鈴木は肩をすくめた。
「相棒をキレイにすっかな」
「まってぇぇっ、私を置いて行くなぁっ!」