第二部 21話 王国の怒り
一夜明けると、ようやく混乱は収束し始めた。
公爵邸は焼け落ちて、敵の兵士は整然と王都から撤退した。
俺がソフィアの身柄をシェリーに預けて護衛の手配を済ませると、全ては終わっていた。
今は一通りの顛末をヒルダ騎士団長へと報告に来たところだ。
……それに、今回の対応が後手に回った理由を知りたかった。
「ひとまず、状況は分かった」
「はい」
俺が頷くと、騎士団長も頷きを返して騎士団側の動きも説明してくれた。
犯人はレイン子爵と言って、内乱を起こしたロズワルト伯爵と裏で繋がっていたらしい。
黒い兵士は連合軍。子爵の手引きで王都に潜入して襲撃を起こした。
公爵を手にかけたのはレイン子爵本人らしい。
ソフィアにとっては両親の仇、になるのだろう。
そして、レイン子爵は周到に王都で工作を繰り返していた。
騎士団員の買収や脅迫など、あらゆる手段で騎士団の介入を遅らせたのだ。
昨日の夜は酷い有様だったようだ。王都中の見回りが全く機能せず、誤情報が飛び交っていたと。
なるほど、と納得せざるを得なかった。
はたと気づく。俺が動けたのはピノのおかげということになる。
後でもう一度お礼をしよう。
「ロズワルト伯爵の隠れた手下がいたってことだ」
ヒルダ騎士団長が低い声を出す。
「レイン子爵は冴えない下級貴族という印象が強かったようです。しかし、今回のような立ち回りは得意だったようですね」
副官としてニナさんが続ける。
「どちらにせよ、騎士団の面子は丸潰れだよ」
「……なるほど。やられましたね」
「ああ。だからこそ、アッシュ。よくやった」
「?」
「あんたが公爵令嬢を救ったおかげで、あたしはまだクビにはならないようだ」
言われて気が付いた。
ソフィアは今回の襲撃で騎士団が救出した唯一の大物になるのだ。
「団長もクビは怖いんですか?」
俺はせめて軽口を叩くことにした。
団長は「当り前さ」と軽く笑って、その顔を獰猛に一変させた。
「目の前でこんな真似をされてそのままクビなんて許せるものか」
「……」
その気迫に息を呑む。
後ろで黙って控えるニナさんも同じ考えのようだった。
「王国全体が怒りを溜め込んでいる。暴発させないように気を付けろ」
俺とニナさんが頷いた。公爵に人望があったから尚更なのだろう。
同時に俺は考える。団長は『あんたが公爵令嬢を救った』と言った。
思わず鼻で笑いそうになってしまう。
間違っても――救ったとは言えないだろう。
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