第一部 9話 統合
修正(※内容に関するものだけ記載します)
・2023/03/19 挿絵(※自動生成)を追加。
目を開いた瞬間、体を起こした。
「お、兄ちゃん? なんで?」
ナタリーの困惑した声が聞こえる。
目を向ければ、涙の残る顔で俺を見ていた。
自分の手の平を見る。
ついさっきまでとは大きな違いがあった。
ナタリーを知っている。セシリーを知っている。
アッシュとしての記憶がある。自分にできることが分かる。
体は……完治とはいかないが、ある程度は回復しているみたいだ。
「本物が、完全に死んだからか」
これで本当に俺が『アッシュ』だ。
「ふざけるな。
俺だって、お前のために庇ったわけじゃねえよ」
文句を言うことにした。
感謝も謝罪も怒られたから。
「よ、良かった」
ナタリーが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら抱き着いた。
「大丈夫」
俺はその頭をぽんぽんと叩く。それでも離れなかった。
大鬼の方へと目を向ける。セシリーが大鬼と戦っていた。
使い魔であるブラッドと連携しているようだ。
「セシリー! 勝てるか?」
「アッシュ、無事なの!?」
セシリーが驚いた声を上げる。
あの金棒で飛ばされたのだから、無理もないか。
「うーん……正直、難しいよ。
助けは来るけど、もう少しかかると思う」
ブラッドが大鬼の周りを走り回り、セシリーは弓や魔法らしきものを飛ばしていた。今すぐにやられる心配はないだろうが、肝心のダメージがほとんど出ていない。弓は弾かれているし、魔法も軽傷だ。
「ちょっと待ってくれ! 加勢する」
「加勢するって……」
もう一度ナタリーの頭を撫でて優しく引き離すと、俺はゆっくりとリックの元へ歩いていく。リックは負い目があるのか、動かなかった。
「アッシュ、ごめん。
ナタリーを守れなくて……」
「良いよ。
今のところ、全員生きてる」
リックは悔しそうに俯いている。
だが気にする必要はないんだ。
「リック、命令だ」
「命令?」
困惑しているメタルスライムに、使い魔だろう? と笑いかける。
「俺に身を委ねろ」
「一体何を言って……?」
「いいから」
俺はリックをがしっと掴んだ。
「突然何するんだ!」
「いいから、言う通りにしろ」
俺は目を瞑る。集中しろ、集中しろ。
神鋼は人間では傷一つ付けられない。
極論、めちゃくちゃ硬い石ころだ。
投げるくらいしか使い道はない。
――では、仮にその神鋼に意思があったとしたら?
――神鋼自身が協力してくれるのだとしたら?
――本来は不可能でも『加工』くらいはできるのではないか?
俺はハーフドワーフだ。
金属の加工には適正がある。
加えて父さんは錬金術師。
勉強は苦手だが、錬金術を使うくらいはできる。
「いくぞ、リック――!」
手の平にすっぽりと収まったメタルスライムにスキル『錬金』を行使する。
バチバチという錬金時特有の光を放ちながら、リックの姿が変わっていく。
「メタルスライムを……錬金?」
セシリーの呆然とした声が聞こえる。
――流石に難しい。でも、少しずつ成形はできている。
――何を錬金するか。武器。俺が知っている武器なんて一つしかない。
――俺を殺したあの日のナイフ。俺にとっての死の象徴。
理想とは程遠いが、錬金が完了する。
右手に握るのは大型のナイフ。
「神鋼の、ナイフ」
誰かが呟いた。
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