第二部 15話 A級逃走
夕暮れ時、騎士団からの帰り道を歩く。
俺は教育係だけではなくて、通常勤務のシフトも入れられている。ある程度の考慮はあるが……。
「こき使われているよなぁ」
思わずぼやく。
同時に、近くの酒場から人影が飛び出して来た。
すでに軽く酔っているのか、千鳥足だったので軽くぶつかってしまう。
「あ、すみません」
「こちらこそっす」
ん? と酔っ払いへと目を向ける。
そこにいたのは、先日A級冒険者になったミア・クラークだった。
「――!」
俺が何か口にするより早く、A級冒険者は流れるようなスムーズさで背を向けた。
そのまま感心するような、しなやかなフォームで走り去っていく。
流石はA級冒険者。判断能力に優れている。
……さっきまでただの酔っ払いだったとしても。
「待て!?」
一瞬だけ呆気に取られたが、俺も急いで後を追い掛けた。
あのインタビューの件を問い詰めねばならない。
ミアが地面との『斥力』を使用して、まるで滑るように通りを走り抜ける。
人通りが多い道を積極的に選び、姿勢を低くして人ごみに紛れるように逃げていく。
卓越したスキルの制御でジグザグと通行人の合間を縫っていく。
思わず感心するような技量である。
「信じられるか? コイツ、怒られたくないだけなんだぜ?」
「……ナタリーもアリスも同類だよ」
リックの言葉が胸に刺さる。
俺は溜息を吐くと、本腰を入れることにした。
リックを鎖に変えて、近くの屋根に登る。
ミアの姿を目視するなり鎖を伸ばした。
「!」
気が付いたミアが方向を変える。
裏の路地へと入っていく。
? 一本道は不利なはずだが……?
俺は屋根伝いに後を追いながら、容赦なくミアの背中へと鎖を殺到させる。
――唐突にミアが振り向いた。嫌らしく笑みを浮かべる。
――ぺち、とリックを叩く。
「!?」
『対象』を地面からリックへと変えたのだろう。
鎖がミアを避けていく。
「……まあいいや」
俺は呟くと、屋根から地面へと降りる。
路地の出口を塞ぐように。
正面からミアと対峙する。
ミアは楽しそうな笑みを浮かべながら一歩を踏み出そうとして――
「う」
――口元を押さえて路地の脇へと移動した。
酔いが回った逃亡犯を確保した。
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