第一部 41話 調査報告書
次の日。午前中に町へ積み荷を届けた俺達は急いで王都へと引き返した。
急いだ甲斐もあって、夕方にはオレンジ色の王都を目にすることができた。
「こうして見ると、時計塔って大きいよな」
王都はケーキを四分割するように一番街から四番街まで分かれているが、その真ん中には一際高い時計塔が建っている。この話をしたら、ナタリーアリスは「ろうそくだ!」と笑っていた。分かりやすいので、俺の中のイメージとして採用している。
「そうですねぇ。
これだけ離れていても良く見えます」
行商人の言葉にミアも頷く。
「ええ、一応は王都の物見も兼ねてますからね。
天辺では騎士団が警戒してるんじゃないっすか?」
「へえ……」
段々と慣れてきた検問を抜ける。
ちらりと目を向けると、いつもの護衛と監視の騎士団員が来ていた。
団長が言っていた通り、王都にいる限りは付いてくれるらしい。
担当者はいつも同じようだ。ミアに転ばされた、強面で大柄な男性団員である。
せっかくなので日課も済ませることにした。
――泣きぼくろがチャーミングだといつも思っています。
――今日も頑張ってください。
最近マイブームとなっている騎士団員さんへの応援を心の中だけで行った。
次は何をほめてあげようか。
「あの……」
唐突に声を掛けられて、振り返る。
知らない顔があった。
「あ。あたしっすね?」
ミアは心当たりがあったらしく「ちょっとだけ行ってきます。動くのはナシっすよ」と去っていった。
その間に俺は行商人と挨拶を交わす。
「今回は本当にありがとうございました。
おかげで助かりましたよぉ」
「いえ、約束していたことなので」
「人助けはしておくものですね」
「それは――その通りですね」
今日までの俺を思い返しても、そう思った。
「では、またどこかで縁があれば」
行商人が笑って見せる。
あまり人相が良いとは言えないが、人の好い笑みだった。
「はい」
行商人が王都の奥へと消えて行った。
しばらく待っていると、ミアが戻ってきた。
「思ったよりも早かったね?」
「急ぎ気味で戻ったんっすよ」
「なんだ、逃げるとでも言うのか?」
冗談めかして言ってやる。
この程度の信頼はあるはずだ。
「いや、またあらぬ疑いでも掛けられてそうで」
「……あらぬ疑いならいいんだけどね。
いつも状況証拠は揃ってるんだよ」
こういう場面ではあまり口を挟まないリックが言った。
「じゃあ、ちゃんと捜査してもらわないとっすね」
「いや、捜査されれば、されるほど立場が悪くなるんだよ。
不思議だろう、無実なんだよ?」
「なら、ちゃんと釈明しないと?」
ミアが笑いを堪えながら言った。
リックは答える。
「いやいや、アッシュの場合は……黙秘一択だと思う」
ミアが噴き出した。
「釈明するほど不利になるっすね!?」
「お前らいい加減にしろ!」
ミアは一通り笑った後、不意に姿勢を正した。
「冒険者組合『スキルマスター』より、連絡です。
調査完了、とのことでした」
懐から封筒を取り出すと、丁寧に両手で差し出す。
調査報告書、と書かれていた。
読んで頂きありがとうございます!
ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。




