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殺人鬼転生  作者: 裏道昇
第一部 兄弟
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第一部 46話 『メタルスライム』と『影の精霊』

 お互いに停止したのは数秒にも満たなかった。

 俺達は互いに牽制するようにナイフの応酬を繰り返す。


 俺が斬り払えば、レンは屈みながら右手で俺の喉を突く。

 半身避けて伸びた手首を落とそうとすれば、左手が防いで右手で再び喉を突く。


 今度は上に弾いて下段に払う。

 回転するように避けては低く下げた脳天を貫こうとする。


 それを素直に受けた。

 レンは力比べのような真似はせず、止められたならしょうがないと後ろへ跳ぶ。


 ――ここだ。


 俺が一歩踏み込んだ。

 先ほどは受けたのだ。主導権を奪いたい。


「ふ」


 踏み込みに合わせて順手で払う。


 速く軽い一撃をレンは上半身を後退させるだけで避けた。

 先ほどのやり取りで、こちらの切れ味は織り込み済みだろう。


 流れるように、今度は深く鋭く踏み込んだ。


 ナイフは逆手に持ち替えて、同じ軌道を切り返す。

 退く上半身を二連撃が追い掛けた。


「はは」


 レンは面白そうに笑みを浮かべて、右手を跳ね上げた。

 その手には今までとは別の得物が握られていた。


 ――黒いナイフ。

 ――漆黒のナイフが白銀のナイフを弾く。


 よほど傷んでいたのか、大した手応えもなくレンのナイフは割れるように砕け散った。


 しかし俺のナイフは弾き切れていない。

 レンはさらに左手も跳ね上げる。その手にも黒いナイフ。


 やはり神鋼に触れるとあっさり砕けていった。

 その代償に俺のナイフが空を切る。


 二連撃は二連撃で弾かれていた。


 ――でも強度は低い?


「?」


 徒手空拳となったはずのレンが、何のつもりかお返しとばかりに踏み込んだ。


「――ッ!?」


 その両手には砕いたはずの黒いナイフがあった。

 弾かれたリックでは返しが間に合わず、黒いナイフが俺の首と脇腹へと叩き込まれようと――


「くそ」


 ――バチ、という錬金光。一瞬だけ路地裏が瞬いた。

 ――次の瞬間には神鋼の盾が黒いナイフを再度砕いて、俺の身を守っていた。


 先にカードを切ったのは俺だった。




「!?」


 レンが息を呑む音がした。対応する時間は与えない。

 すぐさま盾から剣山を伸ばす。しかし手応えはない。


「上だ!」


 上だって?

 予想外の声に動揺しつつも上を見る。


 剣山付きの盾を跳び越えるように、レンが黒い壁を足場にして俺の真後ろに降り立った。着地と同時に左右のナイフを交差するように払う。


「くっ」


 見上げていた俺はできる限り低くしゃがんでやり過ごす。

 同時にリックを長槍に変えて、レンの心臓目掛けて穂先を伸ばす。


 そのまま五回の錬金を行った。

 同じ数だけ槍が突く。


 最後はナイフに戻してから、前に転がり背後を見る。


 ここまでやっても、レンは無傷だった。

 思わず毒づきたくなる。


「?」


 ふと、レンの足元が気になった。

 そこだけ月明かりが弱いように思えたのだ。


 ――黒いもの。月明かりが弱まるもの。壁にもナイフにも形を変えるもの。

 ――そうか、影だ。影の精霊?


 ――だとすれば、その足元の影に入ってはいけない。

 ――攻撃か探知か、恐らくは探知。先ほどの槍を避けたカラクリだろう。


 俺は近づかずに一歩引いた。




 攻めて来ない俺を興味深そうにレンは眺めていたが、すぐに距離を詰めてきた。

 足元の影に入ってしまう。


 完全に距離を詰められるより先に、対応する必要がある。

 ナイフを双槍に変える。


 本来ならば路地裏で長柄の武器などありえないだろうが、リックであれば問題はない。その場で形を変えれば良い。


「ッ!」


 何度も繰り返される錬金光が槍の一突きと路地裏を照らしていく。

 まるでフラッシュで切り取られるような光景は全てレンが槍を躱しているシーンだった。


 明らかに回避の動き出しが早い。

 あの影の役割は探知で間違いないだろう。


 きっと、触れた影の形を判別しているのだ。

 だから目視よりも早く正確に動ける。


 槍衾のような俺の突きを全て避けながら、レンは真っ直ぐに迫ってくる。


 右手の黒いナイフを俺の首目掛けて突き込んだ。

 俺は急いで後ろへ大きく跳ぶ――


「屈め! 急げ!」


 ――リックの声に全力で反応する。

 ――全身全霊を以て、その声に従った。


 真上から冷たい風が流れて来た。


 見れば、路地裏の壁から氷の長剣が生えていた。

 両方の壁から合計四本。全てが一点で交差している。


 その一点に、俺の首があるはずだった。

 急いで左右の壁を精査する。壁には四つの魔法陣があった。


 それはつまり。


 ――影で魔法陣を描いたのか!?


 慌ててもう一度後ろへと跳んだ。

 それはどこから魔法が飛んできてもおかしくはないということだ。


「ち、今のが詰めだったんだけどなぁ」


 予想外だと言うように、レンがぼんやりと呟いた。

 いつの間にか、すぐ後ろには路地裏の出口があった。


 同時にばたばたといういくつかの足音が聞こえてきた。


「ご無事ですか!?」


 護衛の騎士団員が到着した。

 その様子を、レンが冷めた目で眺めている。


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