最推(さいお)しアイドルは塩対応
ミャーコは前の飼い主から、避妊手術の処置をされていたようで。それはありがたいことだった。
「何匹も猫が増えたら、飼いきれないからねぇ」という母の気持ちは良く分かって、私も母も一度に飼う猫は大体、二匹までであった。それ以上は責任を取れない。
ミャーコは性格が良くて、そして『いい性格』であった。つまり、あざといのである。最近の表現では、あざと可愛いと言うのだろうか。優先順位がハッキリしていて、プロデューサーに擦り寄るアイドルを思い浮かべてもらえば、そのまんまミャーコの姿と重なるだろう。
「まるで犬みたいだねぇ」というくらい、ミャーコは母にベッタリで、家の中でも外でも母の後ろを付いて回る。私と母が、近所で外食をしようと歩くとミャーコが追いかけてきたくらいで、おかげで母はミャーコを抱っこして家の中へ戻す羽目になった。車にでも轢かれたら大変である。
ミャーコにとっての最重要人物は母であって、それはエサをくれるからだろう。ミャーコは隣の家に泊まり込むこともあって、やはり理由はエサをくれるからだ。だからミャーコは、週に一度帰省するだけの私に一番、懐かなかった。
とは言えミャーコは、あざと可愛い実家のアイドルなので、ある程度は誰にでも愛想を振りまいた。自己主張が強くて、ミャーと啼いては母に抱っこをせがむ。抱き上げられると、母の肩へ前足と頭を載せてきて、後ろ姿は木にしがみつくセミのようだ。
きっとミャーコは、いつまでも母に甘え続けるのだろう。「こんなに愛嬌がある猫は初めてだね」と母が言って、私も同意する。多少の塩対応も何のその。ミャーコは私の最推しなのだった。