火星軌道上
連載再開
人類生活圏・太陽系
火星軌道上・宇宙ステーション・アレス3号内
アレス・ベルメロ・トクナガ社・スペースドック
連邦歴221年3月某日(地球歴2408年3月中)
タイラン人とファーストコンタクトより約1か月半後
初の地球起源近縁種会議開催10日前
タイラン人の防衛専門家兼大使であるシュームエルは観察ラウンジの窓から
巨大な宇宙スペースドック内で急ピッチに製造されていた新型戦艦を見つめていた。
「何か気になることがありますか、シュームエル大使?」
「飲み込みが早いと思っただけです・・・それより大使とか大げさに呼ばないでください、アベル」
「一応ここは連邦の施設なので」
「確かにベルメロ・トクナガ社の技術者もいますね、ガルシア艦長」
二人は笑った。
「アレキサンダー・マグナス号は明日試運転になると聞いたが・・・」
「はい、流石ベルメロ・トクナガ社と思うばかり」
「君がその戦艦の艦長になるのかね?」
「はい・・・新艦隊の主力になるようです・・・残念ながらその旗艦ではないですが・・・」
「人類の手先の器用さ、飲み込みの速さに驚かされたのだよ・・・アベル」
「無償で素晴らしい技術を譲ってくださって、感謝でいっぱいですよ」
「他人行儀だぞ、我々はもう友人だ、アベル」
「分かった・・悪かった、シュームエル」
「会議に同行してくれるのだろう?」
「もちろん、新型艦と共に」
「旗艦はどの船になるのかね?」
「チンギス・カン号だ・・・艦長及び新戦艦隊の指揮官はイアン・マカリスター少将になる」
「ああ・・・なるほど、あの好戦的な将官かな?」
「はい、惑星アルバ出身の職業軍人」
「好戦的であるが・・・相当なやり手に見えるのだが・・・」
「はい・・・戦術家としても有名だ」
「チャーフェス人が苦手なタイプの軍人・・・あの野蛮人たちは圧倒的な数の暴力しかできない」
「コミュニコン帝国の技術だけが彼らの取り柄のようですな」
「知性化したとはいえ、文明は持ったない・・ある意味、かわいそうな連中だ、アベル」
「同情しているのですか?」
「いいや、彼らは行った数々の蛮行と大虐殺を考えれば、同情するに値しない、むしろいない方が銀河の平和が保たれる」
「人類は彼らの代わりだったのでしょう?」
「ああ、その通り、実際最近まで母星の資源をめぐってお互いを殺しあうだったのですね」
「やはり監視していましたか?」
「ああ・・・その事実は君たちの指導者に伝えっている・・また他人行儀だぞ、アベル」
「悪かった・・・シュームエル、俺の直観はあなたを信じていいと告げているのだが、上層部はそう思ってないみたいな」
「事実を発表したら・・・当然のことだ」
「その事実はあなたは信じているのか?」
「もちろんだ・・・タイラン人の上層部と地球起源近縁種会に参加する種族の代表も同様だ・・・私は君たちを信じているだが・・・」
その時、ドアのチャイム音がなった。
「新任のデュバル少佐です、ガルシア大佐、入室の許可を求めます」
「どうぞ」
部屋に入ったのは30代前半の美しい女性士官だった。サラサラの長い茶色の髪と白い肌、東洋人との混血と思われる顔立ち。
「シュームエル大使、ガルシア大佐、ユミコ・デュバル少佐です、新型艦、アレキサンダー・マグナス号の戦術官として着任しました、お会いできて、光栄です!!」
女性士官は敬礼した。
「ようこそ。楽にしていいですよ、デュバル少佐」
「ありがとうございます」
「よろしく、デュバル少佐・・・人類のどこの星出身でしょうか?」
シュームエルに質問されると想定していなかったようで、一瞬、女性士官が戸惑った。
「衛星ヌーヴェルカレドニー出身です」
「お名前は日本人という地球の民族のようで・・・ご名字はフランスという地域の響きがあるに思えるのですが・・・」
「はい・・・その日本人の末えいです、母方は日本人の末えいが大半の衛星ホッカイドウ出身で父はフランス系の多いヌーヴェルカレドニー出身です」
「なるほどですね・・・失礼な質問して、申し訳ない、少佐」
シュームエルは頭を下げて、謝罪の意を伝えた。
「頭を上げてください、シュームエル大使閣下」
「根掘り葉掘りを聞くべきではありませんでした、失礼いたしました」
シュームエルは再び謝罪した。
2時間後、新任のデュバル少佐は与えられたステーション内の仮の寝室に入った。
彼女は新型艦のクールに送り込んだ上官、コウジ・ナカハタ中将に盗聴防止が施されている最先端の端末装置で起きたこと報告した。
『「報告は以上です、ナカハタ中将」
「ご苦労だ、デュバル少佐、引き続き監視を頼んだ」
「了解いたしました」』
ユミコ・デュバル少佐、年齢31歳、コードネーム【斥候】は連邦艦隊の公安部のメンバーだった。




